愛し合うことの副産物 | ナノ

愛し合うことの副産物



ずるり、と体の中から引きずられるような感覚。

小さく息をつめれば、それに気付いた御幸が、宥めるみたいにその掌全体で俺の頭を撫でつけた。
反射的に震えた体を腕の中に抱きしめられて、そんなことしなくても、って叫ぼうとした声は掠れて音に鳴らない。まるで宝物にするみたいに大事に大事に扱われると、なんだか背中がかゆくなって居心地が悪い。
いつだって意地悪で、俺の言うことなんかまったくもって聞いてくれないのに、こういう時の御幸は妙に優しくて、しかもそれが全然恩着せがましくない…なんていうかこう、自然と全力で労わってくれるから、妙に気恥しくなるのだ。

そんなことを思いながら、互いの乱れた呼吸が混じって湿った熱い空気の中に身を委ねた。

(女じゃねぇんだから、そんなに壊れものみてぇにしてもらわなくてもいいのに。)

声にならない抗議は言葉の中で。
けれど顔に出ていたのか、俺の頭を撫でていた御幸が小さく首を傾げて俺の名前を呼ぶ。「沢村、?」疑問混じりの声が少し見上げた高いところから落ちてきた。


「…熱ぃ…。」
「それはヨかった、って意味でいい?」
「違ぇっつーの、」
「ふうん。さっきまであんなに可愛かったのに。」
「お前こそ熱に浮かされて幻影でも見てたんじゃねーの。」


口からポンポン出てくる憎まれ口。御幸の言うとおり、さっきまで部屋の中に響いていたのはそれこそ言葉にするのも少し憚られるような音声ばかりだったのだけれど、一度現実に引っ張られてクリアになった意識にはちょっと刺激も羞恥も強すぎて、誤魔化すことしか出来ない。
そんな俺の反応も慣れたものな御幸は、特に何か言うでもなく少しだけ口角をやんわりと上げるだけ。

背中に感じるベッドの柔らかさに、包まれるように委ねた全身で息を吐くと、今まで天井との間を妨げて居た御幸の体が起き上がる。軽く乱れた髪を片手で掻き直す仕草が妙に様になっていて、小さく舌打ちをしたら、拾われた。


「なんだよ、どうした?」
「…なんかむかついた。」
「何に。」
「顔に。」
「身も蓋もねーな。」


着ていた服を上半身だけ取っ払っていた御幸の、微妙に汗ばんだ肌がぼんやりと薄暗い室内の中でも目視出来てしまったから、なんだかその生々しさを見て居られなくなって、気付かれないように目を逸らす。
暗くてよかった、と思ったけれど、テレビの横にある安っぽい長いカーテンのかかった窓からは少しだけ光が漏れていて、ぼんやりと浮かぶシルエットは逆に妙に雰囲気がある。既に暗闇に慣れていた瞳を恨んだ。

ゆっくりしてる時間は無いよなぁ、と、布団の中で、御幸とは違って完全に何も身に纏っていない自分の姿を思い出して小さく息をついた。


「…着替える。」
「もう?起きれんの?」
「だって早くしねぇと、倉持先輩とか帰って来るじゃん…。」
「まぁ、まだ平気だろ。」
「なんで。」
「なんとなく。」
「お前の何となくは信用できないから却下。」


布団の中で体をもぞもぞ動かすと、微かに下半身に走る鈍痛と気だるさに眉を寄せる。このままベッドの誘惑に誘われるまま眠ってしまいたいけれど、その前にいろいろと処理が居る。めんどくせーな、と思うけど、原因の片棒を自分が担いでるわけだから何とも言えない。が、とりあえずいつも全部御幸のせいにしておくのは忘れずに。

カチャッと硬い金属音が響いて、御幸が片手で器用に寛げたズボンを正してベルトのバックルに指を引っかけるのを横目に、一度小さく伸びをする。
ん、と腕を差し出すと、やれやれと肩をすくめた御幸がその手をぐいっと引っ張る。その反動に身を任せると、御幸の胸にボスッとダイブした。

そのまま、やっぱ起きるの面倒、と思ってぐってりした俺に、「おいおい大丈夫かよ、」なんて他人事みたいな声が降ってきて、返事変わりにぐりぐりと頭を押し付けたら、首元に埋めた髪がくすぐったいのか、御幸が小さく身を捩った。


「大丈夫じゃねーし。腰いてぇし。」
「なら寝てればいいのに。」
「裸で寝る趣味があるなんて誤解生みたくないんで。」
「まぁ、倉持はその辺“敏い”し、問題ねぇ気がするけども。」
「余計ヤダ。」
「言うと思った。」


ははっと軽く笑った御幸の吐息が耳を擽る。
じわじわとくっついたところから薄い肌一枚越しの温度が伝わってきて、首にある御幸の脈がトクトクと耳に響く。「誘うなよ、」苦笑交じりに聞こえたけれど、「がっつくなよ、」そう返したら心当たりはあるのか、さっきまで俺を好き勝手してた腕が柔らかく背中に回った。


首に埋めた顔を動かして、視界いっぱいに広がる肩に小さく舌を這わせたら、ちょっとだけしょっぱい。


「やっぱ誘ってんだろ、お前…。」
「…自惚れないでクダサーイ。」


仕返しとばかりに同じように今度は俺の肩に御幸が顔を埋める。肌を擽る髪の毛の感触がくすぐったくて、逃げようとしたら回っていた腕に縫いとめられた。
調子に乗った御幸の舌が、やっぱり俺がさっきしたのと同じように俺の首の皮の薄い部分を突くから、危うく声を上げそうになって額まで首元にくっつけて耐える。くそう、何で結局俺の方が負けてんだよ、とエスカレートしそうになる御幸の髪の毛を手探りで探して引っ張ると、抗議の声が上がった。


「いってェし。」
「調子に乗んな、バーカ。」
「先に仕掛けたの、お前じゃん。」
「俺のはただ戯れてただけだろ。」
「俺もそのつもりだけど。」
「アンタのはいちいちエロいんだよ…。」
「感じちゃった?」
「黙れ変態。」


はっは、と軽く笑う度にくすぐったくてちょっとだけ上半身を捻ったら、漸く御幸の体が離れていく。隙間が出来ると少し温度が下がった。…もう少しだけ、抱きついてやっててもよかったか。(だって寒いし。)

でもいい加減後始末しねぇとな、とくすぐったいくらいに妙に甘ったるいピロートークを振り切るように頭を振る。


「なぁ沢村、さっきのって舐めただけ?」
「…そうだけど?」
「なんだ。残念。」
「は?」
「珍しく、キスマークの一つでも残してくれたのかとちょっと期待したのに。」
「ぶっ、」


そんな、話の流れなんて全く関係ない発言をそれはもうごく自然にナチュラルに混ぜてくるもんだから、あまりにもケロリと言われた言葉に思わず噴き出した。
首を手で擦る御幸は相当残念そうで、暗がりに慣れてきた目には、その表情がくっきりと映る。


「つ、けるか馬鹿!!!」


大体、体育どころか、着替えと風呂が共同な生活の中でそんな危ないこと出来るはずがない。…いや、もしそうじゃなくても絶対しねぇけど。
えー…なんて不満の声を唇の先に乗っける御幸を勢いよく睨んだ。


「いいじゃん。ちょっとくらい。」
「無理!ぜってぇ無理!!大体お前、どうやって言い訳すんだよ…。」
「別に?そのまま?包み隠さず、オープンに?」
「………5日くらい風呂入らずに、1日着替えなくて済むようにユニフォームで過ごしてくれんなら考えるだけ考えてやる。」
「………俺、相当おかしな人になるんですが。それ。」
「じゃあ諦めろ。」
「鬼。」


愛が痛い、なんて。

(別に、相手が俺だなんて、…一部の奴しかわかんねぇだろうけど、も!)

けどその一部の奴にああだこうだ言われるのが嫌なので。



不満そうに言う御幸が、それでも別に縋ること無くあっけらかんとした風に一度腕を伸ばして全身で伸びをした。窓から差し込む光が太くなっていて、本気で起きないといけないということを、悟る。

御幸がベッドから降りようと動くと、ギシリと安っぽい音を立てて軋んだ。布団がずれて、露わになった肌の上を寒さが走る。
パチン、と音がして一瞬目が眩んだ。抜け出た御幸が部屋の電気を付けて、くあっと欠伸を一つ。それにつられるように俺も大きく口を開けた。


「大体さ、今更だと思うんだけど。」


は?とベッドから片足出した俺の間抜け声を御幸の声が重なる。


「俺、お前のせいでいろいろ言われまくってるし。」
「…は?」


同じ言葉、二度目。


「お前いっつも痕残すから。」
「…は?」


あれ…?三度目。


「…き、キスマークなんて、付けた覚え…、」
「ああ、違う違う。んな器用なモンお前につけられると思ってねーし。」
「じゃあ、」
「だってお前、苦しくなるといっつも背中に爪立てるじゃん。」
「……え、」
「あれ?もしかして気付いてなかった?」


ぽかんと口を開けて(ベッドから降りようとしてた場面だったから妙に間抜けな絵面だと思う)御幸を見る俺に、きょとんとした顔の御幸が爆弾を落とす。「お前の指傷つけたらまずいと思っていつも大変なんだぜこれでも、」しみじみと言う御幸の声も、右から左に通りぬけて壁にぶつかって落ちた。

明るい部屋で、上着を拾って御幸が、俺に背を向けてばさりとシャツを頭から被る。
ぺらっと捲られた背中に見えたの、は、


(ぎゃ、あああああああ!!!)


幾重もの蚯蚓腫れのような赤い線が背筋に沿ってくっきりと走っていて、開いていた口が更に倍ほど重力に従って垂れさがるかと思った。
そんで、人間本気で驚いた時ほど、悲鳴は発せられないらしい。


「これでお前が爪伸びてたらと思うとぞっとするから、ケアはきちんとしろよなー。」
「な、な、な…、」
「まぁこれも男の名誉の勲章だからいいけど。倉持辺りうっせぇんだよ。」
「あ、あ、あ…、」
「…沢村?」


初めて知った事実が、俺から日本語を奪う。
元々達者じゃない口だけど、今はもう吠えられない分だけ動物よりも役立たずな、口。


(じゃあ、みんな、知って、)


シャツに隠された背中に残る赤い痕を思い返して、俺の顔は逆に真っ青になった。




「もうやだ絶対アンタとやんねえええええ!!!」




高速逆再生で布団にもぐりこんだ俺を御幸の驚いた声が追って来ても、その日の俺は布団の山から下山することは無く。

後から御幸に、5日間風呂禁止と毎日ユニフォーム登校命令を真顔で出したら、「じゃあ今度から上に乗ってくれたらいいと思う。」と真顔で返された時、コイツとの付き合いをちょっと本気で考えた。










***
お年玉突発企画ラストの5本目です(´∀`*)!!!
まずはじめに!本当に本当に遅くなってしまって申し訳ありませんでした…!新年あけまして…、え、もう明けまくりですけどもうすぐバレンタインデーですけどとかまさかそんな…!
三が日、せめて松の内、と思っていた私は爆発すべきですね…。

「御沢でキスマークか背中のひっかき傷ネタ」。
どっちにしよう〜…と悩んでいたのですが、結局両方無理やり突っ込んでみましt(…
実は最初、肩の歯型と空目していたので、その辺も織り交ぜつつ…!
なんだか高校生の二人のくせに、妙にアダルト臭漂う御沢になってしまったのは一体どうしてどこからこうなったのか…(真顔)←最初からじゃないだろうか
注意書きがいるかどうか迷ったのですが、でも苦手な方もいらっしゃうるやも…!と思って、とりあえずワンクッションだけおいておきました。
でもクッション置くほどでもないのでちょっと暫く悩んだとか←

いつもお世話になっている愛しい紫桜三咲様からリクエスト頂きました!
突然の事で、しかも短い期間だったのにご参加下さって…!
ほろり涙が止まりません。ありがとうございますありがとうございます…!
妙に阿呆な仕上がりになってしまって申し訳ないです…!

素敵なリクエストにはすはすしました。顔がにやけっぱなし…!
それがうまく具現化出来ないのは能力不足ですね…><自業自得なので精進します2011年…!

この度は本当にリクエストありがとうございました!
本当に大好きです(⊃∀`* )ふがいないサイトでは御座いますが、2011年もどうぞよろしくお願いします!



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