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*3年目春/5月くらい 御幸と初めて会った時の感想は、“何コイツ”。 最初はすげぇ迷惑したし…なんだよこいつってすげぇ思うだけだったんだけど。 だって突然部屋の前に居たりさ、なんか奢ってくれたりさ、部屋にまで通うようになったりさ、意味わかんねぇじゃん?つーか、ただのストーカーじゃん? 芸能人じゃなかったら許されな…、…って、いやいや、芸能人でも許されねぇっつーか。 それはもう、あの時携帯忘れて飛び込んだ自分を恨めしく思ったことも一度や二度じゃない。 それくらい、御幸の最初の印象は最悪だったわけだ。 でもなんかそういうの、なんていうかな…全部ひっくるめて、御幸っぽいというか。 過去のことを水に流すわけじゃねぇけど、つ、付き合い始めてからの距離感っていう、の? そういうのがなんか、すげぇ俺に会ってて、御幸といるのは楽だってことに気付いた。 多分すげぇ、バランスが、いいんだ。…と思う。 俺も御幸も気まぐれなのは一緒なんだけど、ちょっとだけ種類が違う。足りない部分を補って、けど同じところも持ってる。 つまり言葉を変えていうならきっと、相性がいい。 俺は元々そういう、恋愛とかみたいなのには奥手な方だったから、ずっと縁も無かったし…あのまま仕事一直線で走ってたらこれからだってなかなか良縁に恵まれることもなかったと思う。 そりゃ、仕事は好きだし、仕事してる時が幸せだから、それはそれでいいかなと思うんだけど。女の子のことまで考えないといけないとか…めんどくせーことは嫌いだしな。 …でも今は、そんな俺との距離を縮めてくれた御幸に、ちょっとだけ感謝してる。 もちろん口に出しては言えねぇけど。…だって言ったらアイツ、調子に乗るじゃん。 だから言わない。 言わない、けど。 変わりに少しだけ、今日は御幸に優しくしてやろうと思う。 そうだな、うん、たまには美味い飯だけじゃなくてデザートも付けてやろう。 何がいいかな。あんまり難しいモンは作れねぇから、…いっそ、「デザートは、俺」とか言ったらアイツ喜ぶんじゃねぇの…。…いや本当にあながち間違って無さそう。…とか、そんな、…ぜってぇ、ヤダけど。ありえねぇけど、でも、 「“御幸が喜んでくれるなら、たまにはそんなこと言ってみるのもいいかも…”」 「………。」 「っていう展開をそれはもう心から熱望してんだけど、いつまで待てばいい?」 「………。」 「なァ栄純、聴いてる?」 何だか一人、淡々と話を進める御幸に、言葉を無くして顔の筋肉に休暇を与えていたら、あやうくうっかりそのまま全身から力という力が抜けるかと思った。 何も喋れずにいる俺とは違って、ペラペラ口を開く、御幸。 そう、御幸。 今まで静かだった御幸が、何かネジでも飛んだみたいにいきなり喋り出した内容に、俺はというとただ絶句するだけだった。しかも全力の絶句。 内容は最初から最後まで、俺の放送コードに引っ掛かる言葉のオンパレード。 しかもそれを真顔で話す御幸に、危うく瞬きすんのを1分くらい忘れてた気がする。 「……ええ、…ええ、そりゃあもう…嫌ってくらいしっかり耳の中に残ってる。ああ残ってますとも!!」 「うっわ、いきなり大声出すなって。びっくりするから。」 「びっくりして目が点になったのはこっちだ馬鹿御幸!!なんだ今の!なんださっきの!」 「え?俺の愛の沢村くん劇場?」 にっこりと綺麗な綺麗な笑みを浮かべて言う御幸に、浮かんだ殺意は何とか理性さんの家の大家族を総動員して抑えた。なんて大人。俺。 「…なるほど、御幸はちょっーっと働きすぎて頭おかしくなっちまったんだな…。」 「残念ながら正常ですが、何か。」 「…そうかお前は最初から欠陥品だった…。」 「クーリングオフ期間はもう過ぎてるから返品返金は不可能だよ。」 「…燃えるごみっていつだっけ。」 「いやそこはせめて燃えないゴミくらいにはランク上げて欲しいかなぁ、とか。」 「燃えないゴミは出す人少ねぇからお前捨ててるとすぐバレるから却下。」 「…沢村くん、それ本気で言ってる?あれちょっと俺これ本気で捨てられるフラグ?」 「自分の胸に手を当ててゆっくり自分の罪と向き合えバカ。」 「栄純の隣にいると心臓の音がうるさくて他のこと何も聴こえねぇから。ごめん。」 あ、どうしよう。なんかすげぇ今本気でむかっと来た。 …から、ソファに座って御幸の体に思いっきり自分の体をぶつけてやった。 いってぇ、って声が途端降ってきたけど、肩を竦めて聴こえないフリ。 「そんなに気に食わなかった?愛の沢村くん劇場。」 「まだ言うか。」 「ちょっと本気だったし。」 「何が。」 「最後のセリフ。」 「……やっぱ一回ゴミ収集車でドライブしてくるか?」 「どうせだったら普通にドライブしようぜ。休みの日にさァ。」 「………やっぱ燃えるゴミの日だな…。」 「えー。沢村くんむごいってそれ。」 今本気で台所に燃えるゴミの袋取りに行くところだったんだけど、そういえば今ちょうどゴミ袋切らしてたことに気付いた。 しかもなぜかこのタイミングで、燃えるゴミも燃えないゴミも。 そう告げたら、ぽかんとした御幸が、すぐにクスクスと笑いだした。 「つまり、それ買いに行くまでが俺の寿命なわけだ。」 そうだって肯定したら、もう一度言われた。ひでぇよなぁ、なんて。 全然酷いなんてこれっぽっちも思って無いくせに。…ほんと、ムカツク御幸。 「じゃあ残り少ない命の間くらい、好きなことさせて貰ってもいいよな?」 「は、」 「とりえあえず沢村くん。」 俺さっきの言葉、俺本気だからね。 逃げようと思って腰を引く前に捕まった。俺の馬鹿。 「それじゃあいただきます、」 俺の絶叫は、二人分の重みで軋んだソファの中に綺麗に消えた。 「つーかお前、自覚あったのか。」 「ん?」 「俺が迷惑がってたりストーカーだって思ってたりしたこと。」 「…はは!」 「ちょ、おい、こら!逃げんな!誤魔化してんじゃねーよ…!」 [←] |