愛なの、なんなの、愛なの? |
こうつきしあこ×篠崎屡架 口の上手い奴は、性格が悪い。 そんなことを言えば、世の中のコメンテーターサンや、お笑い芸人サン何かに後ろを取られそうだけど、俺にこんなバカげた自論を植え付けた張本人は、そんなこと微塵も思っちゃいない。 某有名製薬会社、若手のやり手営業マン、御幸一也は、それはもうめっぽう口が上手い。 「…アンタほど営業向きの人間っていねぇよな。」 「うん、俺も天職だと思ってるわ。」 「…性格も、その他もな。」 「それも自覚してまーす。」 …嫌みが通じねぇ…。 ケラケラと笑いながら、薬瓶を棚にしまう俺を目で追いつつ、一見どこのホストだと言われそうなほど、どこか間違ったスーツの着こなし方をしている男が、ソファの腕優雅に足を組む。 その、明らかに空間から浮いた姿を少しずつ見慣れ出した最近の自分にげんなりしつつ、大きなため息をひとつ。 「…御幸さんって、」 「んー?」 「友達いねぇでしょ。」 「まぁ。沢村さん。ひっでぇのー!…でもまぁ、遠からず。」 「やっぱり。そんなオーラある。」 「出来る男ってのは、得てしていつも一匹狼が似合うもんなんです。」 「…そろそろ次の得意先回りの時間ですよー。」 「沢村さん、俺の扱い方手慣れて来たよなぁ。」 「成長を感じるだろ。」 ふふん、と鼻をならせば、うーん、と唸った御幸が、「というか…」とぽつりと呟く。 「むしろ、愛を感じる?」 にへ、と笑う御幸に、一瞬大切な大切な薬の一部を思いっきり投げつけそうになった。 ああいえばこういう。 …本当この人、キライ。 「…アンタの天職、ホストとかの方なんじゃないすか。」 「えー?顔がいいから?」 「…わぁ。すっげぇムカツク…!」 実際に顔がいいのがムカつくんじゃなくて、それをちゃっかり自覚してるところがムカつく。 これ以上構ってられるかと、薬品棚に向き直って黙々と作業をこなす。出来る男ってのは、どんな妨害にも負けない精神力を持ってるもんだ。 「ねー、沢村さーん。」 「うわっ!!びっくりした!!」 真後ろから聴こえて来た低音の美声に肩をビクつかせる。 いや、美声だから驚いたんじゃないぞ。決して。いきなりだったからだ!! 「アンタ何勝手にカウンターの中に入って来てんの!?部外者は立ち入り禁止!」 「俺、関係者。」 「薬剤師意外立ち入り禁止!!」 「ちぇー、ケチぃー。」 ビシッ、と出入り口を指さして、出て行け、と示す俺の目の前で、このムカツクエセホストみたいな営業マンは肩を竦めると、大げさなため息をついた。 「まぁ、ほんとにそろそろ時間だし。」 「デスヨネー。ドウゾアチラカラオカエリクダサイ。」 「愛がないよ、沢村さん。」 「は、」 影が覆いかぶさって来る。 何、と理解する前に唇に柔らかい感触。 ―――――柔らかい感触? 「ぎゃーーーっ!!!!」 「はっはっは、元気出た。よし、もうひとがんばり行って来よう。」 じゃあね、沢村さん愛してるよ、なんて宇宙語を発しながら出ていった。 「も、もう二度と地球に帰ってくんな、この大馬鹿ヤローー!!」 絶叫は厚いガラス扉に弾かれて、散った。 [←] |