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世界に色がついて見えることがある。
…っつー比喩。
実際現実に世界ってのはもちろん全カラーだし、何言ってるんだと吐き捨てられそうなもんだけど、とにかくそういう時がある。

ポエミーなことを言うつもりでもないし、難しい精神論的なことを語るわけでもないけど。


「御幸は、さぁ。」
「んー?」
「不毛だって思ったことねぇの?」
「なにが?」
「…こ、いびとが、男だなんて、さ…。」


横で沢村が呟く度、共に漏れる吐息が真っ白に空間を染めて、すぐに消えていく。
静かな夜道に流れるコンビニの袋の合唱は、沢村の右手と俺の左手に揺れる小さな袋が奏でるもの。
プリンの分だけ俺より一回り大きくなった沢村の手の中の袋は、時折ガサガサ沢村の足に当たって少し賑やかな音を立てた。


流れる穏やかな空気とは裏腹に、その口から漏れた言葉は結構おもさを含むものだったけれど、まるで明日の練習の話でも聞くように、いっそ鼻歌すら歌いだしそうなくらいの沢村の声音。

沢村は時折、こういうことを聞いてくることがある。
けれど、そのどれも、思い付きで口に出してることが多いから、そこまで俺も身構える必要はないということを知ったのは最近のことだ。
一回考えてから発言しろよ、と言ってはみるものの、一向に直る様子もないし、むしろ、なおす様子もないから、俺のほうが諦めた。


「そんなこと思ったことねーけど。」
「…ふうん。」
「なんかあった?」
「別に。なんもねぇ、けど。」
「けど?」


言葉を詰まらせた沢村に、小さく首を傾げて、顔を横に向ける。
俺の方でもなく、足元でもなく、前でもなく、沢村はぼんやりと空を見上げていた。

その顔が、へらりと歪む。


「……生産性ねぇなあって。」
「…沢村からそんな言葉が聞けるとは。」
「バカにすんな、オイ。」
「だってバカじゃん。」
「…………。」
「なんだよ、冗談だっつーの!…半分。」
「半分かよ!」
「お。ナイスツッコミ。」
「嬉しくねぇんです、がっ!」


俺の笑い声に、沢村の怒声が重なる。やっぱお前は、難しい顔してるより、そういう顔してる方があってるぜ?沢村。


「まぁ確かに、結婚出来るわけでもなければ、公言すら出来ねぇし、子供作れるわけでもねぇから、生産性は皆無だな。」
「だろ。」
「だからって別に、何も生まれねぇわけでもねーよ。」


空いてる方の手を伸ばしたら、一瞬ビクッとして離れていきかけた沢村の左手をしっかり掴む。
途端、沢村の目が、俺を捕らえて小さく揺れた。

浮かぶ戸惑いの色が、温度を通して伝わって来るみてぇ。

よく見れば、顔も真っ赤。夜道で暗いのに、なんかすげぇよく分かった。


そんな様子に、小さく笑って。




「だって俺らの間には、愛があるだろ?」




触れる度、重ねる度。
増える、生まれる、この感情を。
生産性が無いなんて言わせねぇよ。


むしろ釣りが来るくらいじゃねぇかと思うんだけど。
どうよ、沢村?




その言葉に更に顔を真っ赤にさせた沢村が、姿勢外して俯いて、………キザ、って呟くのが見えて、声を上げて笑った。






なぁ、ほら、沢村。
こんなに暗くても、ほら。
やっぱ色がついて見えるんだよ。



お前とさ、
お前と過ごす時間には。





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