まぁ、たまにはこんなことも。 |
*倉持×亮介さん 最近の男って、優しさと何かを履き違えてるよねぇ。 …と、クラスの女の子達がいつぞやそんなことを言っていたような気がする。 だから草食系男子とか呼ばれるのよ、と話している彼女たちを見て、今やもう男だって普段の言動まで品定めされる時代なんだなぁとその時はちょっといろいろ考えさせられたっけ。 男である自分が言うのものなんだけれど、確かに最近は軟弱な男が増えているなぁとは思う。 まぁ他人のことなんか俺が知ったことじゃないから、別にどうでもいいんだけど。 (草食系、なんて定義はよく分からないけど、) 心の中でぽつりとそう小さく言葉を落とす。 「亮さん!俺、亮さんのことが好きなんです!」 何となく普段はそれに近いであろうと思っていたはずの後輩に、なぜか今必死の形相で迫られる、俺。 「…そうなんだ。」 さてさて、これは一体全体何が起きたんだろうか。 対峙した倉持の顔に映る焦りとか羞恥とか、それから瞳の奥底に薄らと見える躊躇いの色とか、そんな色々な感情がごちゃまぜになったような表情を見ながら、気付けば思ったことをそのまま口に出していた。 すると、どうやら俺から返って来た言葉が不満だったのか、倉持の顔の焦りの色が濃くなる。 「そ、そうなんだ、って…!」 「ああ、ごめんごめん。ちょっとうっかり口から素直に本音が…。」 「本音…。」 「だって倉持がいきなり変なこと言うから。」 見るからに肩を落とした倉持が、さっきまでの勢いはどこへやら、一気にしょぼくれた声を出す。 普段後輩や同級生に見せる顔とは随分と温度の違うその様子に、まるで犬のようだと心内で笑えるのも、先輩としての特権なのかもしれない。思わず小さく笑えば、顔を上げた倉持の眉間に少しだけ皺が寄る。「なんで笑うんスか…。」と俺の方を探るように見る目に、緩く口元に笑みを浮かべると、さぁなんでだろうね、と曖昧な返事を返した。 (一体何事…。) 誰かに炊きつけられたのか、勝手に一人で何かを思ったのかは知らないけれど、何ともまぁ珍しいこともあったもんだ。 前々から何となくこの後輩には、もしかして好かれてるのかもしれないな、と思ってはいたけども、倉持の性格は重々承知だったから、なかなか口には出さないだろうと思っていたのに。突然放課後校内で呼びとめられてのいきなりの言動に、流石の俺も面喰らった。 好きです、なんて言われて。 それってどういう意味?なんて返せるほど、俺は鈍くは無い。 「…ふうん。」 「…一応言っておきますけど、先輩として、とかじゃないですよ。」 「そんなこと言われなくても分かってるよ、バカ。」 「う…。」 これでも人を見る目はそれなりにあると自負してる。 その上何だかんだ言ってこの1年、一番近くでいろいろなことを共有していた相手なのだから、向けられる視線に含まれる意味だってもう随分と前から気付いてた。もちろん、倉持に言ったら凄い勢いで取り乱しそうで面倒…、…取り乱しそうだから言わなかったけど。 でもいつか、言ってやってもいいかなとも実は勝手に思ってたりもしてたのに。「俺ね、知ってたよ、倉持。お前の気持ち。」って言ってやったらきっと凄く吃驚した顔をして、慌てて、ジタバタして、でもそれから観念したみたいに、「意地悪です、亮さん。」なんて言ってくれるんじゃないかなぁ…、なんて思ってた俺の密かな計画が、まさかこんな形で水の泡になるだなんて。これは全く予想していなかった。 「で?」 「へ…?」 「なんでいきなりそんなこと言おうと思ったのかな。お前は。」 「……なんとなく…。」 「ふうん。なんとなく。」 訝しげに視線を向けてやると、倉持がばつが悪そうに、居心地悪そうに一度左右を見てから、溜息をつく。 言いたくなさそうだね。…まぁ大方、御幸辺りに痛いところでも突かれたんだろうけど。 後輩同士の分かりやすい交友関係に小さく溜息が洩れた。 (ばかだなぁ、全く…。) 倉持はいつだってもうひと押しが足りない。好きだ、なんて正面切って言われた時は流石の俺でもちょっと動揺したのに、少しつついただけで倉持の方がよっぽど困った顔をするから、俺の方が冷静になっちゃった。あと一歩踏み込んで来てくれれば…ねぇ。 ほんと、詰めが甘いよ、そういうトコロ。 …ああもう。 やっぱり結局、俺の方が歩み寄らないといけないわけね。 手のかかる後輩だなぁ、と、こっそり笑う。 「俺ね、知ってたよ。倉持。」 お前の気持ち。 黙ってこちらを伺う倉持を見ながらそう用意していたテンプレート通りの言葉を呟けば、弾かれたようにその頭がガバッと起きあがる。 「……え!?」 俺の言葉に、案の定いつもは鋭いその目を驚愕にこれでもかってくらい大きく見開く倉持の顔が見えて、クスリと笑った。 順番は狂ったけど、この辺は予想通りだから、まぁいいかな。 「亮さん、ちょっと待っ…、知ってた、って…!」 「言葉通りの意味ー。」 「えええ…!?」 「分かりやす過ぎるんだよ、お前が。」 「…意地悪です、亮さん。」 「そんな俺が、好きなんでしょ?」 そうそう。俺は意地悪だからね。 分かってることだって、遠慮なく聴くよ。それから俺は性格だって悪いから、ね。 どんな返事が返って来るのかも大体分かってて、聴いてるんだよ。倉持。 「…好きです…。」 望み通りの言葉に、一歩近づいてその顔を覗き込む。亮さん、と俺の名前を呼ぶのよりも早く、それに被せるように小さく息を吸ってから微笑んだ。 「俺も好きだよ。」 さて。 元々の俺の予定は狂ってしまったわけだけど。 こんな風にたまに起こるイレギュラーは、まぁ満更でもないかな。 (あんな風に好きだって言われるなんて、思わなかったし。) ああでも、これから暫くは、やっぱり俺の思った通りに、動いてくれたら嬉しいけどね。 ……だって予想外なことをされると、俺の仮面が思わず崩れそうになってしまうくらいには、俺はお前のことが、好きだから。 *** いつもお世話になっています、素敵なお友達へのプレゼント。 くらりょ…!もしかしたらしっかり原作なくらりょを書くのは初めてかもしれないくらりょ…! いろいろと未熟な点はお見逃し頂けると嬉しいです…! [←] |