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dear


*悲恋



物事にはタイミングというものがある。
そいつは途轍もなく測るのが難しいくせに、ほんの些細なズレだけで大きく歪みを生むこともある。


人生は1歩1歩が分かれ道だ。…と、誰かが言ってた。
後ろを見てみれば、もしかしたら通ってきた道とは逆の方向こそ本来の幸せな未来へ続く道だったかもしれない。今選んだ道が、正しかったと胸を張って言えるか。そんなこと、考えだしたらキリが無い。


人は誰しも後悔をする。
だから同じ後悔をするくらいなら、やらずに後悔するよりやって後悔をしろ。そんな、月並みな台詞。
ただ、人生において本能のまま行動出来る人間ってのは早々いないもんだ。
個々の人生において、性格だったり環境だったり…決して無視できないものがその背中には年を重ねるたびにどんどん積み重なっていく。


もう一度どこからか人生がやり直せるなら、俺は間違いなくある一点を上げるだろう。
そしていつもそれが絶対に不可能なことだと痛感して、ただどうしようもない虚無感に襲われる。その繰り返しを何度重ねたか。


バカだと、友人の一人は吐き捨てた。
バカだと、俺自身も笑った。
殴りたくなるような酷い顔をしているといわれたが、いっそ殴ってくれればよかったのに。



酷く長い夢が現実だと思い知るのが嫌で、いっそ目を開けるのをやめた。



このまま一生をこうして夢の中で終えることになってしまってもいいと思った。
もうそれだけが唯一の救いなのかもしれない。



結局は、こうして逃げているだけだったのだ、今も、昔も。
その結果が今この現実だというのに、その現実からすら逃げようとしている。いつからこんな風になったのか。もうさかのぼることすら難しい。


目の前に現実が揺れる。
視界の端に吊るされた、黒のスーツが揺れる。


心の内で何度も判読した言葉を、明日は笑顔で言えるだろうか。


その顔がムカツクのだと、彼に言われたその笑みで。







(結婚おめでとう、沢村。)











そしてきっとアイツは世界一綺麗で残酷な顔で俺に笑うんだ。








ああ、俺が心から愛したその声で囁かれるありがとうで、全てが終われば、…いいのに。





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