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mind me!!



普段の先輩としての御幸は、俺のことを“バカ”だとか“単純”だとか“分かりやすい”とか言いやがる。
特別な恋人としての御幸は、俺に“沢村のことなら何でも分かるよ”なんて痒くなりそうなくらい気恥ずかしい台詞を投げつけてきやがる。
でも実際あの人は、俺の言いたい事なんてきっと半分も分かってくれてない!…と思う。





だってそうだろ、俺が分かりやすいなら、俺のことわかってるはずなら、今俺はこんな風に一人にされてるはずがない。



何とも静まり返った御幸の部屋。
聞こえるのは、時折御幸が捲るスコアブックの紙同士が擦れる音と、お互いの微かな呼吸音だけ。
さっきから俺に背を向けて、生意気にキャッチャーの顔してスコアブックと睨めっこしてる御幸は、ベッドに腰掛けてクッションを抱きかかえてる俺からは後姿しか見えなくて、いくら真面目でカッコイイ顔してたとしても、残念ながらそれは俺には見えないから無駄だ。ざまぁみやがれこの変態眼鏡、なんて目線だけで悪態をついてやった。

折角の練習が半休だってのに、御幸はずっとこの調子。仕方無いから俺もずっとこの調子。暇だし、走りにでも行こうかとも思ったけど、なんか部屋からは出づらくて、ずっと御幸の背中ばっか見てる。
俺はずっと御幸を見てんのに、御幸は俺を全くもって振り返りもしない。(別に振り返ってほしいわけじゃなけど!)
別に寂しいとか、そういうんじゃないけど、何か不公平な感じがしないか。そうだ不公平な気がするんだ。俺ばっかり。だからウズウズするんだ。そう、きっとそれだけ!

(こっち向け、こっち向けバーカ!)

――沢村のことなら、何でも分かるよ。

(構え、構えっての。暇なんだよ、バカ御幸!)

念仏のように唱えていたら、ふっと甘く囁かれた睦言を思い出して、ばふっと抱えていたクッションに顔を埋めた。

(…全然、分かってくんねぇじゃんか。嘘つき。)

嘘つき。



ああ、なんかもういい加減虚しいな。まだ暫くかかりそうなら聞いて、その時間にまた戻ってくればいいかと思って、小さく息を漏らしながら立ち上がろうとすると、キィっと高い金属音が響いて、驚いて顔を上げた。


「…お前さっきから…さぁ。」


数秒前までスコアブックばかり映していた瞳が、俺を捉えてる。ああ久々に目が合ったなぁなんて(といっても、本当はまだそんなに時間なんて経ってないんだろうけど!)どこか冷静な頭の片隅で思う。
そんな呟きを漏らしながら俺の方を振り返った御幸の顔は何だか困った顔で、意味が分からなくてぽかんとしてた俺に、御幸は少しだけ笑むように口の端を上げて、言った。



「後からちゃんと構ってやるから、あと30分は大人しくお座りしてろよ。」


ちゃんと出来たらご褒美やるから。



それだけ言うと、再び背中だけに戻ってしまったのに、俺はなんだか急に居心地が悪くなった。
俺は犬か!…なんて咄嗟の反論の大声を上げるよりも、何よりも。


(ばばばばばばバレてる…!?)


なんで、どうして、俺は何も言ってないのに!


大慌てであたふたしていると、くすりと笑いが漏れた音が聞こえて、俺はもう一人でパニック寸前状態のまま。
聞こえた言葉に、今度はもう顔から火が出るかってくらい、真っ赤になった。




「言ったろ、お前のことなら俺はなんだってお見通しなんだよ。」




次の瞬間、抱えていたクッションが、御幸の背中に向けて放物線を描いたのは言うまでもない。(ピッチャー舐めんなよ!)




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