See,didn't I tell you so? | ナノ

See,didn't I tell you so?


*二人ともプロ野球選手な御沢
25歳前後
まるり様宅の
『beer, kiss, and 』の続きになります



御幸、と上げかけた声をぎりぎり口の中で飲みこんだ。



もうすっかりクリスマスモードに変わった駅前広場は、人待ち顔の人間でいっぱいだ。
その真ん中、時計の下という一番目立つ場所に立つ御幸の周囲には、やや距離を置きながらもすでに「御幸一也」だと気づいたらしい人達のざわめきの輪が出来ている。
…この男は自分が有名人だって自覚があるんだろうか。少しは隠れるとか目立たなくするとかすればいいものを。
まあ待ち合わせをここに決めた時点で俺にも責任はあるんだけれども。

俺がうかつに近づけずにいるあいだに、携帯で一度時刻を確認した御幸が顔を上げて周囲を見回す。
その視線が俺の上で止まって、一瞬丸く見開かれた目が細められ、ふわりと綻んだ笑顔にうっかり毒気を抜かれた瞬間だった。
止める間もありゃしねえ。


「沢村!」
「名前呼ぶなよバカ御幸!」


…あ。しまった、つい。






See,didn't I tell you so?






「なにその眼鏡。帽子も」


慌てて駆け寄った俺の顔を不思議そうにのぞきこむ御幸のノンキさに脱力しそうになる。
周囲からはすでに「やっぱり御幸だ」だの「沢村って、あの?」だのひそひそと聞こえて来てるってのに。


「なにって変装以外の何があんだよ。近頃やたら街中で声をかけられるようになったし、その対策だ」
「ああ、後半戦は特に注目されてたもんなーおまえ。年棒、かなり上がんじゃねえの?」
「あんたほどじゃねえよ。つうか、あんたと一緒にいる時点でこの努力も無意味だってことに今気づいた。どうしてくれる」
「だって俺、もともと眼鏡だし、帽子も普段からかぶってるし。これ以上どうしろって?」
「もういっそ女装でもしとけよ」
「いやいや、俺とおまえの組み合わせで女装すんならおまえだろ」
「いやいやいや、それそもそもの目的からずれてねえ?」


うっかりそんなバカな会話を繰り広げてるうちに、周囲は芋づる式に人が増えていく。
携帯のシャッター音が聞こえて、思わず帽子を深くかぶり直す。
…バカ御幸。外で会うのは久しぶりだから、今日は誰にも邪魔されずに買い物とかしたかったのにさ。


「とりあえず移動しようぜ。このままじゃまずい」
「え、ここで買い物したかったんじゃねえの?」
「だから誰のせいだっつの、この『No.1イケメン捕手王子』め」
「はっは、球団マスコットとAKBを踊るアイドル系投手には言われたくねえなー」
「…!ななななんであんたがそれを…!」
「アホ、ファン感謝デーなんてビデオだらけに決まってんだろ。とっくに動画サイトに上がってるっつの。すげえ再生数だったぜ?」
「知らねええええええ!」


世間って怖え。一億総カメラマンか。もうほんとさっさと逃走するに限る。


「家に帰ったら踊って見せてな?」
「断る!」


浴びせられるフラッシュにちゃんと写ってないことを祈りながら、俺たちは同時に人ごみをかき分けて走り出した。


…何しに来たんだか、まったく。




◇◇




「御幸ー、タオル洗濯機にいれとけばいいか?」
「ああ。頭もしっかり拭いとけよ?」


そして結局こうなるわけだ。


待ち合わせ場所から移動した後、結局買い物中も声をかけられたり写真を撮られたりで落ち着けなくて、おまけに夕方の通り雨にも遭った俺らは早々に御幸の家に引き上げた。
入れかわりで使わせてもらった風呂から上がったら、台所からは何やらいい匂いがしてきている。
背中からのぞいたらちょうどウインナーとポテトの炒めものを皿に移したところで、ろくに食えなかった昼食を思い出してお腹がぐうと鳴った。


「美味そう。一コもらい」
「あ、こら、熱いぞ?」
「む、ふは、あひ、!」
「だーから言ったじゃん」


ふきだした御幸が、ハフハフと開けた口に息を吹きかけて“消火”をはかる。
そのまま頬にちゅ、と落とされた不意打ちのせいで口の中の熱さを一瞬忘れた。
こういう、一見今まで通りの距離感の中に突然織り込まれる『行為』にどうしてもまだ慣れない。
だってしかたなくないか?まだたったの一月だ。おまけにそのうちの半分はお互い秋季キャンプで会ってないんだから慣れる暇もない。
動揺する俺を見て楽しげに笑う御幸が心の底から恨めしい。


「ほら、頭乾かして来いよ。風邪引くぜ?もう12月になんだから」
「ん、ビール俺のも出しといて!」
「はいはい」


御幸とゆっくり過ごせるのは一月ぶり――俺の部屋で失恋残念会を開いたあの日以来だ。
秋季キャンプも終わって、折しも季節は冬に向かうシーズンオフの入り口。
時間的にも気持ち的にも余裕がある、知り合いやチームメイトの結婚式が続く時期でもある。
明日は増子さんの結婚式が都内であって、式場のホテルまでは御幸の家から一本で行ける。

『泊まってけば?で、うちから一緒に行こうぜ』

そう言われた時に、大きく跳ねた心臓の音が電話越しに聞こえてないか心配になるくらいには動揺した、ことは内緒だ。




「あー、腹減った!ビール!飯!つまみ!結局いつもどおりだなあ」
「ま、これが気楽でいいよな。ほら、乾杯」
「ん。お疲れさん」


夜は外で食べて軽く飲もうというのが当初の計画だったけど、気づけばやっぱりジャージで転がってビールとつまみを広げて家飲みだ。
でもまあ確かにこれが一番落ち着く。
人の視線にさらされるってのは、マウンドに立ってる時は全然気にならないけどそれ以外は苦手だ。


「しっかし最近外で会いにくくなっちまったよなあ。おまえ、自宅の方は大丈夫なの?トラブルとかは?」
「そう、それ!やっぱ増えて来ててさ、引っ越ししろってフロントにも言われてんだよ。今のとこ、買い物とかすげえ便利なんだけどなー」


露出が増え注目度が上がれば、そのデメリットも当然被りやすくなる。
現にこの夏頃から、ロビーの郵便受けに直接手紙やプレゼントを入れられたり、周辺を長時間徘徊し続けたりするファンの姿が見られるようになった。
試合に出て結果を残せて、もちろんありがたいことなんだけど、プライベートにまで踏み込んでこられるのはきついし、何より周辺の住民に迷惑をかけてしまうのが一番いたたまれない。
そのあたりは御幸も同じなんだろう。いや、2軍でじっくり体作りからスタートした俺と違って、こいつは一年目でもう一軍入りしてたし、球団の方針とかでやたら露出が多かったから、俺よりもっと大変なんじゃないだろうか。
なんたって『No.1イケメン捕手王子』だし。
あ、ちなみにこれは女性誌のあらゆる業種の男性の人気ランキングに載っていた、カッコつけ笑顔の御幸の下についてたあおり文句だ。
それを見た倉持先輩なんかは「何でも王子つけりゃいいってもんでもねえだろ」ってゆうに5分は腹を抱えて笑い続けてたけど。


「そうだな、俺もセキュリティを考えたらそろそろ引っ越したいと思ってたし。それなら一緒に物件見に行こうぜ」
「…はい?」
「まあチームも違うし、いきなり一緒に住むってのは色々難しいかもしんねえけど。“偶然お隣さん”ってのは有りだと思わねえ?」
「いやいや、ねえだろそんな偶然」
「いいとこがあればいっそ買っちまってもいいし」
「いや、だからさ」
「そしたら一緒にいられる時間も増えるし、お互いの家を行き来すんのも人目を気にせずに済むだろ?」
「そりゃそうだけど…」


聞けよ人の話。つか、なんでそんな前向きなんだあんた。

…こいつは考えたりしないんだろうか。
御幸と俺の関係は、出会ってからきっかり10年、チームメイトで先輩後輩で友人だった。
高校時代のチームメイトの中でも頻繁に連絡を取ってたほうではあったけど、会わないときは何カ月も会わなかったし、たまに飲みに行って昔のことや今年の調子やチームのこと、共通の友人のことを話すのが楽しい、つかず離れずの気楽な関係だったわけだ。
それがお互いただの友人じゃないらしいと気づいたのが、つい一月前のこと。いや、気づかされたというべきか。けどその主犯のこいつだって、そうと自覚したのは俺よりほんの少し前だ。
つまりはまだ始まって一ヶ月の、ピカピカの新しい関係。しかもろくに会えないまま過ぎた一ヶ月。
だから慣れないし動揺もするし、実感もまだしっかりあるわけじゃない。
…今、こうやってお互いジャージのまま隣に座って、ビールを飲んで。
何年も続いてきた馴染んだ距離感の中にいると、もしかしたら一月前のあの夜のほうが何かの間違いだったんじゃないか、いつかこいつも夢から醒めるようにそれに気づくんじゃないかって思ってしまう自分がいる。


「…賃貸で十分じゃね?家なんて買っちまって、それでもし…さ、」


一度行きつくとこまで関係を深めて。それでもし駄目になったら、もう元には戻れない気がする。
こんな風にぐだぐだと一緒に飲んだりすることも、会うことすらなくなって。
…そう考えると、どうしてもその一歩を踏み出すことをためらってしまうのに。
こいつときたら。


「何言ってんの。まだそんなこと考えてんの?」


返ってきたのはあっけらかんとした、笑いを含んだ呆れ声。
つまんだウインナーをもう一個俺の口に押し付けた御幸が、やれやれ、とため息をつきながら頬に触れる。
うるせえ。こんなことでいちいち騒ぐな、俺の心臓。


「バカだな」
「…ほっとけ」
「俺は最初からおまえのこと、こんな風に好きだったと思うぜ?」
「な、に言ってんの?あんた高校ん時からカノジョ、とっかえひっかえしてたじゃん」
「そりゃあの頃は、まさか自分が男の後輩を好きだなんて思わねえからさ。けど、今になってああそうか、って腑に落ちることはいっぱいあるけど?」
「…どんな?」
「あの頃からもう、どんな女とのどんな約束よりおまえが常に最優先だったってこと。それでも自分じゃ『沢村』じゃなくて『投手』を最優先してるつもりだったんだから笑えるよな。ノリや降谷とは全然違ってたのに」
「………」
「お前が誰かにかまわれてんのを見るたびにイライラしてた。あれってそうだろ、絶対」


そう言われると自分にも心当たりが無いでもない。
学校でカノジョと一緒にいるところを見かけた後なんかは、やたらとこいつに纏わりついてた記憶はある。
台詞は「俺の球を受けろ!」の一点張りだったけど、あれはつまりそういうことだったんだろうか。
そうだとしたら我ながらとてつもなく恥ずかしい、いっそ記憶から抹消してしまいたい過去なんだけど。


「もう10年越しだ、いいかげん観念しろよ。俺はもう腹くくったけど?」
「でも、」
「おまえは色々考えすぎんの。頭じゃなくてココで考えてこそ沢村だろ」


トントン、と左胸に触れる拳と共に、ゆっくりと降りてくる唇。一月前に初めて知ったその温度。相変わらずビール味。
妙に可愛らしいリップ音を立てながら何度も唇を啄まれる。
それが少し物足りなくなってきたころを見計らうように下唇をなぞる舌先を、つい素直に迎え入れてしまうのはこいつの思うツボで少し悔しいけれど。
こいつのキスは、俺の考えてること全部わかってんじゃないかと思うくらい少しだけ先回りをしてくる。
欲しい行為を欲しいだけ。だから頭の芯が蕩けて何も考えられなくなる。


「…っ、ん、」


漏れた声は頭を抱えたくなるほど甘ったるい。手のひらを置かれたままの心臓が駆け足になったのを、こいつは絶対気づいてる。
ふ、と微かにこぼれた笑みがムカつくのでその呼吸ごと呑み込んで舌を絡ませた。
競うように歯列を、上あごを、舌の根をつついてなぞって吸い上げて、また思い出したように絡んで。
お互いにどこまでも深く溺れてくような、そんな長い長いキス。
身体中から要らないもの全部、溶け出して洗い流されて、生きていくためにどうしても必要な部分だけが残る。
丸裸にされた心は見晴らしが良すぎて何も隠せない、ごまかせない。自分にも相手にも。

…なんつうキスをしやがるかなこいつは。


「ほら。もうわかったろ」
「…っ!」


わかった。よーくわかった、けど、してやったりな顔のこいつに素直にそれを認めてやるのは大変悔しい。


「あんた、エロい!」
「おまえだって十分エロいって。もう俺のハートはメロメロよ?」


どこがだ、顔色一つ変えず涼しい顔しやがって。
笑みを刻んだままの唇が、痺れて熱を放つそこにもう一度降りてくる。眩暈に似た感覚に、両手で縋りつくように体を預けると、熱い頬をなぞったひんやりした手が俺の背中を這い、シャツの裾を手繰って素肌の上に潜りこむ。
その動きの意図は明らかだ。
ちょっと待った。
俺だっていい大人なわけだし、キスだけじゃ足りないと思うのも同じだし、そういう行為に進むのはやぶさかじゃない、けど。

一つ大きな問題があるだろ?


「ん、…っなあ、御幸」
「ん?今さら待ったは聞かねえけど?」
「俺が下?なんで?」
「え」


御幸のこんな顔を見たのはこの10年でまだ片手で足りる。完全に思惑の外だった、っていう呆然とした顔。
普段ならしてやったりと思うとこだけど、今はかなり複雑だ。
こいつ、その可能性を全く考えてなかったな?


「…上がいいわけ?」
「だって下やったことねえし。痛えの苦手だし」
「やったことがあるなんて言ったらマジでシャレになんねえよ。心配すんな、最高に気持ちよくしてやるから」


この溢れる自信はどこからくるのか。
臍の周りをすべる手のひらは今にもそこから下に侵入してきそうで、少し焦る。


「お、俺だって!」
「なに?おまえが俺を満足させてくれんの?へぇ?」
「う、」
「…できんの?」


そう直球で聞かれるとつらい、というより男同士の場合の詳細なんてわからない。
当たり前だけどこいつと比べたことなんて無えし。
けど、そんなん聞かれたら男としては意地を張りたくもなる、そうだろ?


「…俺だって下手じゃねえ!と、思う」


瞬間、視界がくるりと回った。
けっこうな力でソファに押しつけられた体を起こす間もなく、上から圧し掛かってくる男の顔はえらく剣呑だ。


「ちょ、御幸なに、」
「…ムカつく」
「なにが!」
「おまえにそう言わせる過去の女全部」
「な!そんなんあんただって、つかあんたの方がどう考えても多いだろ!」
「知るか。正直もうおまえに他人が触ったってだけでムカつく」
「…子供かよ」


身体から力が抜けた。なんだそれ。
理不尽なことを言われてると思うのに、こいつがあんまり堂々と開き直るもんだから。…抵抗する気も失せるっつの。
耳朶に、首筋に矢継ぎ早に落とされるキスは、溶けそうに熱いくせに酷く優しい。
見下ろす鳶色の瞳と同じ、甘い熱。


「俺はまあ、確かに抱く方がいいっちゃいいけど。ぶっちゃけ上でも下でもどっちでもいいよ、おまえなら。もうそれでいい」
「…バッ、」


バカじゃねえの。
って最後まで言えなかった。
反則だ。心臓が止まるかと思った。なんだそれ、俺を殺す気かこいつ。
瞬間沸騰した体の熱はきっと全部伝わってて、ガラスの奥の瞳が悪戯っぽく踊る。
熟れすぎた頬をごまかすために、御幸の頭を両腕で抱え込んで旋毛にキスを一つ落とす。
…ああ、もう。俺の負けだよ!


「で、どうする?」
「…痛えのは嫌だからな?」
「了解」
「それと、明日起きれなくなんのも!みんなと会うの、楽しみにしてたんだからな」
「はっは、まかせろ。ま、いざとなったらお姫様抱っこで連れてってやるよ」
「断る!」


――俺ももうどっちでもいいや。
こいつなら。



そんな風に流されたことを早速後悔したのは、枯れた声と痛む腰を抱えた、次の日の朝の話。










「…声が出ねえ」
「よく啼いてたからなあ一晩中」
「腰いてえ」
「あー、…まあ。ちょっと無理させたかも」
「………ちょっと?」
「………いや、だいぶ?」
「………」
「………悪かった」
「もう当分しねえし!」
「でも気持ち良かったろ?」
「…!!」







See,didn't I tell you so?
(な、言ったとおりだろ?)








***
「lluvia」のまるり様からプレゼント頂いてしまいましたー(*〃д〃*)!!
あばばばばばばば…!!!
ま、まるり様から!御沢を!頂いてしまいました!!(二回目)
あわわわ…!ど、どうしよう…!どうしましょう…><!!!
神棚が本当に豪華になっていく私…どうしたら…。
とりあえずお供え物をしながら拝めばいいんですか…。

実はこの度私恥ずかしながら今月お誕生日でして!
ええ!なんかもう自分が何歳なのかも良く分からず、実際誕生日もちょっと忘れ(…)実の親でさえも「そういえば誕生日だったっけ?」みたいな扱いの生誕の日に、まさかの御沢を頂くという!!この!!!幸せ!!!
誕生日に御沢貰うなんてもう私これ盆と正月どころか、盆と正月とクリスマスと夏休みが一緒にきたくらいの嬉しさだよ…。
まるり様本当にありがとうございます…!

そしてこの御沢ですよ…!
私まるり様のところのこちらの設定大好きでして…//
このなんていうか、まるり様の御沢の醸し出す空気とか雰囲気がとても好きで…。
いつものアダルティーさが更に3倍増しというか…!
ああもう本当に幸せです。読み返します。既に何度も読み返してますが…!

まるり様にはいつもいろいろ良くして頂いている上にいろいろ頂いていて…そろそろ私昇天するんじゃないでしょうか…。
うううまだ御沢が結婚するまではこの世界にしがみつく…!

まるり様この度は本当にありがとうございました!
大好きですー!


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