「……ヤダ……。」 ぽつん、と、一滴落とされた栄純の声に、長い長い何かから、解放されたように感じた。 「絶対ヤダ。それはヤダ。一也と一緒にいんのに、そんなつまんねーの、ぜってーヤダ!!」 「でもそれじゃ、“兄離れ”出来ねーよ?」 「う…。…でも…!」 「いいの?」 「それでも、そのほうが全然マシだ…!」 ぎゃんぎゃんと、壁の間に挟まって、吠える栄純を見ながら、くすりと笑う。 他のお客さんもいるってーのにね。こいつは。 「じゃあ仕方ねーな。暫くまた、俺も栄純の子守りか。」 「子守り!?」 「だろ?…っつーかさ、栄。」 ん?と一瞬大人しくなった栄純に、周りを指で示してにっこりと微笑んだ。 「丸聴こえ。」 人が少ないといえども、ここはカフェの一角で。 お世辞にも、小さいとは言い難い音量で声を上げる栄純にそう言えば、ぽかん…とした後の栄純の顔が、一気に真っ赤に染まった。 その後、器用にも大パニックになりつつも手荷物をガサガサとかき集めて、店内から一瞬で走り去る。 そんな栄純を追うべく、俺も少し小走りにカフェを後にした。 (…あ、これぜってー、明日の英語、赤点だな。) …でももちろん、俺と栄純の答案は、“似ても似つかない結果”になるんだろーな。 [←] |