unbalance seasawgame | ナノ

unbalance seasawgame


『lluvia』様の三十路沢村さん設定です。



扉が開くと同時に倒れこむように部屋に入ると、年下の恋人が自分を難なく抱きとめて「大丈夫か?」と呆れ声を上げた。
それにおざなりな返事をしながら腕にしがみつくと、揺れる世界の中でかろうじて捉えた玄関の時計はもう日付を変えようとしていることに気がつく。
予定の帰宅時間を大幅に過ぎてしまったことに内心舌打ちしつつ、それでも起きて自分を待っていた恋人に謝罪の意も込めて盛大に抱きついたら「この酔っ払い」と軽くいなされた。
むくれてもいいだろうか。


御幸と暮らし始めてからこんなに遅くなったのは初めてだ。
一人のときはそれなりに多かった外食や飲み会も、ここに来てからは二人でゴロゴロしながらだらだらと飲むのがどうにも楽しくてその機会自体が極端に減っていた。
今日の教授会への出席は前々から決まっていたことで、面倒ではあっても自分の仕事の一環であり御幸もそれについてどうこう言う訳ではない。
ただほんの少しだけ。自分だけが気付くくらいに少しだけ、機嫌が悪くなるだけだ。
ぶれる視界を止めようと顔を上げれば、案の定拗ねた顔が自分を見下ろしていて少し笑った。


「そんなに飲んだ?」
「んー。飲む気は無かったんだけどな、やたらと入れ替わり立ちかわり酌をされてさ」


誕生日でもねえのになー、と笑ったら目の前の綺麗な男はまた少し機嫌を低下させたらしく腕にこもった力が強くなる。
沢村としてもこんなになるまで飲むつもりもなかったし、まさかあの程度の量で酔ってしまうとも思わなかった。今の状態はだから自分なりに不本意ではあるのだ。


「あー、もう歳かねえ?」
「沢村さんが言うとすげえ違和感あるよな、その台詞」


よいしょ、と自分を抱え上げて部屋の奥に向かう御幸に体を任せて目を閉じる。
この男が自分のことをどんなに優しく扱うのかもう知っている。
こっちが気恥ずかしくなるくらいに細心の注意を払ってそっと下ろされたベッドの、頬に当たるシーツの冷たい感触が気持ちよくて思わず顔を擦り付けた。


「水は?」
「いる…」


耳慣れた足音、慣れたベッドの匂い。意識はしんと冴え渡っているのに目蓋を上げることが酷く難しい。
何度か自分の名を呼んだ御幸の声が途切れたかと思うと、濡れた冷たい唇が自分のそれの上に降りてきた。
注ぎ込まれた水をそのままこくりと飲み込むと、そのすぐ後を熱い舌が追ってくる。
口内を確認するように丹念になぞり絡んでいくそれはせっかく冷やした筈の体にいとも簡単に熱を熾す。
離れていく唇を惜しんでうすく目を開ければ、自分を見下ろす色素のやや薄い瞳に確かに点った欲情に体の内側がじわりと焦げた。


「…俺がいないとこでこんなに隙だらけになんないでよ」
「俺の隙なんて狙ってんのはお前だけだよ」
「沢村さんは本っ当に自覚が無さ過ぎ!俺、真剣に困ってんだけど」


うんざりした声を出す御幸には悪いがどうしても笑わずにはいられない。酔っ払いの三十路男にこんなに執着する物好きなんてこいつだけ。
そんな誰が見てもわかりそうなこと、人並み以上の頭脳を持ってるはずのこの男だけが何でわからないんだろうか。
自分に向けられる眼差しは恋人としてのそれプラス羨望と憧憬だ。時折むず痒くなるほどに。

火照った体に直接這う手のひらがいつもよりも冷やっこい。すっかりその気になっている恋人はきっともう止まらないだろう。


「俺、今日は勃たねえかもよ?」
「大丈夫」


妙な自信を見せる御幸の動きは淀みなくて、その手に慣らされた自分の体は忠実に望み通りの反応を返していく。


「沢村さん、気持ちい?」
「…ん、っ」


その手や指先をたまらなく心地よく感じるのは、単純に技術的に上手いのか自分がこの男に惚れてるからなのか。
きっと両方なんだろうな、と考えたのを最後に本格的に霞んでいく思考を諦めて、押し寄せる快楽にゆるりと身を任せた。











明け方、酷い渇きを覚えて目が覚めた。
啼かされた喉も酔いの醒めた体もからからひりひりと痛みを持ち潤いを求めていて、昨夜御幸が持ってきたはずの水を手探りするが見つからない。
だるい体を起こそうと身動ぎした瞬間、たぶん条件反射で抱きしめる力を一層強めた御幸の腕に息を呑んだ。

朝に弱い御幸が先に起きていることは滅多になくて、沢村が目が覚めるときには大抵その体をぎゅうぎゅうと抱きしめて眠っている。
まるで「離したら最後」といわんばかりのその強固な檻は、毎回相手を起こさずに抜け出すには大変な時間と労力を使う羽目になる。
一度控えめに改善を求めたら「だって目え覚めて沢村さんが居なくなってたら嫌だし」と返されて何も言えなくなった。

御幸と出会って一緒に過した最初の3日間。
もちろんあの時点では恋人と呼べる関係でもなかったし、自分は自分なりにいっぱいいっぱいで御幸の心情にまで気を使う余裕は無かったわけだけれど。
何も言わずに消えたことが御幸に傷を残しているならばやはり罪悪感は感じるし、綺麗に癒してやりたいとも思うのだ。


「…ったく、しょうがねえヤツ」


御幸の生活圏内に入って三ヶ月。
誇張ではなく、女の子の噂話の中で御幸一也の名前を聞かない日は無いといっていい。
だから他の大学や学部では結構な浮名を流していたらしいことも知っているし、それ以外のちょっとした日常の行動まで楽しげに女子の口に上がるあたりまるでアイドルのようだといつも思う。
そんな、秀でた容姿も十分すぎるほどの才能もおよそ人が欲しがりそうなものは何でも持っている男が、何故未だに二人の関係で自分ばかりが追いかける側だと思っているのか沢村には本当にわからない。


(そんなわけ、無えのにな)



時間をかけて腕を緩め、整った寝顔にそっと指を這わせた。
深い眠りの中にいる御幸の前髪を指で梳いてみる。眼鏡のない寝顔もそろそろ見慣れてもいいほど見ているというのにまだ少し動悸が早くなる。
自分とは違う精悍な頬のラインを辿ると、くすぐったいのか身を捩って体の向きを変え、同時にその腕が再び沢村の体を抱え込もうとさわりと動く。
そのすべてが愛しいと騒ぐ自分の胸のうちを、素直に焦がれる顔を、毎回深い眠りの中にいる御幸は見たことが無いから、だから気付かない。
10も年下の恋人に本当に掴まったのは自分のほうだ。


「早く気付けよ」


キャリアとか年齢とかそんな些細なこだわりなんて全部さっさと飛び越えて、ちゃんと目を開いて目の前にいるそのまんまの『沢村栄純』を見ればいい。
そして自分がどれだけ愛されてるか、骨の髄まで思い知れ。



「な、御幸」



あいしてる。



掠れきった声がひっそりと紡いだ一方的な睦言は、カーテン越しの払暁のなかに溶けた。








end








***
lluviaのまるり様から素敵小説頂いてしまいまし、た!!!!!!
ぎゃーーーー!!!(とりあえず叫ぶ)
さ、さわむら、さ!さわむらs、さわむらさんじゅう!!←落ち着け
ま、まるりさんにはツイッターやサイトやら前々からいろいろお世話になっていましてですね!
素敵拍手コメント頂いたりメール頂いたりしていたころから「まるりさん大好き大好きうっへっへ!」ってなっていたのに最近ではツイッターでかまって頂いたりして頂いたりしていましてですね!(日本語崩壊)
今回私、エビで鯛を釣るどころか、雑草で金色の鯛を釣ってしまいましたですよ…!!!
私のへっぽこ年賀状へのお礼文とのことで(´;ω;`)うっ…!!
まるりさんところの大好きな三十路沢村な御沢を…頂いて…しまって、うう…!
私、「リクエストどうぞ〜」と言われると、基本的に即答で「年下御幸で!!」と言ってしまうほど(すみません前々から皆様!)年下御幸が大好きでですね…!
ああもう感動で死んでしまうかと思いました。というかしにました←
何回舐めるように読んでも足りないので、頼み込んでお嫁に貰うことに、しまし、た…!ふっへえまるりさん本当にありがとうございます…!(土下座)

皆様も是非この素敵御沢を存分に堪能して下さいませ…!
沢村さあああああん!(叫ぶ)本当に大好きですファンです、げほごほげほォ!(吐血←
まるり様、今年もどうぞ宜しくお願いします!
心の底から大好きです!(`・ω・´)ゞビシッ!




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