よくある休日のはなし | ナノ

よくある休日のはなし


*同棲



例えばそれは、よくありがちな休日の過ごし方。

二人ですることも無くなって、ぶらりと夕食のスーパーの買い出しの帰りにレンタルビデオショップへと立ち寄る。
隣接されてる書店でちょっとだけ各々立ち読みして、何かおもしれぇ雑誌ある?とか、聴きあって、ちょっとしたらどっちが荷物を持つかで討論になったら、それが帰る合図。


「どうせだったらこっちにしようぜ。」
「お前のセンスで選ぶと大抵はずれだから却下。」


じゃんけんで負けた方がスーパーの袋を持って、お互い云々言いながら、好みの映画を探す。御幸と俺は好みもそこまで合うわけじゃねぇから、これがまた合わない。
御幸が良いっていうやつは俺にはさっぱりで、俺がみたいってやつは御幸は良い顔しない。二人ともいいかもって思うやつは大抵貸し出し中だったりして、そういうことが結構よくある。
時間をかけて棚と映画と御幸と三つ巴ならぬ四つ巴でにらめっこ。手を伸ばしてこれがいいと一度棚から取って差し出したそれは、けれど呆気なく御幸の手に寄って再び棚に戻された。


「…ケチ。」
「大体今夏じゃんか。なに好き好んで卒業シーズン物なんか見なきゃなんねぇの。」
「青春だろ。」
「季節外れ過ぎて感情移入出来ねぇし。」
「元々感情移入なんてしねぇくせに。」
「そんなことねぇけど?」
「…無駄に大人ぶりやがって。」
「大人ですから。」
「…老けてるだけだろ。」
「…老け顔っていうな。」
「なんだよ、気にしてんの?」


適当にあしらわれた腹いせに、今度は御幸をからかってやりながら、仕方なく御幸の選んだDVDを籠に放りこんで笑う。…なんだかんだいって、御幸が選んだ映画は結構当たる。だから悔しいけど最終的にはこうして御幸任せになってしまったりして。今度借りに来る時には事前に調べて我が物顔で説明してやろうって思うんだけど、…これも結局いつものことで、店出る頃には忘れてる。…やっぱりこれもいつも通り。


レジに行くから入口で待っといて、と言われて一つ頷けば、そのまま入口付近までぶらぶらと、店内に流れてる賑やかな音楽に耳を傾けつつ、手に持っていたスーパーの袋をぐるぐる回す。…そう、じゃんけんで今日負けたのは俺。

外に出ると暑いからってことで自動ドアの開かないギリギリのラインを見極めて絶妙な位置を陣取った。早く来ねぇかなぁ。考えながら外を見たら、太陽がぎらぎらしてた。もうすぐ夕方だってのに、夏の太陽はどうしてこうも働きものなんだろう。

手持無沙汰になって店内に目線を移したら、偶然目に入ったテレビ。それに何となく目をやると、そこには少し前のドラマの映画のワンシーンが流れていた。

(…ああこれ、そういえば前に御幸と見にいこう、って、)
言ってたなぁ。


そんなことを思い出す。
なんだかんだで忘れてたと思いながら。


「沢村おまたせ。」
「おー。」


レジを終えた御幸の腕に抱えられているレンタルビデオ店特有の青いケース。それを御幸が持って、白いスーパーの袋は俺が持つ。
ウィン、と自動ドアが開く音とほぼ同時に、むわっとした熱気を含んだ空気に押されてちょっとだけ眉を潜めた。


「そういえば、」


涼しかった天国から一歩足を踏み出した瞬間、ふと御幸が口を開く。


「前に二人で見に行こうって言ってた映画、」
あるだろ?


聞こえた言葉に驚いて目を見開いた。


「お前はもう忘れてるかもしんねーけど、今度映画借りる時はさ、それにしようぜ。」
「…覚えてたのかよ。」
「え、」
「実は俺もさっき、同じこと思って、た。」
「…覚えてたわけ?」
「いや、違うくて…さっき偶然、店の中流れてて…思いだして。」
「あー…。」
「まさか御幸が覚えてるとは思わなかった。」
「…いやさ、実は俺もさっきレジ横のテレビ見てさ、思いだした。」


偶然。
え。



一歩先を行く背中を追いかけながら、


(繋がって、る?)


さっきまで重かったスーパーの袋から急に重力が消えたみたいに感じた。ふわふわ軽くて、なんか変な感じ。


(今度は忘れねぇようにしよ。)


そんで、また買い物の帰りにあのレンタルショップに寄った時には、今度こそ俺の見たいって言ったもんを借りさせる。
それで、家に帰って二人で見て、「どうだ、俺が選んだもんだってたまには面白ぇやつあるだろ」って笑ってやる。


……だってそれには絶対に、御幸もノーとは言わないはずだから。








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