初春の隣は何をする人ぞ | ナノ

初春の隣は何をする人ぞ



正直、最初から、教育実習なんてめんどくせー!と思ってた。

元々、学科の関係で教免が取れるカリキュラムもあるっていうから保険兼ねて取り始めた教職だったけど、卒業単位取るのだって精一杯だった俺が、教職関連の科目まで履修するなんて甚だ無謀なことだったし、何度も途中であきらめそうになった。
その上2年生の時に道徳教育法落とした時には、もうこれを機に本気でやめてやると思ったもんだけど(結局3年の時に友達の助けもあってなんとか履修出来た)、あれよあれよといってる間にいつの間にか教育実習に行けるところまで来てて、俺が2週間の日程で、なんとか頼みこんで母校である青道高校に教育実習生として受け入れて貰えることになったのが確か半年くらい前。


そんな苦悩を乗り越え(主に自分のせい)、やっぱりめんどくせーなぁって気持ちもどこか引きずりながら、実際に実習が開始してみれば、なんてことだ。



めんどくせーどころか、実習開始3日目にして、既にもうやめたくて仕方が無い。



別に、授業が上手くいかないわけでもなければ、生徒との間に問題があるわけでも、ましてや今時はやりのモンスターペアレントの被害を受けたわけでもない。
はぁ…と一つため息を付いたら、手をひっかけた屋上の安っぽいフェンスがカシャンと軽い音を立てた。


「校内は禁煙ですよー。沢村せーんせー。」


ビクンッ。
大きく体が跳ねた。驚いて振り返れば、さっき俺が通ってきたはずの入口に手をかけてにっこり微笑む学生服姿の男子生徒が、一人。
人の良さそうな笑みを浮かべながら、腕を組んでこっちを見て来る少年は、見た感じとても爽やかな好青年といった感じだが、見た目に騙されちゃダメなんだ。こいつは、だってこいつは。


「…俺は煙草は吸いません。」
「そーなの?まぁでも確かに先生って、酒も煙草もレジで止められそうなイメージ。」
「最近じゃそういう規制も厳しくなってるから仕方ね…、…ないんです!」
「あ、やっぱりそーなんだ。」
「…、」


クスクス笑いながら、人の気にしてることにズカズカ踏みこんで、悪びれる様子も無くそんなことを言ってのける。
学生服に身を包んで、純粋そう(かどうかは分かんねぇけど)な顔をした、悪魔なんだ、こいつは!

悪魔…否、俺の受け持ったクラスの出席番号36番、御幸一也。
教育実習開始1日目になぜか目をつけられ、それ以来俺に懐いて来る問題児。


「お、屋上は、」
「立ち入り禁止、は聞けないですよ?だってほら、沢村先生だって現に今いるわけだし。」
「俺は用があって…。」
「煙草吸うわけでもないのに屋上に?」
「…ぐ…。」
「駄目ですよー、先生。人に言うこと聞かせたいなら、まずは自分が見本にならないと。」


ね?なんて首を傾げながら、ひょこひょこと屋上に軽い足取りで入って来た御幸は、俺の横にぴたりと止まると、両手でフェンスをがしゃんと掴んで下を見下ろした。
たっけーなー、と呟く様子はどこからどう見ても可愛い高校生。
…だけど俺はあんまりこいつのことが好きじゃない。
つーかぶっちゃければ苦手だ。

なんか子供っぽく無くて、妙に大人な言動もそうだけど、まるで人のこと見透かしたような目が、初めて見た時からあんまり好きじゃなかった。
こんなこと生徒に思うなんて教師失格なのかもしれないけど、所詮教育実習中の学生だし、元々すげぇ教師になりたいってわけでもねーし…。

御幸は、何だか不思議なやつで、俺のどこがいいのか付き纏ってきては、こうしてすきあらば遠慮なく俺に絡んで来る。
他の先生に聞けば、「優秀なやつですよ。」って言われるばっかりで、確かに授業見てても成績は良いみたいだし、野球部のキャプテンもしてるって聞いたから、運動も出来るから、その言葉はあってるんだろう、けど。

(なーんか、…“子供っぽくねぇ”んだよなぁ…。)

勘だけど。もう完全にただの俺の感覚だけど。
お前はいつまで経っても子供のままだな、とこの年で言われる俺とは正反対。
つーか、もしかしたら最近の高校生ってませてるっていうし、こんなもんなのか…?
けど、他の生徒と話してても別にそこまでジェネレーションギャップ感じねぇし、つーかまだ俺もそこまで年じゃねーし。

御幸といるとなんかそんなことをぐるぐる考えちまうから、出来ればあんまり接触ご遠慮願いたいと思ってるのに、それを知ってか知らずか、御幸の方はこれでもかってくらい懐いて来るから、もうどうすればいいのやら。
あんまり話したくねーなーって思ってんのに、実習3日目にして、俺の生徒との会話率ナンバーワンは、間違いなく御幸だ。


「……俺になんか用ですか。」
「用が無いと話しかけちゃダメなんですか。」
「駄目ってわけじゃねぇけど…お前休憩ごとに俺のとこ来るじゃん…。」
「だって沢村先生とお話したくて。」
「休憩はもっと有意義に、いろんな奴らと過ごせよ…。」
「えー…じゃあ、先生、進路の相談乗って下さい。」
「じゃあってなんだ、じゃあって!からかうなよな、大人を…。」
「からかってねーのになー。つーか大人って言っても5歳しか違わねぇじゃん。小学校だったら一緒だし。」
「そう言う問題じゃありません。っていうか敬語!」
「ハーイ、沢村センセー。」


真面目に聞いてるのか聞いて無いのか。…絶対聞いてねぇな。
へらへら笑いながら、御幸が覗きこんでたフェンスに背を向ける。背もたれれば、カシャンとまた軽い音が鳴った。


「先生、次の国語も授業すんの?」
「いや、今日はサポート。」
「ふうん。残念。先生の授業おもしれーのにな。」
「おもしろい?」


なんだ、たまには可愛いこと言うじゃん。
授業褒められることなんかねーから、ちょっと不覚にも今嬉しいと思ったぞ…御幸のくせに…。


「そ。なんかこう、“一生懸命です!”って感じがして。」
「…もしかしてバカにしてんの?」
「ちげーよ、褒めてるんですよ。」
「なー…なんて御幸って俺にばっか、その、…なんか、いろいろ言ってくんの?」
「そりゃ、沢村先生がおもしれーから。」
「…俺教育実習やめたくなってきた。」
「えー、やめたら俺大学まで行っちゃいますよ。」


拗ねたように言う御幸の言葉に、なんかこいつだったらマジでしそうで怖いなとか思うあたりどうなんだろう。
授業の合間の10分休憩、朝一、昼休み、放課後。
御幸が俺に話しかけてこないのなんて、今や体育の前の時間の無い時くらいだ。…一体俺の何がいいのやら。からかいたいなら他をあたってくれとあしらってしまいたいけど、何せ相手は大事な生徒。手荒なことして学校とか大学とかに迷惑かけるのだけは避けたい俺の理性が何とかそれを留めている状態。
元々俺は人に気遣うのはあんまり得意じゃねぇから、いろいろ貯まってそろそろ限界も近い。…教育実習、まだあと7日もあるとか考えたら頭痛くなりそう。


「…なんでお前、そこまで俺にこだわんの…。」
「そりゃ先生が面白いから。」
「遊ぶなよ、俺なんて所詮まだ学生なんだからな。モラトリアムなんだからな。」
「知ってる知ってる。可愛いよな、先生って。」
「かわっ…!?」


20超えた男に言うセリフじゃねぇぞ、それ。


「そ。だって俺、授業とか先生ってぶっちゃけ嫌いだけど、沢村先生だけは大好きだし。」


ぱっと横を向いたら、こっちを見て笑ってた御幸と目があった。
眼鏡の奥の深い色の瞳が細められて、俺が苦手な目で俺のことを見る。
…やっぱ苦手だ、こいつ。


「…そりゃ、どーも…。」


生徒に好かれるのはもちろん悪い気しねぇけど、素直に喜んどくべきところだろうかこれ。
うーん…と自分の中でいろいろと押し問答していると、横の御幸が動いたのか、またフェンスが音を立てた。
そういえばそろそろ、休憩時間も終わる頃だ。
遅刻する前に戻れよ、と一応教師見習いらしいことを言おうとする前に、急にこっちを向く御幸の顔が真面目一色に色を変えて、ドキリとした。

…なに?



「ところでさ、沢村先生。やっぱり一つ真面目に進路相談してもいい?」
「…俺に?」
「そう、沢村先生にだから、聞きたいんですけど。」
「まぁ…俺に答えられることなら…。」


ぼそぼそと歯切れ悪い言葉の言葉尻が窄む。
けれど俺の言葉に、ふっと珍しく真顔だった御幸の顔が緩んだから、少しだけほっとする。
が、次の瞬間落とされた言葉に、



「沢村先生は、17歳健全男子高校生は、恋愛対象としてありですか?」



――思わず、今度は俺の顔から表情が消えた。


「は、」
「あ、ちなみに冗談じゃ無いんで、その辺は覚えておいてくださいね。」
「は?ちょ、なん…、」
「ほら先生、大人なんでしょ?…きちんと教えてくださいよ。俺に。」


ね、と、さっきと同じように同意を求められるけど、いきなりのことに意味が分からない頭は正常に動かない。
けれどそんな頭の片隅で、とにかく一つだけ分かるのは。



「結構俺って将来有望物件だと思うよ、先生?」



…やっぱりすっげぇめんどくさいことになりそうだ、ってこと。





俺の教育実習生活3日目。まだまだスタート地点を出たばかりのその日は。
そこまで勘が鋭い方ではないけれど、今回ばかりは悪い予感がアタリだと気付いた日。


何か知らねぇけど、突然生徒(男)から告白された日。








***
いつもお世話になっている、かりん様に捧げます、教育実習生な沢村さんです!
ツイッターにてかりん様の素敵なお言葉に萌え転がって、ついうっかり書いてしまったのですが、御幸のなんてかわいらしくないこと!こんな高校生嫌だよ…!
銃弾スケボで避けまくる、某体は子供頭脳は大人な名探偵小学生並みに嫌だよ…(;∀:)
私が書くととっても残念なことになってしまったのですが、教育実習生でしかも年の差ありで、御幸年下で制服で…って、考えれば考えるほど萌えると思うのです(キリッ
でもいろいろと本気で残念なので、いつかリベンジしたい…ぐすん。

かりん様、素敵な設定の使用許可ありがとうございました^^!
えへへ、いつもお世話になっています//大好きです!




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