Scene of Carnage | ナノ

Scene of Carnage



ドサドサドサ
靴箱を開ければ、手紙がたくさん。
そんなのは一昔前の出来事だと思っていた。
それが全て恋愛系ならば、喜ばしいだろう。

「また古風な…」

金丸は、目の前で起きた手紙の雪崩に笑いながら、その一つを取った。
封筒に入っていないそれら。
開けてみると、たった一言書いてあった。
それを見て、2人は固まる。

「「……」」
『呪う』
「何か、お前したわけ?」
「そんな筈ねぇだろ!」

思わず金丸は沢村に問いかけたが、もちろん沢村は身に覚えがない。
最も沢村が野球バカなのも、付き合った人は一応いるけど円満に別れたことも知っている。
(何せ高校3年間チームメート兼同じクラスなのだから)

「とりあえず、焼却処分だな」
「おう」

そう言って2人はその手紙を“なかった”ことにしてその場を立ち去った。

それを見ている人がいたことに2人は気付かなかった。



Scene of Carnage



「……」
「……再度聞くが、お前何かしたか?」
「いや、何も」

昼休み、天気もいいので中庭で2人で昼食をとっていた。
(ちなみに春市は委員会か何かで不在、降谷先生の呼び出しのため2人で)
そんな折、勢いよく沢村の頭上に水が降ってきた。
冷静な遣り取りをしながら、上を見るとどこかで見た女子が慌てて窓から去って行った。

「(あれ、どこかで…)」
「アイツか」
「知ってんのかよ」

びしょびしょになった制服を絞りながら金丸の方を見た。
金丸は呆れたように言葉を続けた。

「しらねェのかよ。御幸の元カノだよ」
「…あ〜」

確か結構噂になっていた気がする。
そう思いながら、その子が消えていった方を見る。

御幸の彼女は学校でも美女の分類に入る子で、沢村の一個下―御幸からすれば一個上―だった。
その子が沢村を憎んでいる理由は明白だ。
なんて言ったって、沢村は御幸と付き合っているのだから。
数日前から付き合い始めたのだが、御幸の態度があからさまなお陰で周囲に噂となってバレはじめていた。
(ちなみに本当に知っているのは野球部メンバー)
それを2人は知らないふりをして放置していた末路がこうなったわけだ。

「誰かはこうすると思ったけど、まぁアイツならしゃーねぇか」
「プライド高そうだもんなァ…」

被害者であるはずの沢村は意外に冷静であった。
しかし、そういうときの沢村程機嫌が悪いのは分かっている金丸はため息をひっそり吐いた。
(こりゃ、御幸当分禁欲生活だな)

「金丸〜」
「んだよ」
「次の授業サボるわ」

いつもならば、「サボるな!」という金丸も、その意味を悟って、無言となった。

「…今回だけだからな」
「おう」

手をあげて、そのまま沢村が校舎へとはいって行った。
それから数分後で予鈴が鳴るため慌てて金丸も移動する。





誰もいない教室。
そこに現れる影。
その影はゆっくりとある場所へと向かっていく。

「遅いって来るの」
「!?」

影が振り向いた先には沢村がいた。
そう、此処は沢村の教室だった。
そして、本来ならば沢村は化学の実験中だった。

「沢村、栄純…」
「せめて“先輩”つけろ!俺は先輩なんだぞ!」

いつもの馬鹿をやっている調子でビシッと指をさした。
しかし、彼女―御幸の元カノ―はギッと沢村を睨んだ。

「何が先輩よ!私から一也を奪った癖に」
「んなこと言われても…」

告ってきたの、アイツからです。
なんて言ったら彼女の顔が般若になることくらい、沢村にだって分かる。

「一也が!一也が…突然『もう本命手に入ったからいらない』って!」

なんで…。
そう言って床に座り込んで泣きだした彼女にどうすればいいのか迷う沢村。
男はいつだって、女の涙には弱いものだ。
ただ突っ立っているように見える沢村は内心大慌てだった。

(ちょっと待てぃ!この場合、俺はどうればいいんだ!?え〜っとハンカチハンカチ…って持ってねぇよ、今の俺!拭くもの拭くもの…。ってか、この場合王道なら、女が喚き散らすんじゃねぇのかよ!!此処で王道から外れるなって!)

そんな沢村の心情を知ってか知らずか、彼女は泣き続けている。

(あ〜もう!)

半ばやけくそで、沢村は彼女の頭に手を置いた。
驚いて顔をあげる彼女に出来る限り優しく笑う。

「アンタが泣く理由は分かったし、それは御幸が悪い。泣きたいときは泣けばいいし、八つ当たりしたけりゃそれでいいけど。自分の価値を落とすようなことはするなよ」

沢村は普段使わない頭をフル活用して言葉を紡いだ。
その言葉に驚いたらしく、彼女の眼は見開かれて涙は止まっている。

「まァ…アレ顔はいいかもしれないけど、性格が超粗悪品だから」

その言葉に思わず彼女も笑ってしまった。
それにつられて沢村も笑う。

「…そうね、あんな男に引っかかった私が悪いんだわ」
「うん、まぁ…そうだな」

俺の恋人ながら、否定できねぇ…。
フォローする言葉も見つからずに歯切れ悪く頷いた。
すると、彼女は立ちあがって沢村に向き直る。

「すいません、沢村先輩にご迷惑おかけして」
「いや、なんか…元はと言えば御幸が元凶なんだし…」

どんな理由があるにしろ、彼女の口調からすれば一言で斬って捨てたことになる。
それは流石に御幸が悪いと言わざるを得ない。

「先輩も気を付けてください。本当にすみません、ありがとうございました」

ペコっと頭を下げる彼女に沢村は笑う。

「アイツの手綱は握ってやるって!ちなみに、御幸に仕返しするなら、止めねェよ?」
「ホントですか?」

悪戯っ子のような口調で言う沢村に彼女も笑う。
そこには、普通の先輩後輩の関係があった。
が、言っていることは黒い。

「なら、存分にさせてもらいます」
「おう、野球ができるならそれでいいから」
「ありがとうございます!」

ツッコミ役不在な現状でトントン拍子で物事が進んでいった。
数分後、彼女は再度御礼を言ってその場を後にする。





「御幸」
「はい?」

自主練後のロッカー。
そこには、もう一軍しかいない。
その中で沢村は御幸を呼んだ。
御幸はとても嬉しそうに振り向いた。
しかし、そのすぐ後ニヤケ顔は消え去った。

「御幸ぃ〜」

ダンっという音と共に御幸はロッカーに叩きつけられていた。
周囲は「やってろ、バカップル」と思っていたが、一瞬にして空気は凍った。

「栄純、さん?」

滅多に見ない―御幸からしたら初めてみた―沢村の表情に動揺する。

「元カノのこと…ちゃんとケリつけろよ」
「……」

その静かな一言でどういう意味か全て悟ってしまった。

「じゃ、ねぇ…と」

御幸からゆっくりと離れて、向かった先は。

「金丸と浮気すっぞ!!」
『!?』
「止めてくださいぃぃぃぃぃ!!」

金丸の腕に自身の腕を絡めた。
その光景に金丸は頭を押さえたし、他の連中は驚いて声が出ていない。
御幸には効果絶大だったようで、最早土下座の勢いだ。

「金丸先輩は強敵なんですからぁぁぁ!!」
「なら、テメェで始末つけてこいやぁ!!」

まるで伊佐敷のように雄たけびを上げる沢村。
そして、ビシッと御幸を差す。

「彼女らが赦すまで、スキンシップ禁止。破ったら」
「今から行ってきます!!」

沢村の言葉を最後まで聞かずに御幸は部屋から出ていった。
それを満足そうに見送る沢村。

「沢村…」
「ん?」
「お前、謀ったろ」
「被害、アイツだけだからいいじゃん!」

その一言に金丸は、「まぁ、そうだな」と返して自己完結をする。
全くついていけなかった周囲は、その翌日以降の御幸の行動で全てを悟ったのだった。




「ちょ、マジ赦してください」
「嫌よ。赦さなかったら、沢村先輩には触れないんでしょ。いい気味ね」
「くっ…」

そんなやり取りが見られたのは、3年生の廊下だったとか。

「おい、モテモテだな」
「羨ましいだろ〜」

クラスメートの冷やかしを沢村も笑いながら受け流していた。

「本当に、なんでアイツなんだろうな…」
「それ、間違っても本人に言わない方がいいよ」
「なんで?」
「言ったら、うざくなるでしょ」
「…なるほど」

春市の言葉に頷く沢村。
それに対し、金丸は。
(ホントに付き合ってんのかよ…)
パックのジュースを飲みながら、そう思った。

END.







***
「創世ラグナロク」の遊佐様より頂きました…!!
な、なんと、私のお誕生日にプレゼントとのことで…!どう、どうしよう、どうしよう!…どうしよう!(←パニック
嬉しすぎていろいろと本当にどうしよう、もう本当に遊佐様ありがとうございます…!
御幸の元カノって怖そうですよね!って私の妄想大爆発をこんな素敵な小説にして頂いて…!涙が出ます。ありがとうございます…!
とりあえず…

性 格 が 超 粗 悪 品 !笑

そしてそんな御幸と付き合ってる沢村に愛を感じました。
うちには無い可愛い御幸がここにいます。
萌え過ぎて大変でした。ティッシュプリーズ…!

私だけがこの作品を読めるなんてもったいない!ということで(笑)
掲載許可を頂いてきてしまいました…!
うちにまたひとつお嫁さんが…!ありがとうございます。大切にします!

遊佐様、本当にありがとうございました…!大好きです!





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