世界が普通でいられる条件 | ナノ

世界が普通でいられる条件


*注意多数あります

ヤマなしオチなしイミなし
大阪インテで滾った銃モノの小ネタ
小ネタの割にちょっと長かったので収納
沢村:単発式リボルバー
御幸:拳銃
倉持:二丁拳銃
降谷:日本刀
春市:乱射系ライフル
戦う時の武器はこんな感じ。
ただし全く設定生かせてない。

完全にパラレル。
小ネタです。
許せる方のみどうぞ。













世界を創る子供たちに告げよう。
今日この時、この時間から、君たちは生まれながらにして戦士となる。
恨むべきは己の運命。辛むべきはこの時代。
ああなんという悲劇。なんという喜劇。なんという、人生。

明日もまたこの世界で生きていたくば、その腕その身を武器にして、さぁどうぞ闘いなさい。

守るべきは己。
そして己を守ることが出来るのも、また


己自身だけなのである。







光化学スモッグのカーテンが引かれた灰色の空が、今日もゆったりと世界の時間の流れを曖昧にする。
曇天の続く空はどこまで行っても同じ色が広がっていて、その空に映るのは灰色の押しつぶされそうな重量感だけだった。
走る度に空気が肺を満たす。空気中に包容しているであろう塵や化学物質を吸い込んだ肺が膨らみ、胸が大きく上下する。暫く走り続けているからか、吸い込んだ薄汚れた空気で内臓から黒く濁っていってしまいそうな錯覚に襲われた。

夜でも無いのに灯された蛍光灯が、ジンッと音を立てて揺れる。引き寄せられて表面のプラスチックに張り付いた虫の羽を焦がしていく人口灯から電気の消える日が無くなって、かれこれ30年近くになるのだという。
濁り切った灰色の雲の向こうに恵みの光を隠して30年、荒れ地とまでは行かないものの、世界はすっかり変わってしまったらしい。草木は育たず、海は年々潮が引き、今ではかつての陸地と海の間に、乾いた何も無い土地が鎮座する。大人達は皆口ぐちに、世界の終わりは近いのだといっそ宗教じみたようなことばかり言うせいか、空の落とすどんよりとした空気は、環境だけでは無く人々の心にまでも影を落としてしまった。

しかし、それはそんな「過去」を知る大人達に限ってのことであって、実際そんな世界を知らない子供たちは案外強かだった。
なにせ、どう頑張ってもそんな昔には存在どころか、形成される精子すら生まれ落ちてもいなかったであろうほど昔のことを言われても、正直ピンと来ない。生まれた時から自分達の生きている世界はこうだったし、この灰色の空以外知らない自分達に七色の世界など想像もつかない。寧ろその方が、今の子供にとっては『異常』な世界だった。
そんなことを、右足と左足を何度も足元で交差させて前へと進みながら御幸は常々思っていた。
世界経済や社会は30年前からがらりとその色を変え、今では国という概念が存在している所の方が珍しくなった。とはいっても島国である日本は他国との国境線が陸地には無い為、隣国からは隔離されたような状態であることに変わりはなかったのだけれど。
二大政党だったかつての与党も野党も今や見る影もない。世界を救う平和の党、なんて行ってかつて人類を救ったというノアの方舟について云々語る宗教じみた団体はたまに街中で演説していたりもするが、そんなものも御幸には全く興味がなかった。

走りながら、周囲の気配に気を配る。研ぎ澄ました鼓膜を震わせる音は何も無い。
ただ自分の心臓のビート音がいつもより激しく胸元を内側から叩く音だけが響く。
一瞬の、沈黙。空気の流れが肌をなぞる。


「…ッ、」


閃光が走るのと同時に、右足を踏み込んだ。慣性の法則に逆らって飛び退けた瞬間、さっきまで御幸が立っていたで場所に、思いっきり銃痕が走る。ひゅうっと、どこからか唇を吹く音が聴こえる。その主は多分、…いや、多分も何もどう考えてもこの銃痕を付けた主だろう。
撃ち抜かれた場所はご丁寧にも御幸の頭のあったであろう場所だった。後少しでも避けるのが遅かったら完全にアウト。ズドンと一発頭を打ち抜かれて、風穴を開けられるのは目の前の瓦礫では無く自分の体だっただろう。自分の勘と反射神経に感謝しながら、御幸はゆっくりと後ろを振り返った。
さっきまで気配も何もしなかった後ろのビルの屋上から、微かだがきらりと何かが光る。多分銃口だ。高層ビルの最上階の方。直線距離にしても数十メートルはあるであろう距離。念入りなのかなんなのか、この距離でもサイレンサーを付けて狙いを定めてくる辺り、用意周到だなと小さく笑う。でもまぁ、どうせならそれくらいしてくれないと面白くない。最近雑魚相手ばかりで少々体も鈍ってきていたし、そろそろ美味い飯も恋しい。久々に働くかなと、腕をぐるりと回したら、体ってのは正直なもので、同時にぐうっと腹の音が鳴った。
朝飯前と言ってしまうには少々骨が折れるかもしれないが、それでも食前の運動にはちょうどいい。

コキ、と動かした肩から微かな音が鳴る。
一度パシンッと威勢のいい音を立てて組みあわせた腕を開くと同時に体中の筋肉に振動を送れば、今まで必要最低限の筋肉だけを動かしていた体のリミッターを外した。思いっきり踏みこんで地面を蹴った体は、重力に逆らって上へと昇る。さてさて相手は多分こちらの事を丸腰の子供が縄張りに入って来たもんだと思って絶好のカモを捕まえたのだと思ったのだろうが、それはおあいにく様。

(世の中、人畜無害そうにみえる人間の方がよっぽどタチ悪ィのよ?)

体が空中で反転する間に、服の中に忍ばせていた相棒に指を駆けて引っこ抜く。指に馴染んだその形を確かめるように握りこんだ御幸の向けた銃口の先、驚いたように見開かれた瞳を見た。


「ハロー。オニーサン。」


にっこり笑う。地上数十メートル先から一瞬の移動。
その顔に浮かべた笑みは。子供がかくれんぼで目当ての相手を探し当てた時のような無邪気な鬼の顔をしていた。









「あーーー!!!」

重たい袋を引きずって、同じく重たい足取りで地面を歩いていれば、突然後ろから空間を劈くような大声が聴こえた。
聴こえた瞬間その声の主が確認せずとも分かって、御幸は小さく息を吐いてからゆっくりと後ろを振り返る。
その内心は、『ああめんどくさい奴に見つかった』、だ。

廃屋をバックに灰色の空を背負う顔。落ちるんじゃないのかと思うくらいに見開かれた黒い瞳。
見たこともないが、太陽のように大きな瞳をぐりぐりさせた男が、御幸を指差して大口を開けていた。


「御幸がまた抜け駆けしてる!!!!」
「あー…沢村……。」
「なに一人だけ抜け駆けしてんだよアンタ!」
「抜け駆けじゃなくて襲われたんだよ。正当防衛。」
「返り討ちにして賞金全部掻っ攫っていこうとしてたろ!それで美味いモン食いにいこうとか思ってただろ!?」
「…………………そんなことないそんなことない。」
「間!なんだその間!寧ろ沈黙!」
「…お前相変わらず元気な…無駄に。」


はぁ…と溜息をつきながら、さっきの“戦利品”を地面に下ろす。
折角重たい思いをして持って来たっていうのに、これじゃパァだ。本当にめんどくさい奴に見つかったと思うけれど見つかってしまったものはもう仕方が無い。
一人騒ぐ沢村の周りを見渡せば、今はどこにも気配一つないものの、それが『フェイク』であることは御幸にはすぐ分かった。
こんな廃屋溢れる最低ランク層の悪区に、こんな誰も居ない場所があるはずがない。気配を消すのが上手過ぎて逆に不自然だと内心笑いながら、さっき腰にしまったばかりのリボルバーを目にも止めぬ速さで引き抜いた。
パァンッと乾いた音がして、近くにあったドラム缶が吹っ飛ぶ。小型銃から放たれたとは思えないほどの銃弾で、アルミで出来たそれを不自然な形に変形して、はじけ飛んだ。そしてその後ろから現れる、見知った顔。


「っぶねーな、オイ…。」
「倉持、…それから降谷に、小湊?」
「いきなり発砲すんじゃねーよ、馬鹿野郎。降谷なんて半分居眠りしてて危うく逃げそびるところだったぞ、今。」
「…相変わらず降谷はどこでもおやすみ3秒な…。」


吹き飛ばしたドラム缶の向こうから、齢同年代くらいの青年が3人ひょっこりと現われる。
全員それなりに見れるほどの衣装に身を包んで立ってはいるけれども、纏う気配は皆同じような空気を纏っている。鉄の錆びたような香りが全身から香る。まだ年端もいかないような少年達ばかりではあるが、少年達もまた呪われた『子供』の一人であった。


今この世界には、死体を売って生計を立てる子供たちが存在する。
疲弊した国には司法が裁けないほどの量の犯罪者が溢れ、今では国がその犯罪者の死体を買い取ってくれるようになったことが原因だ。
世界の終わりが近づいて、人の感性はすっかりとその崩れ落ちてしまったらしい。世も末だ、とはこいうことか。
快楽殺人者や犯罪者が世に増え、一般人は迂闊に外を出歩けなくなった。一時はそのせいで多くの室内餓死者を生んだが、それからすぐにそしてその犯罪者だけを狙って殺戮を行い、死体を売って生計を立てる悪魔の子、通称、「黒い血」と呼ばれる存在が街に蔓延るようになった。

黒い血に属するのは主に20歳以下の少年ばかり。
30年前の世界の色を知らず、この灰色の閉鎖された空間の中で育った子どもたちは生まれながらにして感情と理性に欠落を生み、変わりにその体は今の大人よりもずっと強靭かつ異端的に変化を遂げていた。動物のような筋肉、視覚、聴覚、嗅覚…あらゆるものが生まれながらにして大人を越える子供たちを、大人は恐れた。今の子供が自分達よりも優れた種に姿形を変えたことを本能的に恐れ、その恐怖がまた、黒い血の子供たちの数を増やしていったのだ。理性の無くなった人の形をした動物と、あわよくば同士討ちで消えてしまって欲しいと汚く算段的な欲求を宿す人間の暮らす世の中は酷く歪曲して今にも崩れそうなくらい脆かった。
弱肉強食の本能を持ち、殺人行動を文化とする生き物。それが黒い血、今の『子供』。
御幸も、そして御幸の目の前でしかめっ面をする男…沢村も、その周りにいる倉持や春市、そして降谷もみな例外なく、黒い血と呼ばれる子供達。

人を殺して生きる子供。


「倉持先輩!聴いてくださいよ!銃声がしたから来てみれば、御幸ってばまた抜け駆けして美味いモン一人で食うつもりだったんすよ!!」
「はぁ…ホントお前は油断も隙もねーな、御幸。」
「だーから、別に一人占めする気なんてなかったっつーの。」
「とかいって!この前も一人で賞金手に入れて、一人で飯食いにいってたじゃねーか!」
「…そーだっけ?」
「そう!食いものの恨みだけは忘れん!!」
「栄純君、そこ威張るところじゃないよ…。」


意気込んで言う沢村の後ろで、小湊が苦笑する。
相変わらず沢村一人増えただけで、その場に何かが増殖したみたいに騒がしくなる。薄汚れた路地裏には不似合いな明るい声が、重たい空気を切り裂いて行く。そんな沢村の後ろで溜息まじりに見えている倉持と、どこかぼうっとしていて何を見ているのか分からない降谷も相変わらずだった。


「別に山分けしてもいいけど、今回小物だし多分大した額になんねーよ?」
「えー…。」
「じゃ、皆で一回飯行って終わりだな。」
「お前ら汗一つ流してねぇのに俺にたかる気か。」
「いいだろ別に。けちけちすんなよ。なんなら沢村献上するし。」
「えええええなんで俺なんすか!?倉持先輩酷い!」
「よし、乗った。」
「……御幸は一回くたばれ!」


倉持とそんなやり取りをしている間で、沢村は青くなったり赤くなったり慌てたり。
表情も全部大忙しなその様子はどっからどう見ても年相応の子供にしか見えない。
その横で苦笑している小湊も、またうつらうつらと船を漕ぎそうになっている降谷も。そして御幸自身も、その横でニヒル無笑みを浮かべる倉持も、見目だけはただの『子供』と変わりが無いのに。
けれど同じ『ヒト』の形をしていても、その中身は既に『ヒト』からは酷くかけ離れていた。だがそれに気付けるヒトはもうどこにもいない。


小さな音が辺りに響く。
それは紙が地面に落ちたような、そんなレベルの微かな音だった。

けれど音が聴こえた瞬間に、一瞬で会話が止む。
気配を殺して辺りを読む。
それぞれ初期動作に入るのはコンマのレベルの出来事だった。
火を吹いた銃口が誰のものか分からないくらいの、刹那の時。


「……よっし、今度は俺の手柄!!」


くるくると手の中で銃を弄りながら、沢村が笑う。御幸のすぐ後ろで、何かが倒れる気配がした。頬を掠める火薬のにおい。少しだけ伸びていた髪を熱が焦がす匂いがする。
満面の笑みの沢村と、状況を呑みこんで眉を寄せる御幸。その対称的な絵もまた風景にアンバランスだった。


「…後数ミリずれてたらあたってたんですけど。」
「俺がミスるはずがない!」
「今時そんな旧型の単発リボルバー使ってる奴、信用出来ない。」
「こーれーはー俺の相棒なの!!」
「はいはいはい…でもお前単発しか撃てねぇんだから、あんまりむやみやたらに発砲すんなよ。すぐ丸腰になんぞ。」
「…ハーイ。」
「あと倉持も、間に合いそうなんだったら沢村に負けてんじゃねーよ。」
「……ばれてた?」
「当たり前だっつーの。」


肩を竦めてそういえば、倉持も小さく笑う。
ついでに言うと、その後ろで臨戦態勢に入っていた降谷の手にはいつの間にか彼愛用の日本刀が握られていたし、その横の小湊も、今はどこに仕舞っているのか、その小柄でどう支えるのかと疑問に思うほどの連発ライフルをどこかに装備しているはずだ。

こんな風に人を殺した手をもろともせず、血が赤いことすら忘れそうになっている欠陥品の子供たちを、大人は恐れる。
現に今、一つの命をこの世から葬りさったというのに、もう誰の目にもそのことを振り返る色は映っていなかった。くるっている。これを狂ってると言わずとしてなんと言おうか。だが狂ってしまったのは自分達なのか、それとも世界なのか。世界がこうだからこうなったのか、自分達がこうだからこうなったのか、それすらもう麻痺して分からないくらいには世界は汚れきってしまっていた。

狂ってる。全て。

大人は黒い血の流れる子供を見てそう口ぐちに言う。
理性とか常識とか、そんな一昔前の感情など、御幸やその他の子供たちにとってはもうよく分からないものだ。
世界に陰りを映す曇天は、今日もまた相変わらず昼と夜の境界線を曖昧にする。


(…狂ってる、ねぇ。)


狂気と呼ばれるものがなんなのか、それすら分からない。


「御幸ー?」
「んー?」
「換金行く?それとももうちょっと仕事する?」
「…めんどくせーから換金いく。そんでその後デートしねぇ?沢村。」
「…いきなり何言うか。」
「折角金入るんだから、好きなヤツ誘わなきゃ男じゃねーだろ。」
「………とりあえずお前の後ろですげぇ変な顔してる倉持先輩どうにかしてからにしたら?」
「…わー。」


もはや般若の形相で立っていた倉持にへらりと頼りな笑みを御幸が浮かべた瞬間に、倉持の怒声が響く。


くるっている、と大人は言う子供たちは。
今日もこうして他愛のないことで笑って、怒って、そしてやっぱり笑う。



(これが世界の“普通”なら、それだけで世界は何色にだって色を変える。)



殺戮主義の蔓延る世の中でさえも、人は笑って自分以外の誰かを愛す。



そんな本能兼ね備えてるって時点で、そもそも人って生き物自体、不完全で狂った生物なのではないか…なんて。



超エゴイズムな論理破綻を犯す、
そんな世界。






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