愛の数だけください! | ナノ

愛の数だけください!


*絶倫沢村



高校時代に培ったもの。
知識?技術?精神力?
…まぁ確かにそれも間違ってない。


「なぁなぁ御幸ー、もう寝んの?」


もぞもぞと布団の中を移動してきた小さいのが、思いっきり俺の顔に影を作る。ぶるぶると首を左右に振ることで乱れた髪を誤魔化して見下ろしてくる目は、それはもう子供のように純粋だというのに。


「…お前マジで元気ね…。」


俺の体をまさぐる手は全然純情でもなんでもなくて。
…えー、じゃないんですけど。沢村サン。

激動の高校球児生活を3年間続けた恋人に残ったのは、知識とか精神力を差し置いて、何よりも無尽蔵な体力だったのでした。












の数だけください!













「沢村、ちょっといいから俺の上から退いて貰えませんかね。」
「なんで?」
「…なんでも。」
「ムラムラするから?」
「…じゃあそういうことでいいから。」


人の腰の上を思い切り跨いで不満そうに唇をムスッと尖らせる様は、高校時代と変わり無い幼さを匂わせるのに、言ってることとやってることはそれはもうアダルトもいいところ。

そんな、絶賛深夜一直線な時間にベッドの上に俺と沢村ふたり。
けれどそのピロートークに色気は皆無で、…いや、正確にいえば、沢村の口からは十分卑猥な言葉が何個も何個も飛び出てくるんだけど、その声があまりに爽やかで快活過ぎて、全然色気を感じさせない。付け足して言うなら、俺の腹筋をおもちゃを触る子供のようにペタペタ触ってくる沢村の手は明らかな意図を含んでるのも長年の付き合いから十分感じ取れるけど、それでもなんでだろう。行為中の会話…というより、普通にコタツにでも入りながらしてそうな日常会話みたいな軽さしか感じ取れない。
沢村の手がするすると体を撫でる。それはもう男としては嬉しいことこの上ない行為。



だが。


「…お前ね、体に負担かかんだろ。スポーツ選手は体が資本。分かる?」


問いかけるように頬に手を伸ばすと、まるで猫がなつくみたいに頬ずりしてきて、それに一瞬目を細める。コクンと素直にうなずく様はとてつもなく可愛らしくて、ついつい甘やかして何でも聞いてやりたい気分がふつふつと奥の方から沸き上がってくるけど、ここで甘やかすと沢村はすぐにつけ上がる。なんせバカだから。

(普通のバカならまだ扱いやすいんだけどな…。)

もちろん普通にバカだなって思うことも未だ多いけど、それ以上に俺を悩ませてるのは、“ベッドの上”の沢村のネジのぶっ飛び加減。



一般的な言葉を借りていうなら…沢村は絶倫だ。



しかもそれはもう通常のバロメーターを通り越すほどの。


…決して、俺が不甲斐ないわけでも、そういう自分の言い訳をしているわけでもなく。
一般的に言うなら、俺も結構それなりの上位にいるっていってもおかしくねぇと思うんだけど、ベッドの上から俺に影を落として期待の瞳で見下ろしてくる大きな黒い双眼は、まったくもって鎮静化する様子のない情欲の光を宿しながら嬉々と輝き続けてるんだから、やっぱりどう考えても沢村が異常だろ。
まぁこれが、1回目や2回目だっつーんなら、俺もそこまで強く言わねぇけどさ。


「んだよ…、御幸は俺とシたくねぇの!?」


バカか?お前は本当に。
…いや、バカだったっけ。


「あのな…シたくねぇやつとぶっ続け3ラウンドもやるかっつーの。」
「じゃあ、」
「だけど、続きはナシ。」
「えーーーー。」
「えー、じゃねぇの。ほら、さっさと布団入れ。風邪ひくだろ。」


ぶーぶーいいながらも漸く体を動かした沢村の重さが離れていく。去り際に足を擦り寄せられて一瞬俺の中でも何かが疼いたけど、それは沢村に気付かれないようになんとか押しとどめて息を吐くことで誤魔化した。…ホント何だコイツ。
どこまでもエゴイストなのは投球関連だけにしてくれ、と願わずにはいられないけど、そんなエゴの塊みたいな沢村に心底陶酔してる俺も十分どっかぶっ飛んでんだろうな…なんて自嘲気味なことを思っていると、沢村が文句を言いながらも諦めたように体を動かした。

自分に少しでも非があると分かってればしぶしぶでも言うことは聞く。それは昔から何事においても変わらなくて、だから今も一応布団の中には入っては来る。顔はとてつもなく不満でいっぱいって感じだけど。
それがおかしくて少し噴き出したら、更に眉間に皺が深く刻まれた。


「…平気なのに。」


不機嫌丸出しの声。悔しそうに枕を掴んで、隙あらば寄せてくる足。…沢村お前一体それどこで覚えたか明日辺り詳しく聞かせて貰うから。


「投手の管理も俺の仕事デス。」
「…そういう時だけ捕手の顔する。ずりぃの。」
「当たり前だろ。一応俺だって罪悪感くらいあるんで。」


そういう時だけって何だ、俺はいつでも優秀なキャッチャーのつもりだけど。
なんて言ってやったら、「恋人扱いされてるのヒシヒシ感じるからいっつも」なんて生意気な言葉と笑みが返ってきたから、軽く額を指で弾いてやった。抗議の声が返ってきたけど気にしない。だって本当年重ねる度に無駄に生意気になっていきやがるからコイツ。でもまぁ、ちょっと甘やかしすぎたかと反省はするけど後悔はしてねぇしな。……あー…、やっぱ沢村には甘ェかも。俺。


「…ハッ!もしかして、御幸もう限界とかいう?出来ないからやんねぇの!?」
「出来ないんじゃなくてやらねぇの。失礼なこと言うなっつーの。…ほら、子供は早く寝てクダサイ。」
「子供扱いしてんな!」
「…明日も早いだろ。ハイハイおやすみー。」
「大丈夫、俺御幸より若いから!」


それはどこにかかる修飾語?
まさか俺の男の部分がもう若くねぇとか言いやがるなら一回コイツ泣かせてみねぇと駄目だな。まだまだ元気で布団の中じたばたしながら埃を立たせてる沢村を泣かせるのは少々骨が折れそうだけど、でも決して不可能じゃない。…とは思ってる。沢村があまりにも一直線に負けず嫌いだから隠されがちだけど、俺だって他人に負けるのはあんまり好きじゃねぇしな。しかもそれが可愛い恋人となればなおのこと、だ。


「…むう。…なんだよもう、俺はもっと出来んのになぁ…。」
「体以外にも繋げられるモノもあるぜ、沢村。」


どうにか沢村を落ち着かせて寝かせようとそんなクサいセリフを吐く。


「…んなことわかってる!けど、御幸のことすっげー好きなの伝える手段はこれが一番手っ取り早くて分かりやすいからさ…、やっぱ一番イイ。」


普通の女ならきっと嬉しがってくれるであろうセリフも、沢村の前じゃ全く意味を為さないわけで。

でもって、そんな恋人からの下半身直撃な大胆な告白台詞に、何もしねぇほど俺は枯れてねぇんだよな…。



狙ってやってるならまだしも、無自覚だからタチが悪い。
折角人が心配してやったのに、それを思いっきり蹴り返した挙げ句、顔面にぶつけてくる沢村にため息を一つついて、片腕に張り付いてた沢村の体を押しのけて体を起こした。一瞬でぐるりと体勢を変えると、驚いて大きく見開かれた瞳が一度ゆっくり瞬きをして、でもそれからすぐに嬉しそうに笑う。ぱちくり。そんな擬音すら聞こえてきそうなほど愛らしい瞳には、さっきまでより更に明朗な炎が宿った。


「あと一回だけやってやるから、そしたら寝ろ。明日また存分に可愛がってやるから。」


…ああ本当甘いな、俺。

腕の中で身じろぐ沢村がすぐに首に慣れたように腕を回してきて、今にも、ワンッ、なんて泣き声を上げそうなほど顔を綻ばせる。尻尾があったらきっとちぎれそうなくらい振ってんだろうな、と見えないビジョンが浮かんできそうだ。

後一回だけ、そう自分にも沢村にも言い聞かせながら、その体を抱きよせて首筋に顔を埋めたら、擽ったそうに身をよじった沢村が元気な声で宣言した。



「おっけ。じゃあ明日は10回な!」




………………殺す気ですか?





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