【1mg】こうつきしあこ 【KING GANG】ゴンゾウ 【嘘と沈黙のリボルバー】篠崎屡架 【確かに。】蕗 【lluvia】まるり 冬が寒いものだというのは、もはや言うまでもなく当たり前のことであるのだけれど…。 そんなことを、寮の部屋から一歩外に出た場所で少しだけ薄暗く曇った空をぼんやりと見上げて思いながら、沢村は一つため息をついた。 冬色独特の、どこか重量を感じさせるような灰色の空の下、纏う空気は冷たく、吸い込んだ喉から喉を凍らせて体内に流れていく。 そんな肌で感じる空気は完全に寒い冬真っ盛りの12月のもので間違いないのに。 (…雪、降んねーんだもんなぁ。) そう心の中だけで少しごちて、また一つため息を。 「…浮かない顔してんな。」 けれどその瞬間かけられた一言に、沢村は空へ映していた視線をゆっくりと声のした方に向けた。 「何、寒いの苦手なわけ?地元の方がよっぽど寒いんじゃねえの?」 同じく空に向かっていた視線を沢村に戻し、壁に凭れたままの御幸がニヤリと口の端を上げる。 この寒いのに何してんだ、といいかけて、自分の行動もまた同じ指摘を受けるものだと気付いて口をつぐんだ。 「なんかさ。12月なのに」 「うん?」 同じ日本、大して距離があるわけでもないのに、温度だって立派な冬のものなのに。 「雪の匂いがしねえんだ」 ポツリとそうつぶやいた沢村が曇天をまた振り仰ぐ。すん、と思い切り吸い込んだ空気は、やはりその気配を伝えてはくれなかった。 「雪の匂い?」 御幸はまた顔を空に向けた沢村へ視線を合わせたまま、小さく呟いた。 沢村は聞こえているのかいないのか、御幸の方を向こうとはしない。 壁から身を起こした御幸は一歩沢村に近付く。 (匂い、ねぇ?雪って結局は水じゃん) そう思う何の面白味も含まない自分の心の一部の一方で、言葉が足りなくて訳のわからないことを言うが嘘はつかない沢村のこの言葉に興味を持ったのも御幸の心。 沢村曰く今は雪の匂いはしないそうだから、匂いをかいだところで意味はないのだろう。 だったらそれがどんなものか沢村に説明させるのもおもしろいかも、と悪戯めいた気持ちが沸く。 だが、その前に。 「とりあえずな、沢村」 「ん…あ?何だよ離せよ」 「こんなときにそんな薄着で外に出るんじゃねえよ。ほら、入れ」 「ちょっ、コラ!なに勝手に人の部屋開けてんだ!おい、御幸!」 「まぁまぁ、話は中でな」 まぁまぁ、と手首を掴まれたまま強引に促される沢村は青心寮で宛がわれている自室へと引っ張り込まれた。 御幸はまるで自室のよう玄関口で乱暴に靴を脱ぎさっさと温かい部屋の中へと入って行ってしまう。 そんな彼を見て沢村はぶちぶち文句を垂れたが、こんなところで何を言ったってきっとこの男には何も通じないし勝てないのだ…と、渋々彼に倣い靴を脱いだ。 5号室には誰も居なかった。同室のメンバーはもうすぐ行われる期末テストの勉強会にでも行っているのだろうか。(難しい顔をしながらも勉強机に向かっているところを何度も見ている) ヒーターのスイッチを付けた御幸の背をなんとなしに見詰め、そういえば自分はあまり御幸がテスト勉強をしている姿を見たことがない、と不意に思い当る。 彼がどういった進路を考えているかは知らないけれど。もうすぐ2年も終わりを迎えるこの時期にこれほど悠長に構えていて良いものなのか。(俺はそういうのまだ全然わかんねぇけど…)きっと良いものではないだろう。 相変わらず読めない人物だ、と何故か鼻歌を歌い出した御幸に「なぁ、」と声を掛けた。 「あ?何?」 「あんた…、」 進路どうするの?と聞きかけて沢村は口を噤んだ。 何故だかそういう話をするのは緊張する。(緊張?何が?何で?御幸の進路が?俺達のこれからが?)途中で言葉を止めて俯いた沢村に御幸は怪訝な表情を浮かべるも特に追求しなかった。分かっているからだ。いつも眉尻をあげてる沢村がこういう表情をするときは何か不安を抱えてるときだった。 だから御幸は何も言わずに沢村が口を開くのを待つ。沢村が何を言おうがその不安を取り除いてやれる自信が御幸にはあった。 言葉下手である(けれど決して馬鹿だと認めているわけではない。ただ少し言葉を選ぶのが苦手だからストレートな言葉しか出てこないだけだ、と主張してみたりして。)ということは何となく自分でも認識しているけれど、それ以上に隠し事が苦手だということも自負している。 うー…とか、あー…とか、意味を為さない言葉だけが空気と共に口から漏れて、段々と温もりを帯びてじわじわ温かくなってきた部屋の中に落ちては消えていく。 そんな挙動不審な沢村に対して、御幸は何も言わず、ただゆっくりと体を動かして、ヒーターの前に座り込んだ。 「寒いだろ?」 何してんの。 …そう声をかけられるけれど、まるで先ほど吸い込んだ冷気に体の芯から冷やされたみたいに固まった沢村の体はその場からピクリとも動かなかった。 そんな沢村に、御幸は一つ苦笑を落として。 「…なぁ沢村、俺だって、寒いんだけど。」 答えに迷って、それが行動にまで露呈して一人静かに慌てている沢村に向かって、御幸はまるでそんな沢村の心の葛藤を紐解くような穏やかな笑みを浮かべながら、手招きを一つ。 警戒心の強い猫のように少しずつ、少しずつ。おずおずと伸びて来た右腕を捉えて少し強引に引いてやれば、冷気にさらされた薄着の体はいつもの子供体温が嘘みたいに氷のようだ。 予想の上をいくその冷たさに御幸は内心眉をしかめながら、勢い余って体勢を崩した沢村を背中から腕の中に抱き込んだ。 「離せよ!」 「嫌。言っただろ、俺が寒いんだってば」 条件反射で暴れる相手を難なく閉じ込め子供をあやすように揺すってやれば、徐々に力の抜け落ちていく体はそれに合わせて温もりを取り戻していく。 同時に赤みを増していく頬や耳が愛しくて、まだ振り向かない目の前の旋毛の上に御幸はそっと頬を寄せた。 抱きかかえられて初めて沢村は自分の体が冷えていることに気付いた。 たいていは御幸の方が体温が低くて、子供体温とからかわれることばかりだというのに。 でも、今日ばかりは暖かい腕の中でおとなしくなった。 一方、ふわふわの真っ黒い髪に頬を寄せた御幸は内心で、さて、と考える。どうも沢村は言いたいことがあるらしい。まだその内容までは見当をつけていないけれど、物言いたげな様子は見ていれば手にとるようにわかった。 もうひとつわかることは、無理やり口を割ろうとしたら余計に意地を張って喋ろうとしないだろうということ。 しばらく様子を見るのもひとつの手だが、御幸はいつになくセンチメンタルに陥ってる(ように思える)恋人を放っておける男ではない。 ただぬくぬくとヒーターの前で抱きしめ、抱きしめられた二人の周りで静かに時間が過ぎる。―――先に動いたのは御幸。沢村の体に回していた片腕を外して自分のポケットをまさぐると、ころりと茶褐色の小さな塊を取り出した。 「沢村」 「え?あ…」 「はい、あーん」 目の前に突然現れたそれに沢村は大きな目を瞬かせる。 どうしよう、と悩む彼に背後の男はもう一度、あーんして、と囁く。 それに操られるようにそろりそろりと薄く開かれた唇に、甘いチョコレートが触れて、口内に優しく押し込まれた。 途端、口の中に広がったカカオの味。甘味類が好物の沢村からしてもそのチョコレートは馬鹿に甘ったるく感じた。 (てゆーかなんでこんなもん持ってんの…この人…) もごもごと口内で右や左に遊ばせながら少しばかりムッとする。 彼は甘いものがあまり得意ではない。時折入甘い物の差し入れは一切手を付けないし、彼は生きていく中で必要最低限の糖分が摂れれば良い、と言っていたのを思い出した。 …それではなぜ、この男のポケットにチョコレートが一つ入っていたと言うのだろう? 「…アンタ、甘いもん嫌いじゃなかったの」 「うん?…あぁ、それは今日女の子から貰ったんだ。お前甘いもん好きだろ?だからやろうと思ってとっておいた」 「…っ……ふぅん…あっそ!」 「あっそ、って…子供かよ。はは!」 「っ…うるせーな!」 ふてくされたようそっぽを向いてしまった沢村を見て御幸は心の中で笑った。 中々素直じゃない恋人を持つと苦労する。 だが、彼の頬は薄く朱を引いたように赤くなっていて、なんだかそのギャップがひどく可愛く思えた。 (さて、白状してもらおうかな…?) 口の中のチョコレートはもう溶け消えたはずである。 甘い飴(チョコレートではあるが)のあとは鞭だよ。なんて、僅かに好色くさい笑みをこっそり隠した御幸は腕の中の恋人を逃がさぬようギュ、と抱き締めてやった。 沢村は御幸の腕の中で先ほどまで頭をもたげていた不安がまるで口の中のチョコレートと一緒に溶けてしまったんじゃないかと思うくらい安心している自分に気がついた。 御幸は甘い。 いつだって自分には甘い。 御幸の言う『鞭』だって本当はとても甘いのだ。 (なーんか、アホらしくなってきたな…。) 先ほどまでの自分の後ろ向きの思考が。 これだけべたべたに甘やかされて『不安』だとか。 「アホらし。」 「あ?何がよ。」 独り言に御幸が反応して、沢村は御幸の方へと顔をむけて笑った。 「なーんでもね!」 「あ、そ?」 御幸ももうこれ以上沢村の心情の吐露を望まなかった。 いつもの、強気な表情に戻っていたからだ。 「なぁ、雪の匂いの話だけど。」 「へ?雪?」 御幸の突然の話題の変換に沢村が怪訝な顔をする。 「お前の地元では雪の匂いがするの?」 「するぞ!キンとしてて、俺は好きだ!」 「じゃあさ、俺が卒業したら一緒にお前の地元行きてぇな。」 俺も雪の匂い感じてぇな。御幸の言葉に沢村は2回瞬きをする。 『卒業したら』『一緒に』 本当に、今目の前にいる男には自分の考えなど筒抜けなのかもしれない。 少し悔しくて、でも嬉しくて沢村は御幸の首筋にしがみ付いた。 今自分から唇を合わせたら、きっと口内に残ってるチョコの甘さでこの男は少し顔を顰めるんだろう。 そんな御幸の表情を想像して、沢村は見えないよう小さく笑ってから目の前の唇に噛み付いた。 *** こちらは、こうつきしあこ(1mg)、ゴンゾウ(KING GANG)、篠崎屡架(嘘と沈黙のリボルバー)、蕗(確かに。)、まるり(lluvia)によるリレー小説チャットのログ小説になります。 この豪華メンツを…一体どうしたら…! ひーーー私なんかが混ざっててあああ…!と終始土下座しつつも…本当に楽しかったです(´;ω;`)! それはもう夢の時間でした。あああ幸せだった…! 至福の時間でした。もう前の日から楽しみで楽しみで…! 当日は夢のようでしたよ。本当に!折角ログを取っていたので、女神さまに許可を得て掲載することとなりました(⊃∀`* ) 宝物…!!! チャットなので、一行文なんですが、開くとこんな素晴らしい小説になったのですよ…なんて女神…!!そして、改行以外の修正は一切加えていないのですが…うああ皆素晴らしかったです。 また是非お相手して頂けると嬉しいです!次はね、少しでも自分の仕事が出来るように頑張る…!本読むぞー!← こうつきさん、ゴンゾウさん、蕗さん、まるりさん、本当にありがとうございました! これからも不束者ですが宜しくお願いします! 覗きに来て下さった皆様もありがとうございました!少しでも楽しんで頂けていたら嬉しいです。 [←] |