lovers days | ナノ

lovers days


*2年目冬/1月



寝室にかかる大きな窓からはたっぷり入る日の光を少しだけ和らげてくれるような。
お互い忙しい身だから、せめてもゆっくり眠られるように、ほんの少しだけ、いつでも夜の静けさを感じられるような二人で選んだ大きなカーテンを引いて。

運び込んだ家具は、好みの違う二人がお互いに譲歩し合って決めたもの。
沢村くんの好きなのでいいよ、そんなことを言う御幸に、一緒に暮すんだからそういう気遣いは無用だと告げたら、何だか嬉しそうに笑われて居心地が悪くなったことも記憶に新しい。

リビングのソファは、前に俺の家にあったもの。
俺が給料をはたいて買った高級ソファは、今は少しだけ違和感を覚えるけど、きっとすぐに風景に馴染むんだろう。

寝室は、御幸の担当。リビングは、俺の担当。
男二人で引っ越し作業。労働力的な面では、青道メンツにも手伝って貰えば十分すぎるほどだったけれど、逆に引っ越すにあたっての細かい面では少しだけ苦労してみたり。(その辺は俺と御幸、両方のマネージャーの助けを借りてどうにかした。)

御幸はよくうちに通ってはいたけれど、お互い仕事もあるからそう回数があるわけじゃない。
毎日のように一緒にはいたけれど、決してそれは生活の中において長いと言えるほどの時間でもなかったから、突然の共同生活に不安が無いわけではなかったけど。


「ただいま、栄純。帰ってる?」


ひょこりとリビングに顔を覗かせる御幸の顔を見て振り返って。


「…おう、おかえり。」


そんなやり取りすら、(ちょっとだけど)嬉しいと思えるくらいには。
まぁ、それなりに上手くやっている。















―――― 同居じゃなくて、同棲でしょ?

そんな言葉に、調子に乗んなと叫んだのは一緒に暮らし始めてからすぐの話。
生まれてこの方、家族以外の人と暮らすのなんか初めてで、準備をしている時は、確かに考えてはいたけれど、いざ実際そんな状況になって実感が沸いてくると、それがどれだけくすぐったいものなのか身を持って思い知ることになった。

自分の生活空間の中に、御幸がいるという状況は今までと変わらない…と思っていたけれど、それはとてもとても甘かった。
そう、確かに自分の生活空間の中に御幸がいるのはそう珍しいことではなかったけれど、今は違う。ここは御幸の生活空間でもあるってことに気付いたときから、なんだかそわそわするのが止まらなくなった。
一緒に暮らす前、そういえば御幸のところに自分から行くことなんかなくて、御幸の生活については知らないことばかり。
よく考えれば、モデルやってて、有名人で、人のこと構わず追っかけてきやがって、積極的で一方的で…そんな断片的で表面的なことしか知らなくて、そんな話をしたら春っちに「よくそれで一緒に暮らそうと思えたね…」って言われた。(まぁそれが栄純君達らしいといえば、らしいけどね、と後で笑ってもいたけど。)

それに、一緒に暮らし始めてから少しだけまた距離が近くなった気もする。
二人で住むんだからってことで借りた部屋は、二人だっつーのに無駄に部屋もあれば無駄に広いとある高級マンションの最上階。仕事の関係で一部屋仕事物置部屋にすると決めた部屋以外にも、寝室と、その他に二つほど部屋もある。リビングだって無駄にだだっ広くて落ち着かないくらいの広さなんだから、一緒に居ても今までより距離だってあるはずなのにそう感じるのだから、よっぽどだ。

例えばそう、前までは御幸一人が座っていたリビングのソファだって、今では二人で座るようにもなった。
それに、今までたまにしか呼ばなかったくせに、一緒に暮らしだしてから御幸はよく俺の下の名前を呼ぶ。
いちいち指摘するのも恥ずかしいし…って放っておいたらそれが定着してしまって、もうめんどくさくてそのまま。だけど俺は俺でタイミング逃して、御幸、って呼ぶままだから、それはどうなんだろうとたまに考えることもある。(こんなこと俺に考えて貰えるなんて出世したなこのストーカー男、と思ってるけど声には出さない。)

慣れないことも多いし、たまにすれ違う。不便だなと思うこともあるけど、まぁ何となく上手くやれてる。それはいいことだと思う。

が。

問題が、一つ。


(同居じゃなくて、同棲…。)


生活を共にし始めてからそろそろ1か月ほど経とうとするわけだが、俺らの関係は今までと何ら変わりもない。や、そりゃ一緒に居る時間やすることは増えたけども。
朝起きて、一緒に食える時は飯食って、帰って来たら早いほうが飯作って、これも一緒に食えるなら一緒に食う。そんで、寝る時は…ベッドは同じだけど、それはもう部屋に似て広いわけで、端っこで背を向けて体を丸めて寝る俺からは、御幸がどうしてるのなんか分からないくらい、だったりして。

まぁつまり。


(…なんもねぇんだけど、これってどうなの?いいわけ?いいのか?)


同居じゃなくて同棲でしょ。
そういった御幸の顔はいつも通り確かに冗談の顔だったけど、それなりに俺だってそれからいろんなことを考えてみたりもしたわけだ。
の、に。

(…なんもねぇってどういうことだ。おいこら御幸。)

ソファに座る横で、もうすっかりこの部屋の風景に馴染んで、同じようにゆったりと腰掛けてテレビに視線をやる御幸をこっそりと睨みつける。けれど集中してるのか、俺の視線には気付かず、ただ真っ直ぐだけを見つめるその横顔にそっと心の中で悪態をついた。

(いや、別になんかあってほしいわけじゃねぇけども…。)

無いなら無いで別にいいんだけど、無いなら無いって言ってくれないと、俺の心臓がいつまでもつだろうかということであって。いや別に常にドキドキしてると言ってるわけじゃないけど、まぁとにかくいろいろ悩むのは性に合わないというだけであって…。

(変態ならとことん変態らしくいろよ、このバカ御幸!)

叫べない分心の中で大声を上げて、ふう、と一つため息を落とした。


「…そんなに見られると、流石に照れるけど。」
「おわ!」
「何その声。」
「き、気付いてたのかよ…?」
「や、そりゃ気付くだろ。この距離だし。」


ぽんぽんとソファの背を手で叩かれると、流石に恥ずかしくなって顔を背ける。するとクスクス笑う御幸の声が耳について、顔は向けないまま思いっきり足を蹴り飛ばしてやった。


「痛いんですけど。」
「じゃあ笑うな!」
「そう言われてもなー。」
「なんだよ…!見てちゃ悪ぃのかよ!」
「別に悪いとは言ってねーじゃん。寧ろ嬉しいし。」
「…変態…。」
「なんとでも?」


しれっとした顔で肩を竦める御幸を横目に唇を噛む。どうしても御幸に言葉で勝つことは難しくて(他のところでも何を取っても難しいなんてそんなことは言わねぇけども)最後には黙るしかないのがとてつもなく悔しい。


「お、おれは別にアンタ見てたわけじゃなくて、アンタがいる風景を見てた、の!」


だから妙に反抗したくなってそう言えば、テレビから完全に視線をこちらに移行してきた御幸が、一瞬きょとんとした後、今度は腹を抱えて大爆笑し始めたから驚いた。


「は?え、ちょ、何で笑うわけ!」
「だ、だって栄純が可愛いから…!」
「かっ…!?」
「だって、風景って…っ、まぁ、いいけどさ…はは…っ!」
「え、ちょ…なに、」
「ほら、そういう反応も。」
「どういう反応、だ…!」
「だからそういうのだってば。」
「うー…なんだよ意味わかんねぇし…笑うなよ!」


ケラケラとテレビの音量を掻き消しそうな勢いで笑う御幸にムスッと唇を突き出す。
なんで笑われてるのか意味が分からなくて、意味が分からないのはなんかムカツク。
だからしかめっ面をしていたら、それに気付いた御幸が少しだけ笑うのをやめて、俺の方をじっと見て来つつ、言った。


「…可愛いくらいファンにも言われるだろ?」
「い、言われな…いし!」
「ほんとに?」
「おう…!」
「ふーん。」
「そ、それに!」


ついでに言うと本当はファンレターとかライブとかでも、かっこいいより可愛いの方が多いんだけど。まぁもちろんそんなことは口が裂けても言えないわけで。
でも、そういう風にたくさん貰える嬉しい言葉とはまた違って。


「ファンに言われるのと御幸に言われるのじゃ、なんか…全然、違うし…。」


少なくとも、ファンに可愛いとかなんとか言って貰ってこんなに動揺することは、ない、から。
だから素直にそう言ったら、今まで笑ってた御幸の声が一瞬で止まった。


「あれ?」


どうしたんだ、と思ってようやく顔を上げたら、そこには珍しく少しだけ顔を赤く染めた御幸の顔。
けれどそれはすぐに隠すように手で覆われてしまって見えなくなった。


「あのさ、それは反則じゃないですか。」
「え、」


我慢してたのに、台無し。
そう聞こえたかと思うと、引き寄せられて。


「栄純ってさ、たまに物凄く卑怯だよな。」

(え、)

あ、と思った時にはものすごく近くに御幸の顔があって、いつの間に回されたのか分からない手が俺の後頭部に触れて、次にすぐ唇に感じた温度に一瞬何が起きたか分からなくなった。

ちゅ、と軽いリップ音を立てて離れていった顔に浮かぶのは、さっきの赤じゃなくてもっと別のあかいろ。


「一応段階は踏んどくべきかと思って。」
「は…?ちょ、…え…?」
「前も言ったと思うけど。」


長い指の腹でそっと唇をなぞられて、ああさっきのはやっぱり。と思ったら、かああっと一気に頬に熱が溜まった。


「ちゃんと拒絶しないと痛い目見るぜ?」


拒絶なんてする暇無いくらいの速さで奪っていきやがったくせにそんなことを言う。


「ばっ…!」
「はい、ストーップ。」


軽々と腕を掴まれ、まるで米俵でも持ち上げるみたいに肩にひょいっと担がれて(体つきなんてほとんど変わんねぇのにほんとむかつく。なんだこれ。)叫ぼうと思った声への制止の声に反射的に声と同時に一瞬じたばたと動くのすら忘れた。
その間にリビングを出た御幸は、俺の場所からじゃ全然見えねぇけど、多分すげぇ楽しそうな顔をして笑ってるのが、すぐに分かるくらい声を弾ませて。



「どうせ叫ぶなら、続きはベッドで叫んで。」



張り上げた声は寝室のドアがパタリと締まる音に重なって消えた。




























「実はさ。」
「んー…。」
「あ、声やべーな。先になんか飲む?」
「いや…今はいい…。」
「そ。」
「…なに…。」
「あー…実はさ、俺、栄純がなんかいろいろ一人で悶々と悩んでたの知ってた、とか言ったら多分怒るよなぁ。」
「…は、…?」
「だって悩んでんなーって思ってみてんの妙に可愛くて楽しくて。ごめんな。」
「…あんたって…マジで最悪に最強に変態…。」
「まぁ、沢村くん限定で。」
(…嬉しくねぇ…。)









***
お正月突発企画にて頂いたリクエストで、同棲を始めた後の芸能パロの御沢になります!
進展…少しずつしてるはずがここにきて一気に跳躍。…が、ストーカー出身の御幸っぽいかなぁ…と…。
変なところでスイッチ入る御幸は今日も元気です。

リクエスト頂いたかりん様、本当にありがとうございました…!
相変わらずな二人と私ですが、これからも御沢愛!で突っ走っていきたいと思いますので、2011年新年もどうぞよろしくお願い致します。
突然の企画だったにも関わらず、リクエストの方本当にありがとうございました!大好きです!





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