乙女ア・ラ・モード | ナノ

乙女ア・ラ・モード



小さい頃から、遊ぶのはいつも男の子と一緒。
同年代の女の子がお人形片手にごっこ遊びをする変わりに、グローブ片手に白球を追いかける日々。
元気があっていいね、って笑う大人もいれば、女の子なのに…と眉をひそめる他人もいたっけ。
気付いた時には、自分が周りから少しだけ浮いてたけれど、それでもやっぱり座っていいこにしてるより、空の下を駆け回ってるほうが性に合ってたし、それで良いと思ってた。
だから、その時は、“女の子なのに”なんて、他人からの評価は全然気にならなくて。
野球だって、走るのだって、力だって、男の子になんか負けたりしなかったから。
栄純には勝てねーよ、そんな言葉を、何度聞いたことか。

けど、ある日気付いた。
段々と男の子との間に隙間が出来て、走るのはまだ少し俺の方が早かったけど、腕相撲で初めて、今まで負けたことのない相手に負けた。
野球の練習には混ぜて貰えたけど、試合には出して貰えなくなった。理由は簡単。俺が“女だから”。

自分のやりたいように出来なくなって、周りの目も変わって。

(…俺は女の子扱いなんて、望んでねぇのに…。)

望まない変化を受け入れられるほど、大人になれない幼い心は、いつも小さな悲鳴を上げて居た。


初めて男の子にかけっこで負けた日、俺は“女だから”って言葉が嫌いになった。
初めて野球の練習に呼んで貰えなくなった日、俺は“女だから”って言葉が大嫌いに、なった。













大嫌いな男がいる。
世界で一番、大嫌いな男。

なぜならそいつは、俺に世界で一番嫌いな言葉をかけてくるから。




「沢村は、さァ…。」


はぁ…と一つ深いため息。とてつもなく呆れたような視線を向けられる。(いや、ような、というか、実際に呆れてんだろうけっど)その視線に少しだけ居た堪れなくなって誤魔化すように目線を逸らすと、突然御幸が、べちっと思いっきり俺の膝を叩いた。


「いっ…でぇ…っ!!何すんだよ!!」
「反省してないっぽいから、…お仕置き?」
「ふっざけんな!!だからって思いっきり傷叩きつける奴がどこにいんだ、」
「ここに居ますけど、何か?」
「…っ、」


にっこり。
無駄に綺麗な顔に無駄に綺麗な笑顔で微笑まれると、なんだか妙に迫力があって、押し黙る。
その顔は怒ってるような、どうしようもないとやっぱり呆れてるような。
何とも一言では言い難い色を浮かべて居て、今度は流石に普通に貼ってくれた絆創膏の下で、ズキンと少しだけ何かが痛んだ。(何とも言い難いというより、多分これはすげぇ心配してくれてるんだ、ってことくらいは、分かる。)


「ったく…さっきまで普通にキッチンに立ってたはずなのに、いきなり窓の外見たら木の上にいるとか…、俺がどんだけ驚いたか分かる?」
「…多分。」
「お前のその想像の百倍は驚いたから。」


…それって相当凄くないですか。
そう言いたかったけど、言ったら言ったで何かまだ面倒くさそうだったから、口にチャック。口は災いの元って言葉は、御幸と付き合うようになってから学んだ。


「大体沢村は、さァ。」


あ、来た。


「…“女の子なんだから”、だろ。」
「分かってんじゃん。」
「そりゃ、毎回毎回耳にタコなほど言われたらな。」
「言わせてるのは、お前だろ。」
「…俺は別に、女扱いされたくなんかねーし。」


ムスっとして言い返すのに、御幸はただ苦笑するだけで、それ以上何も言ってくれない。こういうところもまた、ムカツク。どうせ心の中では、仕方ねぇなぁ、とか思って俺のことを子供扱いしてやがるんだから、またムカツク。

過保護過ぎる俺の恋人は、世界で一番、こうして俺に、俺が大嫌いな“女の子扱い”をしてくる。

嫌だと何回言っても取り合ってくれなくて、俺はその言葉が何より一番嫌いなんだと話しても、直してくれる様子もない。一番嫌いな言葉を、堂々と俺に向かって言ってくる男と付き合ってる俺も、まぁ相当どうなんだろうって感じではあるけども。

御幸とは、かれこれ大学を卒業してから3年くらい一緒に暮らしてる。けど、正直価値観も趣味も生活観も、殆ど合わない。俺としても、きっと御幸も、もっと気の合う友人なんて男女問わずにいるし、別に御幸じゃなくても全然困ることなんか何一つなくて、寧ろイラつくことの方が多いのに、どうしてだか一緒にいる不思議。

今だって、相当めんどくせーし、叶うなら放っておいてほしいとさえ思うのに。

…大体、ちょっと木から落ちたくらいで、この扱い。
子の家の救急箱が薬局もびっくりな充実具合なのには、もういっそ頭が下がる。
手当てする御幸も、もう慣れたもので。

(別に骨折れたりしたわけじゃねぇんだから、放っておけば治るのに。)

これくらいの傷、小さい頃にはよくしたもんだ。
だから大丈夫。血が出て泣くほど俺は女々しくも可愛らしくもないんだから。

でも、そんな主張は、御幸に簡単に一蹴される。理由はもちろんお得意の、“女の子だから”。


「…嫌い。」
「はぁ?」
「御幸も、それも、俺も。」
「…突然どうしたのかな、沢村さんは。」
「うっさい!嫌い!大嫌いだ!女扱いされんの、すげぇ嫌い!!」
「はいはい…。」
「本気で言ってんだから、な!」
「はいはいはい…。」
「うー…。」


全然取り合ってくれねぇ…。

なんかムカムカしてんのも疲れてきて、大人しくしたら、ぽんぽんと頭を撫でられた。
ああ、くそう。やっぱ、ムカツク。


「そんな顔すんなって。折角の可愛い顔なのに。」
「…女の子だろ、っつったら別れる。」
「はっは、それは勘弁。」


両手をひらりと上げて、へらへら緩んだ表情を浮かべる御幸にほんのりとした殺意を覚える変わりに、傷口に巻いた包帯を指でぎゅっと引っ張った。
その様子を目で追っていた御幸の目じりが少しだけ、ほんの少しだけ下がる。


「あのさぁ…沢村。俺は別に、ただ単純にお前が女だからって理由だけで、こんな風にしてるわけじゃ、ねぇんだぜ?」


黙り込んでしまった俺に、突然語りかけるみたいに、珍しくトーンを落とした御幸の声に、ふっと顔上げると、真面目な色を携えた瞳とぶつかった。


「…?」
「…ふわふわした女の子らしい女の子と付き合いたいなら、とっくにそうしてるし、別にお前をそういう風にしたいとか、それが俺好みだとか言うんでもねーの。」
「…おう…?」
「スカートを履けとか、化粧しろとか、そんなのはいらねぇよ。俺は、そのまんまの沢村が好きなんだし。…ただ、怪我されんのだけは、我慢なんねぇわけ。」
「…。」


頭を撫でる手に力が籠る。
(…知ってるよ、そんなの。だって御幸が俺のことを女扱いする時は、決まって俺が何か、心配書けるようなことした時だけ、だって。気付かないほど浅い付き合いじゃない。)


「ついでに、怪我してほしくねぇのも、ただ単純に、沢村が女だからってだけなわけじゃねぇしな。…大体、俺がお前以外の女にこんなに尽くしてんの、見たことある?」
「……さぁ?特に気にしたことねーから分かんね。」
「…そこはちょっとくらい気にして貰えると嬉しいんですが。」
「だって御幸だし。」


けろりと言いきれば、ため息が降ってきた。…お前幸せ逃げるよ?そう言ったら、煩いって言いながら伸びてきた御幸の手が、ぐしゃぐしゃ頭を撫でた。


「俺がお前をこんな風に心配すんのはさ、」


一房髪の毛を掬いあげた指が、サラサラとひっかけた髪の毛を指の間から落とす。それを目で追っていると、そこにあった御幸の顔に、ふっとあまりにも穏やかな色が浮かんだ。


「女だからってのの前に、お前が俺の女だから、なんだよ。」


大嫌いな。
大嫌いな女扱いのはずなのに、聞こえた言葉を脳が認識した瞬間、一瞬で首まで真っ赤に染まったのが自分でも分かった。
全身の熱が、触れられた場所から御幸にも伝わってしまいそうなほど急上昇して、口が何の二の句も告げられなくなる。


(な、な、な、なななにこれ、なんだこれ!なんだこれ!!)


「だから分かってよ。沢村。自分の彼女のこと大事にしたい俺の男心。」
「…う、あ、う…!!」


生まれて初めて感じる感覚に、思わず頬を両手で押さえたら、可愛いーって言葉とクスクス笑う声が降ってきて、反射的に頭の上の手を首をぶるぶる振って叩き落とした。
けど、全身を染める熱が下がる様子は全然無くて、御幸はすげぇムカツク顔して笑ってて、なんか、もう!


(ほんっと、大嫌い!!!!!)


ずっとずっと大嫌いだった言葉。
変わるのが嫌だったはずなのに、女扱いされることが何より嫌だった、はずなのに。


「…あ、っちぃ…っ、」


抑えた頬が、燃えるみたいに熱くて。
ずっとずっと大嫌いだった言葉。
…なのに。
そんな風に俺を勝手に変えることが出来ることの男が、本当に本当に大嫌いで、すっげー嫌いで、……ああでもそれなのに、ちょっとだけ、好きになれそう、…どっちも、なんて。



(認め、ねぇ!!)



まさかそんなことを本気で俺が思うはずもないので、いつもなら開いてる座る足をこっそり膝同士をくっつけ合わせたのは、絶対絶対、ただの気のせい、だ!











***
いつもお世話になっています、紫桜三咲様へ、頂いた小説へのお返しの御♀沢です(⊃∀`* )!
にょ沢書くよ〜と言ってみたはいいものの、可愛い女の子の定義が全く分からない私にとっては未知の世界だった!←
沢村さんのなんて男らしいこと。←
でもいつもよりちょっぴり乙女モード…、…アラモード…★
のつもり、でし、た!

真昼間から一人カフェでノートガリガリしてたら、周りを綺麗なお姉さんたちでいつの間にか埋め尽くされていて、ホモ小説書くのを一旦停止したら案外すらすら書けたカフェマジック←
でも当初書きたかった話と全然違うとか仕様でs(…結婚話書こうとしてたとかどこへ!
いろいろと申し訳ない出来ですみません…!本当に!
とりあえず愛だけをこめて…!
いつも本当にありがとうございます!この度は素敵小説ありがとうございました!
大好きです(⊃∀`* )!





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