various looks | ナノ

various looks


*出逢いから3年目頃



やっぱり芸能人ってのはいろんな顔があるんだなぁと、御幸を見ているとつくづく思う。

そりゃもう、出会ったころからお前は宇宙人かと問いたくなるくらいに常識とか日本語とか、普段の生活ではそういう大切なもん全般が圧倒的に足りない御幸さんではありますが。
一応イメージみたいなものはあるのか、たまに見かけるテレビではすごくまともなしゃべり方をしていて、無駄なことは言わずにスマートに対応している様子を見ると、お前は誰だと思わずお玉片手にテレビに突っ込んでしまいそうになるくらいだったりする。
その上最近じゃ、メディアの露出も増えてドラマなんかも出るようになって、俳優顔負けの演技をやってのけたりもするから、神様はなんでこいつをこんな贔屓してるのかと思う事も少なくない。本業の写真にドラマにトーク番組などのバラエティ…そのどこで見ても、なんとなく御幸からはいつも違う印象を受ける。そういう時に「芸能人って怖ぇ…。」と、同じく芸能人であるはずの俺が突っ込むくらいなのだから、御幸の変化率ってのは相当だと思う。…とはいっても、それを知っている人間がどれくらいいるのかは定かではないけど。
「御幸君ってすごく知的なイメージだよねー!」とこの前出かけた本屋で、御幸がどでかく表紙を飾ってる本を囲んでキャイキャイ騒いでいた女子高生たちを見た時には、テレビって凄いんだなと改めて思った。
少なくとも俺は御幸に世間一般が言う「知的」だとか「クール」だとか、「大人」だとか、そういうイメージは持ったことが無い。


「沢村くん、沢村くん。」
「…今は話しかけないでください。」
「沢村くんさ、明日の仕事は午後から雑誌の撮影だったじゃん?」
「………。よーし、今日は敢えてこっちに突っ込むけど、…なんでお前が俺の仕事の予定を知ってるのかな?それも!毎日!毎日!!」
「えー?愛のちか、」
「茶化したら3日間口聞いてやんねーぞ!」
「…………クリスさんに聞いたから?」


へらへら笑いながらソファに座っていた御幸が、俺が一度ギロリと睨んでやると、一度何かを思案するように肩を竦めてから、小さく観念したように息を吐いてそう白状した。
最近ちょっとだけ御幸の扱い方が分かってきて(漸くというか今更というか)これくらいだったら余裕であしらう方法を覚えた。…どうせならもっと早く会得したかったもんだけど、同居とかその他もろもろほとんどのことを許してしまった今となっては結構もういろいろと時既に遅し、でしかない。
そんな俺の最近の武器の一つ。
前に一回脅しで「3日間口聞いてやんねぇから!」っていつものごとく売り言葉に買い言葉で返した後、それはもう奇跡的に御幸と仕事の都合で会えない日が3日続いて、図らずも有言実行してしまったことがあるんだけど、何やらその間御幸は結構気が気じゃなかったらしく、珍しくあれはトラウマだとその綺麗な顔を歪めて言っていたから、それから俺はことあるごとにそのネタを使って御幸の上手に立とうとしてる。…卑怯?……いやいや作戦です。
普通にしていたら御幸に口では勝てない………なんてことは認めたくはないけれど、それでもやっぱり言いくるめられてしまうことの方が多いのもここまで来ると認めざるを得ない事実ではあるから、使える手はどんどん使うぞ。俺は。卑怯なわけじゃない。策士と言って欲しい。


「人のプライバシーを普通に侵害してんじゃねーよ!」
「だってそうしないと沢村君、仕事の予定教えてくんないし。」
「…必要最低限は教えてるだろ。」
「1週間に一回くらい、“多分”とか“かも”とかをそれはもうこれでもかってくらい多用してね。」
「…………。」


そ、そうだ…っけ?
俺としては結構こまめに伝えてるつもりだったんだけど。…そうだっけ?
確かに言われてみれば、そんな気がしないでもない…というかそもそも俺は、あんまり自分じゃスケジュール管理するってことが得意じゃなくて、クリスさんから予定ごとにメールが入ってくるっていうのがデビュー当時からの常であるからして、マネージャーの礼ちゃんさんに事務以外頼むことがないっていう御幸とは違って、まぁ簡単にいえばルーズなわけで…。
うん。俺は悪くない。週に1度近い予定を知らせてるだけで結構な進歩だ。

それにしても、前々から過保護な御幸は、ことあるごとに俺の予定を知りたがってた。最初の頃はしつこいくらいに聴かれてたってのに、最近あんまりそのテの話題に触れてこないと思ったら…そういうことか。

(うう…クリスさん酷い…。)

信頼してたのに!…いや、今ももちろん絶大な信頼を寄せているけども!
マネージャーのクリスさんの顔を脳裏に浮かび上がらせながら小さく溜息をつく。クリスさんは確かに良い人だけど、そういえばクリスさんも御幸に負けず劣らず…、


「クリスさんも心配なんだろうね。俺がスケジュール知ってたら、お前が遅刻したりすることもないし、帰宅時間も分かるし、喜んで教えてくれたよ。」


…過保護なんだった…そういえば…。
青道の4人の中で、倉持先輩以外の俺を含めた3人はみんな同い年だってのに、特にその中でもなぜか俺が一番色々クリスさんに世話を焼かれる。
一応クリスさんには引越したことも、人と住むことも、…それが御幸だってことも伝えてあったけど、まさかそれがこうもマイナスの方向へ進むとは…。


「うう…!!俺は籠の中の鳥…!」
「そんなこと言うと本気で閉じ込めるぜー?」
「アンタが言うと冗談に聴こえないからやめてください。」


真顔でそういうと、はっはっは、と軽い笑い声が返って来る。


「ところでさ、沢村君。」


そんな軽快な声の後に、ふと御幸の声音が変わる。
呼ばれた名前にギクリとする。ドキリ、なんて可愛いもんじゃない。ギクリ。
これでも伊達に数年の付き合いをしてるわけだから、御幸の声で大体嫌な予感ってのは感じ取れるようにもなった。これは駄目なタイプの奴だ。すぐに話を変えないとドツボに嵌るタイプのやつ。


「沢村君不足なんで、補給希望なんだけど、…」
「お生憎ですが本日既に売り切れておりやす!」
「そんなつれないこと言わずにさぁ…。」
「ぎゃあああ寄るな変態!」
「変態って…。」


ソファに座っていたはずの御幸が立ちあがって、その無駄に長い足数歩で俺の立っていたキッチン側の廊下の方へとやって来る。その間ほんの数秒だったせいで、全くもって逃げられなかった。ただワタワタとしている間に、気付けば御幸と対峙していて、一度左右に視線をきょろりと彷徨わせてみたものの、頭の中でゲームオーバーの鐘が鐘の音を鳴らす。
御幸とここまで距離を詰められたら、もう俺に逃げ場は無い。
これも、これまでに学んだことの一つ。逃げたいなら早めに距離を取れ、という教訓はもう既に役に立たない。
御幸の手が伸びて来て、その手の甲が、するりと頬骨の辺りを撫でる。「酷いなぁ。」とそんなこと欠片も思って無さそうな顔で笑いながら。


「…っ、」


そのまま顔を包み込まれるように輪郭にそって這わせられた手に小さく心臓が波打つ。無駄にどこもかしこも造形がいいせいで、触れられる度にドキドキしてしまう。つくづくイケメンってのはズルイと常々思うものの、結局絆される自分が憎い。


「最近仕事も忙しくてなかなかゆっくり出来なかったし。」
「…俺、あしたも仕事なんだけど…。」
「そうだね。だからさっき確認したじゃん?明日は撮影だけでしょ、って。…午後からのね。」
「アンタと会話してるとなんか疲れる…。」


さっきのスケジュール確認はこれの為か。
綺麗に笑う御幸を見上げると、その眼鏡の奥にある瞳に宿る光に小さく溜息をついた。さっきは比喩表現のつもりだったけど、籠の中の鳥ってのはそんなに間違った表現じゃない。
だって俺はこの目を前にして何も逆らえない。だけどあの日、あの扉を開けて籠に飛び込んだのは、誰でも無い俺自身だ。
脱力感共に息を吐く。すると至近距離から御幸の柔らかくて低い声が響いた。


「ちなみに俺も明日は急遽1日オフなんだよね。」
「は?アンタ暫くドラマの撮影じゃなかったっけ?」
「明日のシーンがどうしても晴天じゃないといけないらしくてね。1日空きが出来たんだよ。」
「…そんならもっと早く言えよ。」
「急だったんだよ今回は。それに早く言っても沢村君忘れるし。自分のスケジュールだってロクに覚えてないのに。」


あー…それを言われちゃ何も言えねー…。


「俺、明日撮影だからな!」
「分かってるよ。」
「…寝坊出来ねぇからな。」
「もちろん。何のためにクリスさんからスケジュール託されたと思ってんの。」


クスクスと笑う御幸の顔が近づく。ああもう、これは観念するしかない。きっと撮影、体だるいんだろうなぁ…。こいつのことだから、きちんと撮影には支障がないようにはしてくれるんだろうけど(その辺は腐っても同業者というか)、それでも通常よりは辛いのには変わりは無い。
それでももう拒むこともなく、ちゃっかり少しだけ裾を手で掴んでしまってるあたり、俺も完全に飼いならされてるなぁと心の中で苦笑する。もう何度目か分からないくらいに弾きだされる自分の中の結論。

籠の中の鳥でもいいかと思えるほどに、この籠が居心地が良いのが悪い。

御幸とは結構長い付き合いになるから、最近じゃ俺が優位に立てることもあるし、その方法だって会得した。嫌な予感だって感じ取れるようになったし、いろいろなことを空気屋雰囲気で悟れるようにもなった。
だけど、未だにそれを回避する術については未熟なままだ。
もっと御幸の色々な言動に対応出来るようにならなきゃなぁ、というのが最近の俺の密かな目標だったりする。

(いつかこいつをぎゃふんと言わせてやる…。)

相手は、演技も出来るスーパーモデル。


「……なら許す。」


それでも、芸能人の御幸は確かにいろんな一面を持っているかもしれないけど、俺がこうやって御幸を許した時に見せる、どんな雑誌に載ってる写真よりも綺麗に笑う顔を知ってるのは、多分、俺だけなわけで。

うん。…それについては悪い気はしねーな。
…なんて、こんなに御幸に甘かったら、目標なんて暫く達成できそうにない。








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1周年企画で頂いた、「芸能パロでお家でイチャイチャ」です。
素敵なリクエストありがとうございました…!
芸能パロへの感想もありがとうございます…!


それにしても…イチャイチャ…?
でも多分休日の二人はこんな感じだと思います^▽^
御幸が甘えて沢村が結局ぎゃあぎゃあ言いながらも絆される…。
きっと次の日に仕事にいって、倉持先輩辺りに怒鳴られ、クリスさんにはにっこり笑われるんじゃないかなぁ…と…。
何年目でもただのバカップルな二人ですが、温かく見守ってやって頂けると嬉しいです。

企画へのリクエストありがとうございました!


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