何も知らない君がこわいよ |
*小学生の頃 ずっと“同じ”だったはずなのに。いつからだろう? “同じ”より“違う”もののほうが増えた。 例えば、ほんの些細なことで言うと、ずっと同じサイズの服を色違いで着ていたはずなのに、いつの間にか俺の方がワンサイズ大きなサイズを着るようになってた。これに、栄純は不公平だと怒っていたけれど。(だからたまに俺の服を勝手に着ては、ぶかぶかだと、また一人で勝手に怒ったりしていたりもしてた。) だけど俺はそれだけじゃなくて、また一つ栄純との間に“違う”ものが増えることに、どこか恐怖のようなものを感じてたのを、栄純はきっとこれっぽっちも気づいてなかっただろうな。 「なー、一也、聴いてる?」 「んー?聴いてる聴いてる。………………………なんだっけ?」 「んだよ!聴いてねぇじゃんか!」 「ごめんごめん。」 「だからさー!隣のクラスのユリちゃんがさー!すげー可愛くてさー!!」 「……ふーん。」 「……キョーミなさそうだな、お前。」 「だって、ねぇもん。」 「………。」 ピタリ、と横を歩いていた栄純の足が止まる。 それに合わせて自然と、俺の足も止まる。 下校中、いつもの道、人通りも車の通りも少ない道のど真ん中に2人して止まり込む。 俺の言葉に、一瞬むすっと顔を歪めた栄純が、ちぇ、と小さな呟きを1つ。その後拗ねたように足元の小石を軽く蹴ってから歩き出した。 その後をまた、同じように一瞬遅れて追う。 (…だって、本当に興味ねぇんだもん。) お前はその理由を、知らないかもしれないけどね。 …そんなことを言えるはずもなく、心の中でちょっとだけ前を歩く小さな背中に向かって投げつけた。 「あーあ。俺も彼女の1人や2人、欲しーなー。」 ちぇ、ともう一度呟く栄純の隣で苦笑する。 「っていうか、2人いちゃまずいだろ。」 「それくらい、ってことだよ。ひゆだよ、ひーゆ!!……いーよな、一也は。」 「…お前今、比喩、ってあんまり意味が分からず使っただろ。」 「…そんなことないぞ。」 「ふうん。まぁいいけど…で、なんで?」 「へ?」 「俺がいーなって、言わなかった?」 「んー?だって一也絶対すぐに彼女くらい出来るじゃん。」 「………いらねーし。」 「はー!?」 「いらねーよ。彼女なんて。」 「うーわ…なまいきー…。子供のくせに生意気だ!」 「根っからガキンチョのお前に言われたくねーな。」 唇を尖らせてムスリと顔を歪める栄純の横に追いついて並んで歩きながら、心の中で小さな溜息を一つ。 本当にこの幼馴染は俺のことを全くもって分かってない。 …いや、普段はそうでもないんだけど。流石に生まれた時から知ってることもあって、まるで双子みたいに、行動がシンクロすることだってあるし、お互いの考えてることを読み取れることだってある。 だけどこういう、そう、恋愛とか、そういうことに関しての栄純は俺のことを全くもって分かってない。…俺が、ばれないようにしてるってのも、あるんだろうけど。 彼女?好きな子?…そんなの全然、わかんねーし。 なぁ、俺がわかんねーこと、お前に分かんの?栄純。 (ああまた1つ。俺と栄純の間に“違う”ことが増えてく。) それは、焦りとなって俺の心に降り積もる。 確実に、ゆっくりと。 「あーあ、ユリちゃん、付き合ってくんねーかな。」 俺は止まりそうになる足を何とか動かして、栄純に合わせるように急いで足を踏み出した。 …そうしないと、なんだかそのまま立ち止まってしまいそうだったから。 [←] |