God only knows...? |
*大学生×陰陽師 タイムスリップもの 夢、には2つの種類があると思う。 1つは、本当に叶ったらいいのになと思う夢。 そしてもう一つは。 夢だったら良かったのになぁ…と思う、夢。 「御幸!やっと帰って来た!遅い!待ちくたびれた!遅い!」 「はいはいはい…。そんなに叫ばなくても聴こえるっつーの。」 …だけど得てしてどちらも願い通りにはいかないものである。 それ、に出会ったのは今から2週間ほど前のことだった。 その日は確か大学の新歓コンパの帰りで、2年ってことで新入生を迎える準備をする学年であったこともあって、いつもよりもだいぶアルコールも入ってほろ酔い気分だった。普段そう酒に弱い方でも無いのに、半分ふわふわと世界が揺れていた感覚は覚えているから多分その日は相当だったんだと思う。 理性もある、記憶が飛ぶほどでもない。歩けないほど足がふらつくと言うほどではないし、周りも見えている。だけどどこか上機嫌で、心なしか体が火照って、まだ春先の寒い夜空の下を飄々と歩いていた。 通り道にあった公園に咲いていた桜の花弁はもうそろそろ葉桜になるのが見えた。もうじき春も終わるその様子を横目に通り過ぎて、住宅街に伸びる道路に沿って立つ電信柱に点々とする灯りがひっそりと夜道を照らす。 人が寝静まった住宅街ほど、静かな場所は無い。時刻は深夜。 そんな人の気配も何も無いその場所で、俺は“ソレ”に出会った。 「…あれ。…あれ!?」 人が物思いに耽ってる中、ガサガサと無粋な音が響く。 …ハイハイ、人に回想すらさせてくれないわけね、コイツは…。 仕方なくため息一つついて、その背中に声をかける。 「なんだどうした、居候。」 「御幸!今日プリンは!?プリンねぇの!?」 「…毎日プリンばっか食ってたらいつかお前の体がプリンになんぞ。」 「えええええケチ!ケチー!!」 「はいはい。ケチで結構。」 ぐるりと体を反転させて俺と向かい合うようにしながら、ジタバタ手足を動かして全身で不満を訴えるちっこいソレに、大きな溜息を一つ。 動く度にピョコピョコ動く跳ねる黒髪と、地面を擦る衣擦れの音。動く度に無駄に面積の多い布がフローリングの床の上を滑るもんだから、ここ最近無駄に家の中が綺麗だ。 「だったらいい。俺が自分で買いにいく。」 「おい待て。そのまま家から出る気か、コスプレ少年。」 「こす…?…ぷ…?なんだよそれ!意味のわかんねぇ言葉で俺を呼ぶな!」 「……。」 「その、こ……なんとか、ってやつは何か知らねーけど、俺には沢村栄純っていう立派な名前があるんだよ!」 拗ねたり笑ったり怒ったり。 今は怒ってる最中みたいだけども、無駄にデカイ目をぐりぐり丸められて頬を膨らませられても、正直全然迫力の欠片もない。 ただもう一度、御幸の溜息の回数が増えるだけだ。 「…沢村…。」 名前を呼ぶと、顔全体をゆるゆると緩めて、嬉しそうに笑う。 まるで犬のような、小さな子供のような…そんな良く分からない生き物は、酔いに任せてふらりと歩いた夜道で拾った、自称“陰陽師”だった。 その自称陰陽師、沢村栄純との出会いはそれはもう衝撃的だった。 初対面は、夜。夜道にポツリと何かよくわからない影があって最初は酔っ払いか何かかと思ったのだけれど、それにしてはあまりにも妙で、不審者かと訝しみながら近づいて見れば、それはまだ子供の年齢の少年。驚いて思わず声をかけたら、こちらに向けられたまるで夜空を映したみたいな瞳に一瞬息を呑んだ。 薄明かりのせいでよく見えなかったけど、身長は御幸より頭一個ちょっと低いくらいの高さ。見上げてくる目は漆黒で、髪もそれと同じ色。今にも闇に溶けそうなくらいおぼろげな印象を全身から放ちながら、沢村はひっそりと佇んでいた。なんでこんなところに子供が(とはいっても御幸自身もまだ子供にカテゴライズされる部類なのだけど)、と思って問いかければ、返って来た言葉に驚いた。「ここはどこだ…?」と凛と鈴を鳴らしたように響く澄んだ声。迷子なのかと、どこから来たのか問いかければ、少し思案するように少年が視線を明後日の方向にやる。けれどそこにはまだ明け方には早い空には月と星だけが広がっているだけで、元々あまり車も通らないような細道だからか、俺と沢村の二つの影以外に何の気配もしなかった。その静寂の中に落ちる音。少年の口から聴こえた聴いたこともないような地名に、一瞬首を傾げる。何処だろう、もしかして随分遠くから来たのかと不安になったその時だ。 「…陰陽寮に帰ろうと思ってたのに、いつの間にこんな意味の分からないところに…?」 「…は?」 「今日はいつもより激務で疲れてるし、明日も朝一で仕事があるってのに。式神もいくら呼んでも出て来ねぇし!!」 さっきまでのどこか儚げな印象もどこへやら。 突然一人でそうぶつぶつ離し出す様子を見て、俺は少しずつ声をかけてしまったことを後悔し始めていた。 (あれ…?もしかしてコイツ、危ない奴…?) よくよく見てみれば格好もどこかおかしい。 古い…まるで着物のような服に草履姿。何のコスプレだと思うようなその格好と、口から出る言動は、正直正常とは思えない。そもそもこんなところに夜中にこんな格好でいるのは絶対におかしい。考えれば考えるほど、おかしい。そういう部類のものなら正直関わり合いになるのはまっぴら御免だ。 逃げたい。だけど家はコイツを越えた方向にある。ここを通らないと帰ることは出来ないし、それにもう既に声をかけてしまった。無視して走り切るのがきっと最善だ。でも―――…。 (…結局関わるどころか住みつかれちまった、っていうね…。) プリンを諦めて、変わりに冷蔵庫から取り出したジュースを片手にコップを取りに走る姿を目で追う。そのぎこちない仕草はまるで一人で何かをすることを覚え始めた年くらいの子供のようだ。見た目は中学生くらいなのに、そのギャップが酷くアンバランス。そのぎこちない仕草でコップにジュースを注ぎ終わった沢村は、ふう…と息を吐いた。 確かに見た目はそこそこの年のようだけども、中身は全くもって不思議なくらいに“子供”。 それもそうだ。 御幸にとって常日頃当たり前にしているそんな行動も、沢村にとっては全て初めて(らしい)なのだから。 「…零すなよ。」 「む。零さねぇよ!」 「この前派手に倒してたヤツの言うセリフじゃねぇな。」 「う……!だ、だって、あんな簡単にこっぷが倒れるなんて知らなかったし…!」 「……。」 そうっと、そうっと…見ているこっちがじれったくなりそうなくらいゆっくりとコップの中を覗きながら、沢村がキッとこっちを睨んで来る。俺とそう年も変わらないように見えるのに、沢村は生活における行動が全てにおいてぎこちない。その理由は簡単で、その殆どが最近俺が教えたものだからだ。沢村がここに住み着き始めた当初、こいつは自分では何一つ出来ない奴だった。 いや、もちろん、歩くだとか走るだとか、そういう基本的な日常動作には何の問題もない。読み書きも出来る。だけど、生活していくための、俺にとっては極“普通のこと”、が沢村は普通には出来ないようで。…それはここ数週間で、身をもって痛感した。 (陰陽師…ねぇ…。) 沢村の言う事が正しければ、この少年、沢村栄純は、遥か昔、平安の世から現世にタイムスリップしてきた陰陽師らしい。 …もちろんそんな夢物語を、簡単に信じる俺ではない、が。 行くところが無いという沢村を家に置いて、暫く様子を見ていると、それはもう不思議なことに沢村は“無知”だった。驚くほどに。 そんな様子を見て、「まさかなぁ…」という疑念が日に日に膨らんでいく。 まず最初に、連れて帰った家を見て大口を開けて、エントランスの自動ドアにビビる。エレベーターにのってビクビクしたかと思うと、ドアにぶつかってこける。家の中に入ってきても、落ち着かなそうにきょろきょろしてみては、これはなんだとか、あれはなんだとか、煩いくらいの質問攻め。風呂もトイレも…それどころか水道1つまともに使えないときた。 今までお前はどんな生活をしてたんだと聴けば、こんなもの今まで見たことがない、とキレられる。 その後沢村の口から飛び出るどこの歴史の教科書の中の話だというような生活の数々に、ああ設定も細かいんだな、馬鹿そうに見えて記憶力はいいのか立派立派、…なんて半分バカにしていたというのに。 数日もすればボロが出るだろう。 そう思って共に暮らして数週間。 沢村に対する違和感はどんどん大きくなっていくばかりだった。 「つか、お前、着替えとけって言ったのになんで格好もそのままなわけ?」 「ん?」 「き、が、え。」 「…ああ。あの薄っぺらい布みたいなやつか!」 「……Tシャツですよ、沢村さん。」 「あんな変なところに穴がある布なんて、どうやって着ればいいのか分からん。」 むすっとした顔のまま、プリンを諦めたらしい沢村が、引っ張った椅子の上に胡坐をかいて器用に座りながらそういう。 いつまで経っても同じ服しか着たがらない沢村に、新しく部屋着を与えたってのに、この言い草である。 「いやいや、被るだけだろ。」 はあ…と溜息をついて、俺が置いて行った時より若干乱れておいてある(どうやら着ようとした努力はしたらしい)Tシャツとズボンを手に取って沢村に放り投げる。 それをワタワタとキャッチした沢村が、じっとTシャツと対峙するのを見ていると、観念したのか着ていた重苦しい着物をスルスル脱いで、Tシャツを被ろうとした………のだけど。 「うえ?え?…えええ…?」 変な奇声を発したかと思えば、そのままドタバタと足踏みをするような音。 (……変な生き物がいるわ……。) Tシャツを頭に被ったまま、ぐるぐるその場を回る様子を見て、思わずぶはっと噴き出した。 どうやらどこから頭や手を出したらいいのか分からないらしい。マジか。これ本気でやってんだろうか。 でもそんな沢村から伝わって来るのは焦りばかりで、どこにも演技の欠片も見えない。 そんな様子を見て、俺は思わず立ち上がってズボンの後ろポケットに手を突っ込んだ。 「な、な、なんだよ!笑ってないで助けろ馬鹿!」 「…っぶ、…は…!はは…!」 「ぬ…!?カシャッ、って何の音だ、何の!?」 「へ?ただの写メだけど?」 「しゃ…、…目…?」 首を傾げようにも服の中じゃ狭かったらしい沢村が、またワタワタと動く。助けろ!とか、馬鹿!とか、そんな罵声が飛んで来るものの、正直笑うしかない。 仕方なく近寄って、頭からズボッとシャツを抜いてやったら、顔を出した沢村が大きく頭を振った。 「……しぬかとおもった………。」 「着替えようとして窒息死なんて末代まで語り継がれるぜ、沢村。」 「うぐぐぐ…!!」 悔しそうにTシャツを見て、おもむろにそれをぺいっと八つ当たりするかのように投げる様子を見ながらまた笑う。 最初こそ変な奴だと思ったものの…いや、それは今も思ってるけども…、最近じゃ沢村のこういった反応を見ているのが楽しくて仕方が無い。 「うん、よく撮れたよく撮れた。」 「…?なにが…?」 「写真だよ、写真。」 ホラ、とさっき撮った沢村の写真の写った画面を向けてやると、一瞬ぽかんとした沢村が、次の瞬間まるで何かにとりつかれたような顔をして、サァアッとその顔を絶望一色に染める。 「な、な、な…!」 「は…?」 「なんてことしてくれんだお前!!!」 「……はい?」 「寄りにも寄って…!こんな…!こんな力の気配すら全く感じないような能無しに、封印されるなんて…!」 能無し少年に能無しだと言われるこの屈辱。 …つか、まぁそれは置いといて。なんだって? 封印? …また新しい不思議ワードが出たよ、オイ。 「…封印…って…。」 「うああああ!!俺の魂返せ、馬鹿野郎!!」 「……もしかして写真のこと?」 「しゃ、し…?」 携帯をぷらぷら振って見せれば、少ししてから沢村がハッとしたように自分の体をペタペタと触る。確認するみたいに素っ裸になった状態で自分に触った後、顔までべたべた触りながら、何ともない…?と呟く。 「お前、写真も知らねぇの?携帯も?」 「……知らねぇ。」 「マジか…。」 ここまで来るとなんだかもう、徹底してるとかそういうの通り越して、大丈夫かと心配になる。 平安だとか陰陽師だとか、そんなの全然、何一つ信じられないけど、それでも沢村がどう考えても普通じゃないのは紛れもない事実で。 (どうしたもんかな、これは…。) さすがの俺も、すっかりお手上げ状態だ。 「…お前、本当に平安時代から来たわけ?」 「平安京は確かに俺の暮らしてた都だけど…。」 「…それでお前の職業は、」 「陰陽師。」 「…そうですか。」 この問答も何度したことか。 それでも沢村はいつだってこの二つの答えの一点張り。 「現代にそんな職業もないし、ここは都は都でも東京都なんだけど、それは聴いたことないんだろ。」 「とーきょーと…?」 このやり取りももうそろそろ耳にタコが出来そうなくらいには飽きた。 これが演技なのだとしたら、こいつは相当優秀な俳優になれるんじゃないだろうか。 パタン、と携帯を閉じながら溜息を一つ落とす。 (本当に訳が分からない奴だよなぁ…。) 早めに放りだしておけばよかった、そもそもあの時声をかけなければ…、と、後悔することも少なくなかったのだけれど、最近問題なのは、段々とそれだけじゃ無くなってきているという事実。 最近じゃ、コイツから目が離せなくなってきてるのもまた、現実。 ああこれはヤバいところまで来てるなぁと実は内心思っていたりもするのだ。 まるで子供みたいに純粋な、何にも染まっていない沢村を見て、楽しんでいる自分がいる。この存在を、自然と受け入れ始めている自分。 少なくとも、他人をパーソナルスペースに入れるのをあまり好ましく思っていなかった自分が、こうして沢村と同居することに何の違和感も感じなくなり始めているくらいには。 (こんな、得体も知れない奴なのに。) はてさて一体どうしたもんか。 そんな俺の内心の溜息なんて微塵も気にした風もなく、突然ガバッと沢村が顔を上げる。そんなことより!と、恐ろしいほど切り替えの早い沢村が、声を張り上げた。 「御幸!プリン買いにいこう、プリン!」 「…お前と出かけると変な目で見られるから却下。」 「えーー!!!」 「…お前は平和な奴だねぇ。」 「ん?なんか言った?」 「馬鹿だなぁって。」 「馬鹿っていうな馬鹿って!!!」 「それは聴こえるのか…。」 俺の言葉に素直に反応する沢村を見て、ぷっ…と噴き出したあとに少しだけ息を吐く。 …ほらこういうの、ちょっと楽しいと思ってる自分が確かにいる。 面倒事は嫌いだ。極力なら巻き込まれたくは無い。それが得体のしれないどうしたらいいものか分からないようなモノなら、なおさら。 だけどもう、引き返せないところまで来ているとしたら、一体どうすればいいのか。 (あの日あの場所を通ったことが、運の尽き?) だとしたら俺はもういろいろと手遅れなのかもしれない。 「…じゃあ、その服着れたら、連れてってやるよ。」 そんなことを、再びTシャツと格闘する沢村を見ながら心の中で思って溜息をついた。 (…いっそ夢だったらよかったのにな。) けれど現実はそんなに甘くない。 …さて、この不思議な少年との出会いも正体も。 全ての運命は神のみぞ知る。 *** 1周年企画で、ミスト様に捧げます。 陰陽師パロです。 …陰陽師…? …というかもう沢村さんがただの不思議ちゃんなだけ…という…! あわわわ…!折角の素敵リクエストをあわわわ…! そしてこの続きそうな感じが何ともまた^▽^! なんで沢村さんは現代に来たのか…これからどうなるのか…は、それこそ神のみぞ知るといった具合ですが、またこっそり何か書けたらなぁ…と…! 沢村さんと御幸は年の差1歳ですが、昔の男性の方が体格はちょっと小さいと思うので、頭一個分体格差があるという細かい設定が実はこっそりあったりしまして…← いろいろと書きたいネタもまだあるので(倉持さんのこととか…><)また突然何かやらかすかもしれま…せん…^^ その時はお付き合い頂けると…泣いて喜びます…// 以前私が勝手に語った妄想をリクエストして下さったミスト様に心から感謝をしつつ…! 本当にありがとうございました! これからも宜しくお願いしますー! 企画へのリクエストありがとうございました! 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