メロンパンシンドローム | ナノ

メロンパンシンドローム



お届け物です、と某黒い猫の宅急便からその荷物が届いたのは沢村がちょうど御幸と共に夕飯を囲んでいる時だった。はて誰からであろうと差出人を見てみれば、どうやら己の実家からのようである。そういえば3日ほど前に母親が何かしらの仕送りをしてくれると電話で言われていたのを思い出した。

あまり大きくはない段ボールを抱えてリビングへ戻ると、夕飯で出した金目鯛の煮つけを箸でほぐしている御幸がなんだった?と声をかけてくる。それに簡潔に「実家から仕送り」とだけ答え、段ボールのガムテープをビリビリ手で剥がして行く。
そうして見えた箱の中身はやはり実家からの仕送りの品々で、長野の特産品である林檎と実家で作られているリンゴジュース、それに地元で良く食べていた類の菓子袋や塩せんべいと…たくさんの物が新聞紙に包まれて送られて来たようだった。


「おぉ、この塩せんべいこっちじゃ売ってねーんだよな!」
「何それ、塩せんべい?美味いの?」
「すげぇ美味い!俺子どもの頃から良く食ってたんだ。死んだばーちゃんも好きだった」
「ははっマジで。俺にも後でちょうだい」
「うん、多分一也も好きな味だと思うぜ!えと…あとは………ぁっ…」
「え…何々どうしたん?……あ…、メロンパン?」


段ボールの中身を探って行くと隅の方に潰されないようにカバーされたメロンパンが2つ程入っていた。他はみな長野の特産品やこちらでは売っていない商品ばかりなのに、どうしてこの品物の中にメロンパンが入っているのだろうか。メロンパンなど全国何処のスーパー・またはコンビニでも売っているし、わざわざ仕送りで送って来なくて良いものだと思ってしまうのだが。(勿論パン屋だって全国共通の商品だろう)
不思議に感じた御幸が箸を休め、段ボールからメロンパンを手に取ると何故か突然沢村に「駄目!」と思い切り取り上げられてしまい呆気にとられる。


「っ…?な、なんだよいきなり」
「これは俺の!アンタは絶対食べちゃ駄目っ」
「はぁー?…絶対駄目って……そのメロンパンは一体お前にとってなんな訳…?」
「このメロンパンはなぁ!俺んちでは滅多に食べられない、めでたい日にしか食べる事を許されない、そんな貴重で特別な高級メロンパンなんだ!!」
「……………へ?」


長い間の後に漸く御幸が気の抜けた返事をした。
だが恋人は鼻息も荒くこのメロンパンが如何に素晴らしいかを語り始めてしまって、御幸はそれに唖然としながらも相槌を打ってやる。沢村が言うところによれば、子供のころ彼の家ではメロンパンは何か特別な時にしか食べることを許されない食べ物だったらしい。例えば小学校で作文金賞を獲った時や、運動会で駆けっこの一等賞になった時。それに誕生日にも食卓のデザートとして並んだというから、なんだか摩訶不思議な一家というか習慣だったのだなと、ケーキと一緒にメロンパンが並ぶ食卓を想像して可笑しくなった。

(変な家族だな…でもあのお母さんならちょっと納得できっかも……)

以前、沢村の成人式の祝いで実家へお邪魔した時、彼の母親に「栄純を嫁にもらってくれたら」と言われた事を思い出す。その時はどこまでが本気なのか果たして全くの冗談であるのか判断出来なかったのだが、…彼女の天然キャラならば幼少時におけるそういった教えや習慣も何故か納得してしまえた。(そして恋人はそんな母親の性格をしっかり受け継いでいるような気がする)
確かにマスクメロンや夕張メロンといった高級食材を使ったメロンパンも最近では世に出ているらしいけれど。しかしコンビニでは105円出せば買えてしまうこのご時世にどう考えたらここまでメロンパンに対して特別な思い入れが出来るのか…。それにお目出度い席にこの食品が到底似合うとも思えない御幸である。

本当に不思議な家族だ。
そう恋人の育った環境に理解がし難くなるが、けれど少しだけ興味をそそられたのも事実だった。


「なぁなぁそんなに凄いメロンパンならさ、俺にも一口で良いからちょーだいよ」
「はあっ!?お前今話聞いてた!?これは俺の大事なメロンパンなの、絶対駄目っ!」
「良いじゃねぇか。今度有名なパン屋のメロンパン買って来てやるから」
「…ゆ、有名な……?」
「ああ。赤坂で行列が出来る程評判が良いパン屋なんだ。1個で450円とかするらしいから、さぞかし美味いんだろうなぁ……」
「450円…!?100円のが4個も買える…っ!」
「だから一口で良いから食べさせて?」


な?と沢村へ美味しい餌をチラつかせると、彼は物凄く悩みながらも最終的に首を縦に振ってくれた。やはり沢村栄純という人間は食べ物の誘惑にはめっぽう弱いらしい。(きっと今彼の頭の中は450円のメロンパンの事で一杯であろう)
食事中ではあったが、金目鯛の煮つけを横目に沢村がぴりぴりパン袋を破いて行くのをジッと見る。そうして取り出されたメロンパンはどこからどう見ても普通のメロンパンである。色、形、匂い、ツヤ…全てにおいて御幸の知っている物となんら変わりは無い。
あー、と口を開ければ沢村がまだ少し文句を言いつつ、それでも渋々と言った体でメロンパンを口元へ持って来てくれた。鼻腔に届いた人工的な甘い香り。とても安っぽい匂いに果たしてこれがどのような味を己に齎してくれるのか…なんて、若干予\想は出来たけれど。

ガブリッ!


「っ、…あー!!……おまっ、一口って言ったじゃん!!?」
「一口じゃねぇか、食べたの」
「馬鹿っ、どこが一口だ!あんだけデケェ口で食ったら三口分くらいはあったわ!!」
「はっはっは、ケチケチすんなよ栄純。…味はビックリなくれー普通だなぁ」
「しかも何、味に文句まで付けてるよこの人…っ、食わせるんじゃなかった!!」
「はっはっは」


思いっきり齧り付いてやれば、案の定沢村から手厳しいお叱りを受ける。だが御幸は全くと言って良い程意に介してはいないようである。彼は予\想していた通りの味を口の中に広げて、何度か咀嚼した後飲み込んだ。あぁしかし…パンのもそもそした生地がどうも口の中の水分を全て持って行ってくれたような気になる。何か飲み物が欲しい。
そんな渋い顔をしている御幸からメロンパンを遠ざけた沢村は、もうこれ以上食べられてたまるかと自ら食べ始めている。(心配せずとも食べる気にはならなかった)

(…まぁたコイツは美味そうに食うねぇ〜……)

冷たい烏龍茶で喉を潤わしながら御幸がメロンパンを堪能\している恋人を観察する。頬っぺたを食べモノでいっぱいにしている様子はなんだかリスを連想させて可愛かった。
忙しない食べ方は学生時代から変わっていない。今もほら、唇の端にたくさんの食べかすを付けていて、まるで食べ方の下手な子どものようだ。
目いっぱい口元にお弁当をつけて一体どこへ行くと言うんだろう?御幸は苦笑いを零してその食べかすを指で拭ってやる。


「はは、お弁当付けてドコ行くんだよ栄純」
「んぐ……ぁ、ありがと…」
「どーいたしまして。あぁ、今度一緒に赤坂にメロンパン買いに行こうか?」
「おう!450円もするメロンパンって一体どんなんか想像つかねーし!」


子ども扱いされて少しすねたような、だけどちょっぴり照れくさいような顔をして沢村は御幸に拭われた口元をごしごしと手の甲で擦った。(一つしか違わないというのに、何故かいつもこんな風に子ども扱いされてしまう。面白くない)
何かの情報番組で見たそのメロンパンは、本当に最高級のメロンの果実をふんだんに使っているらしく、風味が非常に良いと口コミが方々に広がり評判を呼んでいる。また、サクサクとしたビスケット生地も大人気で、クリーム餡がぎっしりと詰まっている中身は手に持つとその重みが伝わって来るようだ、と番組内で食べたタレントが驚いた表\情をしていたのを思い出した。

既に今から逸る気持ちを抑えられないのか、仕送りで送られて来たメロンパンを満面な笑顔で食しつつ沢村は目をキラキラと輝かせている。
その笑顔を見た御幸は本当に彼にとってメロンパンというものは特別なんだなぁ、とある意味少し妬いてしまいそうになるけれど、それも可愛いものである。―\―\―\まぁ、メロンパンに嫉妬するとは我ながら馬鹿みたいだと思わないでも、ないが。
また口端に食べかすを付けた沢村の唇を拭ってやった後、御幸は本来の夕飯を食べる為箸を持ち直したのだった。


(俺はどっちかってぇと栄純が作った飯の方が好きなんだけどねぇ)


なんて、思ったのは今はまだ秘密。
(今度赤坂で450円のメロンパンを買いに行った時にでも、教えてやろう)






END。







***
何 こ れ 。 神 す ぎ る 。 
毎度ながらダイヤの文字書きさんのレベルの高さに脱帽する。
最近の自分幸せ過ぎていつか消えてなくなるんじゃないだろうか。

そして頂けるというので速攻でさらってきたんだけどうどうしようとりあえず御沢結婚しよう。(どーん)
あわあわわわわありがとうございました!!!(テンパリ過ぎ
チャットで…メロンパン食う沢村ってかわいくね?みたいな話からどうしてこんな素敵な展開になったのか。
あたしが書いた「メロンパンあげないルート」の方割れ、「メロンパンあげるルート」をゴンゾウさんが書いて下さいました…!
あれもう御幸お前メロンパン貰っちゃえばいいよそのまま沢村食べちゃえばいいy(自重

合作楽しかった…!お声頂いて嬉しかったです(´∀`*)!
方割れ書きますって挙手ったかいがあったってもんだぜえええ…!←
本当素敵です。そしてゴンゾウさんとこの大人ぱられるが大好きなあたしにとっては大変な事態でした。明日婚姻届取りに行ってきます。

本当にありがとうございましたー!





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