恋人社会科見学 |
「なぁなぁ御幸、こういうトコって本当にあんのかよ?」 ある日、可愛い可愛い恋人の沢村栄純サン(正真正銘花の高校一年生)が、見ていたテレビを指差してそんなことを言い出すもんだから。ついつい俺は持っていた雑誌を音を立てて落とすという漫画みたいなことをしてしまったので。(何やってんだよふざけてんのかよ、と沢村に言われたけど、ふざけんんなふざけてるのはそっちじゃねーの、とか思った。) …俺は下町生まれの江戸っ子で。 確かに、東京近辺以外には殆ど行ったことねぇし、勿論長野なんて行ったこともねーけども。 「…お前…、ゲーセンくらい行ったことあんだろ…?」 これに首を左右に振られてしまって、「ドラマの中だけのことだと思ってた。」と言われてしまえば、これはもう一回コイツに世の中ってモンを教えてやらねばならないと思った俺。 コイツ…あれか。 常々、野球部員のくせに野球を知らなすぎると、半ば呆れていたけども。 野球を知らなすぎるんじゃなくて、色々欠落してるもんがあるんじゃないんだろうか。 いや、絶対あるだろ。 …初めて、“知るのが恐い”ってモンに出会ったぜ俺は。お前すげぇな沢村。 ってことで。 「おーーーー!!!すげーー!!」 練習が早く終わったある日曜日の午後。 沢村と珍しく街に繰り出してゲーセンデート。…のつもりだったんだけど、完全に気持ちはデートというより社会化見学の引率の先生の気分。 ユーフォーキャッチャーや対戦ゲームをキラキラした目で見ながらはしゃぐ沢村を、天然記念物を見るみたいな目で見る俺。 今時、ゲーセン(しかもそこまででかいわけじゃない)でここまで心から楽しめるヤツを俺は沢村以外に知らないと思った。…いやもしかして降谷辺りも実はこんな反応だったりするんだろうか。今年のルーキー投手二人は揃ってどっちも世間知らずの気があるから、あながち言いすぎとは言い切れないのが悲しかった。 おもしれぇけど、さすがにちょっと心配になってくる。大丈夫かお前ら。 …なんて勝手に心配してる俺を放って、ガキの声が聞こえてくる。 「みーゆーきー!なぁなぁこれなんだ!?」 いつの間にか遠くに言っていた沢村が俺を呼ぶ。 忽然と姿を消すことが出来る辺り、本当にコイツは子供と同じだな、と思った。 (ま、人のもの勝手に食うし、本能で生きてるしな。いまさらか。) 「ハイハイ、今行きますよー…っと。」 とりあえず、一人でうろちょろして何か問題起こさねぇように見張ってやるとする。 …俺ってコイツの彼氏だよな。恋人だよな。親じゃねぇよな。 そんなことも考えたけど、とりあえず沢村が楽しそうだからいっか、と思うことにした。 「ゲーセンってマジですげーんだな。俺、ゲーマー?っつうの?初めて見た!」 「楽しんでいただけたようで何よりですよ。」 「おう!すっげー楽しかった!」 ユーフォーキャッチャーやら対戦ゲームをこれでもかってくらい全身で満喫した沢村は、いくつかの戦利品を抱えながら、本当に満足そうな顔で楽しそうに笑う。 にかっと音がしそうなくらい顔いっぱいで笑う沢村を見てたら、なんか置いてけぼり気分だったのなんかどうでもよくなってきて、キャッチャーでゲットしたぬいぐるみをばふっと沢村の顔に押さえつけてやった。 何だよ!って抗議の声すら今日はどこか楽しそうで、やっぱりこいつは天然記念物だなと思いながら。 そろそろ時間もいい時間だし、満足したなら引き上げるかと提案してみたら、そうだな、って返事が返ってきた。 「じゃ、もういいか?」 「あ、ちょっと待て!あとは、えーっと…、“プリクラ”っつーの撮って帰るもんなんだろ?」 何だか得意げな沢村の声が間抜けに響く。 ………ちょっと待て、何情報だそれ。 沢村から聞こえた不似合いな単語に、一瞬なんのことか分からなかった。 プリクラって、あれか。プリクラか。 コイツ、どういうもんか分かって言ってんのかと思ったら、案の定ポケポケした顔をしている沢村は絶対に分かってないと確信した。 「何それ。撮りてぇの?」 「んー?いや、ゲーセン行ったら絶対やるんだって聞いたから。」 「…誰から?」 「クラスのヤツ。」 「…ちなみにそれって女子?」 「あー…ああ、うん、そうだったかも。俺がゲーセン行ったことねぇって話で皆が爆笑してた時だったから、よくわかんね。」 「へぇ…。」 プリクラ、ねぇ…。 なんだか目をキラキラ輝かせてる沢村見たら、今日1日振り回されたこともあって、俺の悪戯心がうずうずする。 この、完全に犬みたいな目見てると、なんかしてやりたくなんだよなぁ…。 沢村に言ったらぜってぇ叫ばれるだろうから言わねぇけど。 「…まぁじゃあ、お前の望みっつーなら撮ってもいいけどな。」 プリクラ機の方を指差しながら、じゃあ行くか、と言えば素直についてくる。 最近の機械ってのは、中身もすげぇらしーけど、外から見た見た目もどぎつい。 正直、化粧の濃い女がどれもドアップで映ってて、男二人で入りやすいとはお世辞にもいえねぇ物ばっか。 さすがの沢村もちょっとビクビクしてる。 それがなんか可愛かったもんだから、俺は、やっぱやめる?って聞いて欲しそうな沢村にあえてその言葉は言わず、ズンズンと中に進んだ。 幸い人は少なくて、すぐに機械に入れた。中は照明で明るくて、妙に軽快な音楽が大音量で流れてて、物珍しいのか沢村がキョロキョロと落ちつかない様子で辺りを見回してる。 そんな沢村は放っておいて、俺はというととりあえずお金を投入して、流れてきた画面を指でタッチしながら小さくほくそ笑んだ。 俺の笑みに、プリクラ機に目をチカチカさせてる沢村は気づかない。 (お、あったあった。…ま、これで許してやるか。) 「さーわむら。」 「む、…?」 「そんなキョロキョロしてんなよ。始まるぜ?」 「お、おう…。…なんか落ち着かねぇな、ココ。」 「ま、すぐだって。…ほら、ちゃんと画面見て。」 しどろもどろしつつ画面に目を移す沢村の横に立って、俺はさも今思いだしたかのように、あ、と小さく声を漏らした。 「プリクラって、きちんと聞こえてくるアナウンス通りのことしねぇとやり直しになるからさ。間違えんなよ?お前、バカだし。」 わざと煽るような言葉を選んでやれば、バカって言うな!って帰って来て、沢村が意気込むのが分かった。 それを見ながら俺は一人笑う。 最近のプリクラ機ってのはいろんな機能があるもんで。 …俺が選んだのは、背景・ポーズ・落書き共に「カップル専用」モード。 …何指定されても逃げんなよ?沢村。 俺は一人心の中で小さく笑いながら、数分後に絶叫するであろう沢村の肩にゆっくりと手を回した。 *** うさぎ様に捧げます。キリリクで頂いていた「御沢ゲーセンデート」です…! まぁ結果、沢村がただのオバカの子になりました…(どーん) 「プレッシャーも感じないようなただのバカじゃない」ってちゃんと原作で、非バカ宣言してもらえたのに、私が書くと本当残念な子だね沢村!ってまるで他人事のように笑いながら書いたらこんなことになりました。 ううう…素敵シチュエーションを生かしきれず申し訳ないです…! ちなみに裏有りとの希望だったので続きがあるのですが…こちらもまた残念なことに!笑 暖かい目で見守っていただけたら喜びます…(´ω`) それではこの度は素敵リクエストありがとうございました! また遊びに来て頂けると嬉しいです^^ [←] |