愛は甘いペルソナ | ナノ

愛は甘いペルソナ


【R18】
18歳以下の方の閲覧はご遠慮下さい。





世間一般の…というか、周りの人間が思っている“御幸一也”という人間の性質。
頭もそこそこで、顔はムカツクくらいに整ってて、野球センスは他の人より頭一つ秀でたものをもっていて、どこか人を引き付ける雰囲気を持っている男。
難を付けるとすれば、その掴みどころのない性格くらいだろうか。けれどその性格も、何だかんだ言って御幸を形成する要素として絶対的に不要であるというわけでもないので、つまり結果それは、欠点らしい欠点がない…といっても過言ではないかもしれない。
周りの人間が思っている御幸一也と言う人間の性質は、そんな感じなんだろうと思う。

だけど、俺だけは知っている。
そんなコインの表側だけじゃなくて。
全てをひっくり返したような、そんな御幸の顔を。

俺だけが、知ってる。








「ひっ…!ぁ、…、ァ…ん!」


静かな室内に、艶めかしく響く。
狭い部屋の中では、四方に囲む壁にその声が反射して響く。鼓膜から浸透してくるその甘い毒のような音が憎くて憎くて、耳を塞いでしまいたいのにそれは出来なかった。
御幸によって頭の上で一纏めにされて拘束されて動かすことは叶わない。体格だって腕力だってそう変わらないはずなのに、御幸に強引に奪われた自由は簡単には取り戻せなくて、ただその背中を御幸に預けたまま体を差し出すことしか出来ない。
作りは自分の部屋と一緒。学校の寮なんて内装は本当にどの部屋も殆ど変わらないから、置いてあるものは違えども必然的に部屋自体どの部屋も似たような空間になるというのに、この部屋だけはなぜかいつも、他のどの部屋よりも狭く感じる。
御幸に連れ込まれる御幸の部屋。誰にも秘密の、この時間を過ごすこの部屋だけは、なぜか。


「…沢村…。」
「ふぁっ、…あ!…ぁ、…ッいや、だ、ぁ…!」
「…ん、」


御幸のゴツゴツした指が、見えない場所で蠢くのが怖い。別にこれが初めてってわけじゃないのに、それでも何度しても慣れるものではなくて、自分の体の中で、自分の見えないところで、自分以外の何かが体の中をおかしくしてる。その事実が、どうしても受け入れられない。
御幸とこうして、体の関係を持つようになって結構な時間が経つ。
こんな風に、人に言えないようなことも、もう何回もしてる。
それに一応、名目上は俺と御幸は紛れもない“恋人同士”だ。付き合ってるってことに、一応なってはいるらしい。
御幸の指に翻弄されながら、どこか冷静な頭の隅っこで、そんなことを考える。


「…沢村、」


御幸の低い声が、俺を呼ぶ。熱に浮かされて、なんだか眠気によく似たふわふわとした感覚に飲み込まれそうになりながらも、呼ばれた声に反応して震える体を動かして後ろを少しだけ振り向けば、そこには薄暗い室内に溶けて消えてしまいそうなくらい陰鬱な空気を纏った御幸の姿があった。
俺は御幸と『付き合う』まで他に誰とも付き合ったことなんかないし、だから全部想像でしかないのだけども、恋人同士のこういう行為は、もっとずっと幸せなことであるような気がしてた。
こんな、体のずっと奥の方…胸の中全部鷲掴みにされたみたいな気持ちになるようなことだなんて、思いもしなかった。
御幸とこんな関係になってから、俺はまだ一度も御幸から、好きだという言葉を聞いたことが無い。
言葉なんて一つもないのに、こんな風に体を重ねる回数だけが指折り増えて行く。


「…沢村…。」


後ろから降って来る声は確かに俺の名前を呼ぶのに、俺はそれを掬い取ることすら出来ない。






きっかけはなんだったんだろう。よく覚えてない。
御幸と俺の関係といえば、野球部の先輩と後輩。どこにでもあるような部活の上下関係。ただ、俺が投手で御幸が捕手で、俺がこうしてここにいる要因の大半をこいつが占めてるってこと以外はいたってどこにでもあるようなありふれた関係だった。
御幸の一挙手一投足は俺をいつだってイラつかせて、御幸はなんだかんだで俺のそんな態度を見て楽しんでるように見えた。からかわれるのはムカついたし、認めさせてやるって気持ちだけでいつも食ってかかっていたけど、俺は御幸とのそんな関係は別に嫌いじゃなかった。
特別仲が良いとは思わない。可愛がられてるわけでもなければ、俺も別段慕ってるというほどでもない。
でも御幸との間には確かに何かがあった。そんな関係が今思えば心地よかったようにも思う。
そんな関係が突然崩れたのはいつだったんだろうか。

『初めて』は最悪だった。

今も思い出したくは無い。体を二つに裂かれるような痛みを全身に覚えさせられた最初の日。普通に強姦と言っても良い。何も残らない、傷だけが残る行為を強いられた日。痛くて苦しくて怖くて意味が分からなくて、ただ起こったことを現実として受け入れられなかった。
だけど、全部が終わってから御幸に言われた言葉はそれまでのどんな痛みよりも俺を鋭利な何かで切り裂いた。


『…お前のそういうところ、スッゲェイラつく。』


その眼鏡の奥で、確かにこちらを向いてるはずなのに、全くもって目が合わないその瞳に何の色も映さずにそう言った御幸の顔は今も時折思い出す。







御幸一也という人間に対して周りが抱く評価は様々だけれど、それでもその評価は全てある一つのベクトルに向かっていることだけは共通してる。
『完璧』で『特別』。
それは御幸の能力や言動ゆえに仕方のないことかもしれないけど、その不特定多数から向けられる数多の重圧が、御幸の心を捻じ曲げてしまったのかもしれない。
例えば、そう。
俺だったら、『お前にしてはやるじゃん。』と認められることが、それが当事者が御幸だということだけで、『まぁ御幸だしな。』の一言で片づけられてしまう。その抱かれる期待値の違い。それは確実に御幸の『何か』を少しずつ蝕んでいたことに、誰も気づかなかった。否、今も誰も気づいていないだろう。そうさせているのは、御幸本人なんだろうけど。
好きだと言われたわけでもなければ、付き合ってるんだと実感したこともほとんどない。実際、「俺とお前の関係って何なの?」と一度だけ聞いた時に、何だと思うかと重ね問いかけられて、付き合ってるのかと問い返せば、じゃあそれでいいよ、と返って来ただけの薄っぺらい関係に、名前を付けることの方が驕りのような気もする。
だけどそのおかげで必然的に御幸の近いところにいるようになって、俺はある日気付いてしまった。御幸の異常性、それから違和感。
それらは一度見えると少しずつ目に見えて大きくなって、ある日気付いた。御幸はもう随分と前に、『おかしく』なってしまっていたことに。

それ以来俺は、御幸が求めてくる行為に抵抗するのをやめた。

(すげー可哀想だと思ったんだよな…。)

こういう気持ちをなんて言うんだろう。愛情というには寂しすぎる。同情に近いんだろうか。
こんな関係になってからも、御幸は普段は今までと何一つ変わりなく接して来る。こんな風に抱かれるようになってからも、そんな事微塵も感じさせないような顔で、声で、普段は『御幸一也』という人間の仮面を被ってる。最初こそそれに慣れなかったものの、今や俺もすっかり慣れてしまった。
普段はただの、先輩と後輩。投手と、捕手。
だけど、カーテンで閉め切って鍵一つかけたこのドアの内側でだけは、御幸は全くの別人に変わる。
その瞳がどこか凶暴な色を纏って、18.44メートル先にいる時は全てを受け止めてくれるはずのそいつに、俺はただされるがまま。


「沢村…。」
「ん、ぅ…、」
「…ははっ、…すっげぇぐちゃぐちゃ。お前もう後ろだけで充分イけるんじゃね?」
「ふぁ、…あ…ッ、ゃ…!やぁ、…」
「そんな格好でやだやだ言われても説得力ねーよ。」


ずぼっと中に入っていた指を一気に引き抜かれて、思わず体が弓なりに撓る。背中を何かが走って、沿った喉が微かに音を立てた。
指を突っ込まれる前に散々弄られた体のいたるところが熱い。だけどそれ以上に、さっきまで御幸の指をくわえていた場所が、ひくんと疼く。御幸との行為で完全に快感を覚えたはしたない体が、この先のもっと大きな熱を知っている体が、それを欲して疼く。
さっきまで慣れない感覚に眉をひそめていたはずなのに、今はもうそんなことより、焦らさないでちゃんと刺激が欲しかった。乱暴に、無遠慮に、好き勝手に俺の体を使う御幸の身勝手さが欲しかった。

後ろから首元を回って来た御幸の腕が、俺の口を塞ぐ。苦しいくらい顔をそのまま後ろに引かれて、反射的に首を左右に振って逃れようとしたけど、どこも自由にならない俺にそれを振りほどけるはずもない。
そんなことしなくたって俺はどこにも逃げたりしないのに。そもそも、そんなこと御幸だって分かってるはずなのに。
御幸は時々こうして、俺を縛り付けるみたいな行為を繰り返す。意識的なのか、無意識なのか、それはよく分からないけど。
沢村、と行為の最中やたらと呼ばれる言葉が、鼓膜に囁かれるように落ちてくるのと同時に、一気に体を貫く灼熱。


「―――――ッ…!!!」


声すら上げさせて貰えなくて、見開いた目から大粒の涙が流れた。息を吸い込んでも、鼻から通る僅かなものだけで、寧ろ循環出来ない酸素が、吐き出せずに咥内だけで堰きこむ。
おかしくなりそう。おかしくなりそうだ。
こういう時、俺はいつか御幸に壊されてしまうじゃないかと思うことがある。


「…っあ、…は…!はぁっ、はっ…は…!あ…!」
「ごめん、沢村。苦しかった?」
「ひうっ、ぅ、うぅ…、くる、…し…。」
「うん。ごめん。ごめんな…。」


口を覆われていた手が解放されて、子供みたいに泣きじゃくる俺を、御幸が宥めるように後ろから片腕で抱きしめながら、さっきまでとは打って変わって優しい声でそんなことを言う。
さっきまで俺を苦しめていた手で、今は俺を抱きしめる。こんな御幸の良く分からない行動に、翻弄されるのなんて今さらだ。
抱きしめる腕は妙に優しいくせに、体を貫く熱は激しくて苦しい。解されたって、この熱量を受け入れるように出来ているわけじゃない体は、どれだけ回数を重ねてもこうして御幸を受け入れる時に感じるのは痛みだ。
それが今の御幸と俺の関係を如実に表しているようにも思えて、何だか笑えてしまった。







「ぁ、ぁ…!ひぁ…ッン…!深…っぁ…!」


腰を掴まれて、一番深いところ、臍の裏側にある俺の良いところを的確に刺激されると、くらくらと眩暈がした。
カリの部分がずぶずぶと奥に入り込んで来たかと思うと、一度一気に引き抜かれて入口の浅い部分を蹂躙する。ぐじゅぐじゅと音を立てる入口の粘膜は既に御幸の熱で溶けてジンジンと熱を伝える。内壁が御幸のモノに絡んで、それを押し広げるように入って来る熱が俺の体を満たしていく。


「もっ…う、…!みゆ、きぃ、…!」


肩が震えて、絶頂が近いことを何とか伝えると、腰を抱いていた手が前に回って来る。
既に先走りで汚れる鈴口から、流れるそれを掬い取られるとゾクゾク背中が粟立つ。片手で先端から根元まで、裏筋の皮膚の柔らかいところを撫でられるともう駄目だった。
床が汚れるだなんて今更で、今はもうそんなこと考える理性なんてどこにもなくて。
御幸、と名前を呼んだら促されるみたいにカリで爪を引っ掻かれて、それと同時に御幸の手の中に熱を放った。
体が収縮して、きゅうっと腹部に力が入ると、中に入っている御幸をさっきまでよりもずっとダイレクトに感じる。そんな俺の締め付けに、御幸もまた小さく呻いて俺の中で爆ぜる。
ドクドクと注がれる精液の感覚も、やっぱり慣れない。体の中を満たしていくそれは熱くて、苦しくて。思わず背筋が震えた。そんな俺を見ながら、御幸が小さく後ろで溜息をつくのが分かった。…なぁ、それは一体なんの溜息なわけ?

(正直、溜息付きたいのは俺の方だ…。)

そういえば終わった後の、この虚無感もあんまり好きじゃない。
とりあえず抜いて欲しくて御幸の方を振り返ったら、一瞬だけ見えた瞳に映る今までに見たことのない色に、一度瞬きをした。


「…御幸…?」


まだ御幸のものを体内に受け入れたまま、何とも情けない格好で力なく問いかける。
沢村、と俺を呼ぶ声は行為の最中に呼ばれるその音と同じものだった。



「沢村、お前のことが好き過ぎて、俺はいつかお前のことを壊してしまいそうだ。」



それこそ、泣きそうな子供のような声で御幸が言う。

(…ずりぃ…。)


そんな風に囁かれた言葉と、注がれた熱に浮かされて、声が張り付いたみたいに何も答えられなかった。
本当にこいつって、可哀想な男。







だけど、だからこそ愛おしい。










御幸一也という人間に対する評価はある一定のベクトルに向かって類似の傾向を持っている。
『完璧』で、『特別』。
だけど実はその内面が欠陥に溢れていることを知っているのは俺だけ。


こんな関係、傍から見れば馬鹿だと思うかもしれないけど。
それでもそんな御幸が愛おしく思えるのは。







つまり愛だといっても、何もおかしくないんじゃねーのかな。








***

匿名様に捧げます、ヤンデレ御幸×沢村…です…。
御幸が裏では凄く病んでて、沢村がなんだかんだでそんな御幸には甘い……というリクエスト頂いていたのですが、なんだか…これ二人ともただ病んでるだけなんじゃ…(がくぶるがくぶる)
恋は盲目とよく言いますが、そんな感じで相互に依存してる二人が書けたらいいなと思ったんですが、御幸がまさかの喋らない…!
久しぶりのエロということもあって、エロ度も薄くて大変申し訳ないのですが…!

沢村が好き過ぎて言葉より先に手が出ちゃった御幸と、御幸のことが好きだから何でも許してることに気づかない沢村…な雰囲気が少しでも出てたらいいなぁ…と思いつつ…。

素敵なリクエストありがとうございました。
そして、温かいコメントも本当にありがとうございました!
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

大好きですー!






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