「誰か拾ってください」 |
一人暮らしの男にとって、朝のゴミ出しほど辛いものはないわけで。 しかもなぜかマンションの他の住民からいろいろと噂をされている身であるようなので、下手にボサッとした格好では外に出ることが出来ないのを悲しく思いつつ、今日もいつも通りの朝を迎える。 まだ通りが静かで、なぜか空気すら綺麗に感じるような、そんな朝の時間。 「…は?」 いつも通り投げ捨てようとした先のゴミ収集所で、捨て犬を拾いました。 …いや正確に言えば半分人間だったんだけど。 愛玩用のペット。 例えば一時はやったみたいなマグカッププードルのように、人間の好みに合わせてペットってやつは形態がころころ変わる。 違う血統同士を掛け合わせてみたり、遺伝子を弄ってみたりと、非倫理的であると賛否票論の意見を生みつつも、ペット業界は日々躍進と革新を続けていた。 そんな最中生まれたのが、人と動物を掛け合わせた愛玩用のペット。 普通の犬に、零が3つほど余分に作っていうんで、庶民には絶対に手が出ない代物であるけれど、とあるセレブの間では、犬より理性的で従順で知性があるとか何とかで今や流行の波が訪れているらしいとか、なんとか。 噂話程度だし、寧ろいっそ都市伝説の類のものなんじゃないかとすら思っていたくらいだから、正直まさか本当に存在するとは思っていなかった、。 それがなぜ、一介の安アパートのゴミ捨て場に丸くなって寝ていたのか。 「…なぁお前どっからきたの。」 「んあ!?ふぁにふぁ、いっふぁ!?」 「…いや、いいや。食ってからでいいです。」 茶碗によそってやったご飯を一気にフォークを使って掻きこみながら(箸使えるかと聞いたら全力で首を左右に振られた)、元々お世辞にもきれいとは言えない食べ方だったというのに、俺の声に大声で反応することによって更にご飯粒を四方八方にまき散らす。それが勢いよく俺の眼鏡にも飛んできたもんだから、流石に制止をかけてやると、ペット(っぽいもの)は一瞬キョトンと大きなぐりぐりした目を更に丸くした後、再び茶碗へと意識を戻して食事を再開した。 握るようにフォークを使って茶碗に食らいつく様子は、犬というよりいっそ幼い子供のようで、見た目から受ける印象では中学生くらいの年齢に見える容姿との落差に妙な違和感を覚える。 (これが、“知性的”なペット…?) 俺の知る知性と言う言葉からあまりにもかけ離れたその姿に、勢いのわりに遅い食事を続ける少年をマジマジと見つめた。 黒いざっくばらんな髪の中からは、紛れもなく生えている獣耳。最初は、ふざけたコスプレか何かかと思ったものの、さっきからまるで感情に合わせてピクピク動いているようなその耳は、本物のようにしか見えない。 もしかしたら最近ではこんな精巧な玩具があるんだろうか、と思って、興味半分…ちょっとした悪戯心半分で、熱心にフォークを躍らせるその頭にそっと触れて、ためしにその耳にふわりと手を触れてみた。 「みぎゃっ…!?」 「おわ!?」 すると、耳の付け根部分に振れた瞬間、ビクンッと小柄な体が大きく跳ねる。 同時に降り上げられた腕に目を見開いた瞬間、ヒュッと音がして横髪が風で靡いたと思ったら、カランカランと音がして。 それが床に落ちたフォークが奏でた音だと理解したのは、いつの間にか立ち上がっていたペットの少年の左手が空になっていたことに気付いたからだった。 「あっぶねぇ!!刺さる!それ刺さるから!!」 「あんたが…っへんな、とこ触るから…!」 「変なとこ?」 「そ、こは…っ、だめだ…!」 「は…?」 …もしかして、耳? 「そ、そこは、神経、いっぱいあるところ…だって、!だから触るな…!」 さっきまで元気よく動いていた耳が頭部にくっつくようにペタリと伏せられて、まるで警戒するみたいに全身でブルブルと震えている姿は見紛うことなく犬のようで、涙さえ軽く浮かぶ顔を見ていると、なんだか本当に悪いことをしてしまった気になってきて困った。(俺だってさっき危うくフォークに目を貫かれるところだったってのに。) 「あー…、…悪い、な?知らなかったんだよ、俺お前みたいなの見るの初めてだし…。」 「も、もうしねぇ…?」 「しないしない。だからそんなびくびくすんなよ。」 「本当か…?嘘つかねぇ?」 「本当だし、嘘はつきません。なんなら近寄るなってんならもうちょっと離れてもいいし。」 両手を広げて肩を竦めて降参を示してみると(果たしてこれが犬に伝わるのか。…人間の顔してると意味わかんなくなるなこれ。)今まで窺うようにこちらを探る色を示していたペットの少年が、ゆっくりとその警戒を解いてくれる。 じっとだまってこちらを見上げて来て、どこから何を判断したのかは知らないけれど、少しして安心したように全身の力を抜くと、ぺたんと地面に座り込んだ。 「…死ぬかと、思ったぜ…。」 いやそれ、俺のセリフですよね。 息つくペットの少年に続けて更に深い深いため息をついた御幸は、床に座ってまだ落ち着きなさそうに辺りをキョロキョロ目線だけで見渡す彼を再び観察する。 さっき触れた耳には間違いなく温度があって、生温かくてどこか湿り気すら帯びたそれはまさしく紛れもない動物のものだった。 「…お前さぁ、ホントどっから来たわけ?」 再び落ちたため息交じりにそう言ってやれば、再びぴくんと動く立派な両耳。 上げられた顔の上でゆっくりと揺れて、ああそういえば尻尾は無いのかな、なんて興味本位で思った。 「わかんねーんだけど、なんか俺、捨てられた?のかも?」 「捨てる…?」 「俺、売れ残りでさ。お店潰れた時に、よくわかんねーけど、逃がされた。」 「愛玩ペットを、捨てる…。」 これが本物だとしたら相当の価値がある代物だろうに、そんな馬鹿なことがあるのか、と思うけれど、事情も分からず、ただ成り行きに巻きこまれている俺に本当のことを知る術などなく。目の前の少年の言葉だけが全部でしかない。 どうするべきか。どこかに届けるべきか。 大体、何か事件にでも巻きこまれたら、それはそれで面倒だ。 頭を抱えて悩んでいると、ふいにくいっと服の裾を掴まれる感覚に下を見下ろした。 そこには、一体いつの間にこちらに移動してきたのか、俺の足元のすぐ近くにいい子に座って大きな零れるような瞳を真っ直ぐこちらに向けた少年の姿。 「なぁ。アンタは、俺のごしゅじんさまになってくれる人?」 あまりにも純粋と言う言葉が似合う声色で、とんでもない言葉を呟く少年に慌てたのは俺の方だった。 「いや、俺はただあまりにもな状態だったから拾っただけで…。」 「じゃあ、俺はまた捨てられるのか…。」 巻きこまれるのは冗談じゃない…と思っていたけど(これでも仮にも今まで特に特筆すべきもない人生を平坦に歩んできたのだから)、俺の返答に、それはもう落胆した様子で肩を落とす姿を見てしまうと、浮かぶのは罪悪感。 この姿でペットだと、そしてペットなのに人間の姿だなんて、卑怯でしかないと俺はこの時改めて、“愛玩ペット”の恐ろしさたるやを知った。 「…ご主人様っつーか、…別に置いてやるくらいなら…いいけど…。」 思わず呟いていた自分の言葉に一番驚いたのは、誰を隠そう俺だ。 あ、と思った時には今まで耳ごと見事に項垂れて居た顔に、ぱっと明るい色が灯って、少年が嬉々とした顔でこちらを見上げていた。 「ほんと、か!?」 そんなに嬉しそうな顔で言われると、否とも言えず。 「俺、なんも出来ねーけど、あんたのペットになったらいろいろ頑張るからな!」 (いろいろってなんだ、いろいろって。) 「よろしく、ごしゅじんさま!」 「えーっと、うん。まぁ、よろしく…?」 突っ込みどころが多くて本当にどうしたらいいのか分からないけれど、後悔とか、何かを考えたりする余裕無く、元気な声が部屋に響く。 安いアパートの一室。普段なら賑やかといってもテレビの音が響く、それくらいだった部屋に充満するきらきらした声に、…まんざらでもないと思っている自分がいるのは見ないふりをした。 「とりあえずさ、その“ご主人様”っていうのやめてくれる?なんかいろいろ誤解生みそうだから。」 「…?じゃあなんて呼べばいいんだよ?」 「御幸でも一也でも、別になんでも。」 「みゆき?かずや?」 「俺の名前。御幸一也。」 「ああ!」 納得したように大声御出した少年が、首が取れそうなほどコクコクと頷く。 「…みゆきー…?かずやー…。」 ごろごろ転がすように口の中を何度も何度も言葉を行き来させて、少しだけ難しそうに眉を寄せる様子を観察していると、むむ…と呟いた後ガバッと勢いよく顔を上げて言った。 「よろしく、一也!」 あまりにも眩しいくらいの笑顔でそう言うので、反射的によろしく、と返したあとに、ふとそういえば、と思う。 ところで、お前名前なんて言うの? *** いつもお世話になっているゴンゾウさん宅がめでたく30万オーバーとのことで、何かお祝いを…!と思ってリクエスト受けさせて頂いたものです。 沢村獣耳で…年齢などなど自由にとのことで…自由にしたら…うん、相当フリーダム過ぎたよね。しかもこれどう考えても消化不良だよね、続くよn( 耳が性感帯な沢村が書きたかっただけという完全趣味に走った物ですみませんでした…! た、楽しかったけどこれ私が楽しかっただけなんじゃ…!とビクビク、ビクビク。 沢村の耳をハムハムする御幸が私は見たいです。見たいですね。 というわけで、! ゴンゾウ様、この度は本当におめでとうございました! ずっと前からファンの中の一人です(⊃∀`* )いつも良くしてくれて本当にありがとうございます! これからも沢山の幸せなことがゴンゾウさん宅に訪れますように! これからもずっとファンです。大好きです。そしてこれからも仲良くして下さい! 大好きです! [←] |