融解熱 | ナノ

融解熱



重なった場所から、じわりと互いの体温が溶け合っていくような気がする。
手入れなんてしてない唇は少しカサついていて、けれど何度も啄ばむように重ね合わせられれば、緩やかに潤んでいく。

ドロドロとした、粘着質な何か。
混ざるみたいに溶け出しては流れていく。
唇から吸い込む、吸い込まれる。
喉を通って体の中にゆっくりと浸透していく、それはまるで毒のようだ、と思う。
…いや、実際紛れもない毒だと思う。



御幸とするキスが、好きだ。



今まで生きてきた中で、こんなに文字通り体の中からグズグズにされることは初めてだった。
もう数え切れないほどしてきたのに、未だ慣れない。…多分これからもずっと、慣れない。
角度が変わる度に深くなっていくキスに呼吸を忘れそうになってしまうのにも、舌がぬるりと入り込んで来ると一瞬だけびっくりしてつい引っ込めそうになってしまうのも、そんな俺に御幸が意地悪に笑って更に奥深いところまで入り込んで来るのにも、絶対慣れない。


「ふ、あ…っ、」
「ちゃんと息吸えよ?我慢大会じゃねーんだから。」
「んぁ、わかってま…すっ…!」


頭の後ろに回された手も、腰をがっしりと掴む腕も、全部熱い。
熱い、苦しい。思考は完全に御幸に握られていて、自分の体なのに全然言うこと聞いてくれない。
重なったところから、俺の呼吸も声も熱も思考も全部ぜんぶ全部、御幸が吸い取っていく。
ピチャリと水音を立てるのはわざと。
俺が恥ずかしがって真っ赤になるのが分かってる御幸がわざとする、意地悪。
ふざけんな、と思う。
言わない…つーか、言えねーけど。


「…沢村ぁ。お前何考えてんの?」
「ふ…?」
「キスしながら違うこと考えてんなよ。悲しくなるじゃん。」


全然悲しいなんて思ってもない表情で飄々と合間に言いながら笑う御幸を睨んでみたけど、やっぱり口元をいつもみたいにニヤつかせるだけだった。


(バカじゃねぇの。アンタのこと考えてたんだっつーの。)


何も言わない俺に、御幸も何も言わないまま、また唇が振ってきた。
何も言わない変わりに、ゆるゆる口を開いたら、歯をなぞられて、割りいれるみたいにすぐに御幸の舌が入ってきてなんか笑えた。
顎を指で擽られて、上顎をぬるりと舐められる。
やっぱり逃げてしまった俺の舌を糸も簡単に捕まえて、先っぽを突かれた後掬い取られた。



触れた場所から、火傷しそうだと、思った。



(傷がついたら責任取ってくれんだろーな。)



思考までグズグズに溶かされて、俺は多分もう、俺じゃない何か違うモノに変化してしまったから。そうしたのは、こんなこと教えたのは、紛れも無くお前なんだから。
その責任はきちんと取ってくれなきゃ困る。


なぁ、御幸。





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