愛があるから触れたい! | ナノ

愛があるから触れたい!


*「愛の数だけください!」と同じ設定



「…はっ…、」


淫らな息遣いが、閑散とした辺りに響く。
照りつける太陽が、校舎を照らして出来た影。その小さなスペースで、絡まるように身を寄せ合う。
実際、重ねた唇の中で、太陽の熱さすら越えそうなほど熱を持って絡まり合う舌はもう随分と長くそうしているせいで、少し離れると粘度を持った唾液の糸が間を繋ぐ。漏れる吐息に混ざる淫靡な音は、昼下がりの校舎に不似合いで、本来なら決して聴こえるはずのない類のものだ。


「沢村、」


キスの合間に名前を呼ぶ。勢いを止めるようにその口を片手で覆えば、もう片方の手で圧し掛かるかのごとく体を寄せてくる沢村の体をゆっくりと押した。
まるで盛りのついた動物みたいなその勢いを軽く静止すると、むっとしたような顔と目があった。
けれどその目は酷く濃い情欲の色をありありと映していて、盛りのついた、というところはどうやら否定出来ないことを知る。


「御幸ー。」
「ダメ。」
「…まだ何も言ってねぇじゃん。」
「言ってねぇけど、分かるよ。」
「…ケーチ。」


沢村の片手が、口を塞いでいた俺の手を取る。そのまま好きにさせてやれば、手首を掴んだままその手を口元から少し離して、ペロリと指を舐められた。まるで犬か何かのようなその行動に、動物みたいだ、というところも否定できないなと思って思わず笑う。
指先から沿った舌が指の間までゆっくりと降りるその様は、見ていると酷く扇情的なことこの上ない。そんなことを恋人にやられて反応しないなんて男じゃねぇけど、頭の上から照りつける明るい光と、遠くから聴こえてくる教師の無機質な声が俺に理性の留め金をかける。普通に真昼間で、その上本来なら今は俺も沢村も授業に出ている身なわけで。それをこうして抜け出して、隠れてこんなことしてるなんて倉持辺りに知られたら、多分当分は沢村の顔すら見れなくなる気がする。
それは困るけど、多分俺以上にもっと困りそうなのがこの馬鹿だ。


「…さーわむら。」
「んむ、」
「…いくら誘ってもヤんねーよ?」
「えー……。」
「えー、じゃねぇよ。…まだこれから授業もあるし、放課後には部活もあるだろ。」
「なんとかな、」
「なりません。」
「…ケチ。」


俺の言葉に、思いっきり顔に「不満です!」って文字を浮かべた沢村が唇を尖らせる。
可愛い可愛い恋人の頼みでも、流石にこんなところで後先考えずに突っ込むほど俺は考え無しじゃない。

(…とか言いつつ、俺も結構限界なんだけど。)

罪作りな恋人が、それはもう問答無用で俺を誘うもんだから。
馬鹿みたいに真っ直ぐに、馬鹿みたいに正直に。ソウイウコトに対してここまでストレート一本で攻められると、つい押されてしまいそうになる。俺だってまだ17の思春期のガキなわけですし。
本当なら、何も考えずにこのまま押し倒してしまいたい。向けられる欲望そのまま飲み込んで、その不満そうな顔に俺だけを映してやりてぇって思ってんだぜ?沢村。


「…部活終わって飯食ったら、風呂入る前に俺の部屋おいで。」
「え?」
「人払いしといてやるから。な?」
「…!おう!」


言っている意味を悟ったのか、心底嬉しそうに沢村が大きく頷く。単純な奴め。
こんな風に甘やかしてるから駄目なんだろうな。だけど実際、欲しがってるのは沢村だけじゃねぇから、そこがまた問題で。
一気に機嫌良さそうにへらへらするアホ面が見えて、軽くその至近距離にある顔を指で弾くと、オーバーだろってくらいのリアクションで沢村が飛び跳ねた。


「いてぇ!!」
「声がデカイ。見つかるだろ。」
「だって御幸が!!」
「だーから、声がデカイつってんのに…。」


大口を開けるその顔を思いっきり胸元に引き寄せると、もがっと音がして声が止む。再び訪れた静寂にホッとしてからそっとその顔を体から離せば、沢村の無駄にでかい目が俺を見上げた。
その目に映るのは、さっきまでと同じ、何かを欲したような底のない黒。その目に、ゾクリと背中が粟立つ。

(…反則だろ、それは。)

中学時代、誰とも付き合ったことがなかったという沢村を初めて抱いたのは、付き合い始めて少ししてから。
深く繋がるキスもしらない沢村に、キスの仕方を教えたのも、性に疎かったその体に、快感を覚えさせたのも俺。
初心な反応も、拙いキスも、どれも俺の想像した通りの沢村でなんか笑えたのと同時に更に愛おしくなったのは今でも記憶に新しいけれど、予想外だったのは俺の予想以上に沢村がハマりやすい体質だったってことだ。
セックスを覚えた沢村は、すぐにそれに順応した。それはもう俺が驚くくらいに。その上それから所構わず加減を知らずに盛るもんだから、困った。
それを上手く制御出来るほど俺も大人じゃない。誘われりゃそりゃ勃つもんは勃つし、煽られりゃ盛る。性に関しちゃ10代ほどアクティブな年代も無い。思春期なんだから当たり前っちゃ当たり前。俺も沢村も、そりゃバカみてぇに毎日毎日、それこと文字通り性に溺れた。お互い目が合えばそんな気分になる。それは動物とそう大差なかった。
まぁ俺と沢村が、普通に高校生活満喫して、適当に進路に困んねぇくらいに勉強してりゃいい高校生だったらそんな生活もありだったかもしれねぇけど、生憎俺らは高校球児。見失っちゃいけねぇもんがあるって気付いたのは、慣れねぇことについに沢村が疲れを出して一度寝込んだ時だった。
その時の俺はまぁ、そんな状態になるまで気付かなかったこととか、疎かになってた諸々とかをやっと自覚して、正直柄にもなく反省とかしたりもした。大丈夫だっていい張る沢村を何とか寝かしつけながら、これからはある程度線引きしようぜって珍しく年上らしいことを言って不満そうな沢村を説き伏せたりして、それからは極力、次の日の練習のこととか色々俺なりに考えてやってるっつーのに、…この馬鹿は。

(…俺の気遣い無駄にするようなことばっかしやがって…。)

節度どころか理性のネジすら無くしたらしい沢村は相変わらずのこの態度。
体目的かお前は、と突っ込まれてもおかしくねぇだろって勢いだけど、そんな安っぽいもんじゃねぇってことも分かるから、もう俺はため息を吐くしかない。
沢村は純粋だ。
その上、好きなことに関してはとことんそればっかりで、妥協とか遠慮なんてもんが一切見えなくなる。野球も然り、…セックスもそれはまた然り。

球を受けろと、俺の都合関係無しにいつでもどこでも求めて来やがる、馬鹿。
御幸が欲しいと、俺の優しさぶっ壊していつでもどこでも煽って来やがる、馬鹿。

沢村のこの馬鹿みてぇに真っ直ぐな行動の原動力に、好きだって気持ちがちゃんとあることを知ってる。そんで沢村が俺以外にはそういうことを迫ったり求めたりすることも全くないことも俺は一番近くで見てるわけで。
そんな風に真っ直ぐ向けられる好意を、俺が拒絶出来るはずがねぇだろ。
そもそも、先に惚れたのは俺の方なんだから。


「ったく…辛いのはお前なんだからな。」
「だから平気だっつってんのに。御幸はちょっと過保護過ぎ。」
「また寝こまれたらもう俺倉持に言い訳出来ねぇよ。」
「あ、あれ、は…!」
「…な、あと少しだけ我慢して?夜までの辛抱だから。」
「……わかった。」


コクンと一度、沢村が頷く。
それにホッとすれば、褒めるように頭を撫でてやった。子供扱いすんなといいつつも、払いのけられない手に頬を緩めると、ふいっと顔を逸らされた。もっと恥ずかしいことは平気で言うし、やるくせに、こういうことには未だ照れるらしい。


「…お前本当好きな…。」


ため息とともに呟けば、小さく沢村が首を傾げた。


「何が?」
「…俺、とか。」


冗談のつもりでそう言うと、キョトンとした顔が返って来る。


「…すきだけど?」


予想外のその返答に、一瞬言葉を失った。
…暴投もいいところだ。


「……お前…。」
「なっ…なんだよ…、アンタが聞いたんだろ…!」
「流石の俺もちょっと予想外だった…。」
「だあ!恥ずかしいからアンタが照れんな…!」
「…お前のことだから、“御幸とするのは好きだけど”とか言うのかとちょっと思ったし。」
「………それもまぁ否定しねぇけど…。」


…まぁ、そうだろうな。
ちょっと深くため息をついたら、ビクッと沢村の体が震えた。


「…で、でも!」
「ん?」
「……アンタと…御幸以外とこんなことしてぇとは、思わねー…から…。」
「沢村、」
「だ、だ、だから!あ、アンタとエロいことと、6:4くらいでアンタの方が好きなんだと!…思う!」


真っ赤になって突然何を言うかと思えば。


「…ははっ…!」


思わず笑い声が漏れる。
ホント、笑わせてくれるやつだよ、お前。
つーか、6対4って。比重おかしいだろ、それ。
何だかおかしくなって笑うと、目の前に座る沢村が目に見えてあたふたとし出す。


「ほぼ半分じゃねーのそれ…!」
「い、一割お前の方が多い!!」
「喜んでいいわけそれ。」
「…つーか大体、俺をこんな風にしたのはお前なんだから責任とれよ。」
「じゃあお前のせいで授業サボる回数増えたのも責任とってくれんの?」
「う…。」


そろそろ午後一個目の授業が終わる。
流石に次は出ないと、俺はいいとしてもこいつはマズイだろ。
難しい顔して眉を寄せる沢村を見ながらそう言うと、チラリとその目がこっちを覗き見る。


「…体でいい?」
「…………却下。」


ガキみてぇな…っつーかまぁ実際まだまだガキなわけだけど…、その顔を引き寄せて、唇に噛みつく。
余計なことが言えねぇように、舌ごと言葉を奪うと、慣れたように沢村の手が俺の首にするりと回った。


沢村は、まるでガキだ。
遊びを覚えたての、理性なんてまるっきりどこにも無い、ただのガキ。


「御幸…、」


もう一回、と扇情的な声が囁く。
…問題なのはこいつがガキの顔して中身は案外大人だってこと。


「…だから煽んなっての。」


そしてそのガキに、俺が際限なく欲情しちまう、ってことだ。



「じゃあ!今日は朝までな!!」



…お前、俺をどうしてぇの。







***
かのこ様に捧げます。「絶倫沢村」設定で御沢、です。
前に私が遊びで書いたあの設定を覚えていて下さっているだなんて…!
しかもこの破天荒なパロなのか原作寄りなのか(どう考えてもパロ)…よくわからない二人を再び書かせて頂けるなんて(´;ω;`)うっ
リクエストありがとうございました…!そしてオフ会の時は萌える御沢イラストを沢山ありがとうございました…//
お礼には程遠いですが…!少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

リクエストありがとうございました!大好きです〜(*・ω・*)
これからも遊んで貰えると尻尾振って喜びます!ふへへ!

それにしてもこの設定の御幸は、出家でもしたんだろうか。鉄壁の理性に驚くばかりだ…。

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