to you from me. |
*冬/1月くらい 「……ショー?」 「うん、そう。だから急遽暫く日本は離れることになっちゃったんだよね。」 「へぇ…どこ行くんだよ?」 「パリ。」 パリ、とな。 おおう…身近過ぎて最初なんかの効果音かと思ったぜ。 …なんといやはや、それはまた随分と華のある街に。 流石、人気モデルは違うなぁ…と、その時は寧ろ感嘆の溜息しか出なかった。 というか、御幸ってそんなスゲーやつだったんだな、と改めて痛感したというか…いや、もうむしろ凄すぎて逆に実感沸かなかったつーか。 「寂しいからって浮気すんなよ?」 「するか!」 「あれ。寂しいは否定しないの?」 「…どっから来るんだ、そのポジティブさ加減。」 「そうだな…沢村くんへの溢れんばかりの愛から?」 「うっわぁ、超迷惑。」 いつもの、冗談みたいな御幸の言葉。 相変わらずどこにそんな時間があるのか、俺の部屋に入り浸って俺のソファを占領して、最近では俺を膝に乗っけることを覚えた御幸が、御幸の足を跨いで背もたれて座る俺の頭を後ろからぐりぐり撫でつつ、その女性を魅了する甘い声で俺の耳元で囁いた。 「まぁ、だから…しばらく連絡出来ないかもしれないけど、お土産買ってくるからいい子で待ってて?」 …そう言った数日後、御幸は飛んでいった。 一日目。 …何事も無く終了。 最近はテレビ出演も増えて、冠番組まで持たせて貰えるようになったから(まだ枠は深夜なんだけど。)その撮影も忙しいし、本業は歌手だから、歌やダンスのレッスンもある。 元々、毎日毎日御幸のことを考えてたわけじゃないし、1日は目まぐるしくあっという間に過ぎていくし、気づけば1度も気にしないで夜を迎えてることだって多い。 二日目も、やっぱりそう。 バタバタと慌しく分刻みで入っているスケジュールをこなしていく。 途中降谷が暑さでバテそうになってた。倉持さんにはなぜか荷物持ちをさせられた上に、最後は関節技まで決められた。(なぜだ。俺がなんかしたのか?いや絶対してねぇな。)…春っちは今日も春っちだった。 やっぱりそんな1日は、御幸のことなんて考える時間もなくて、気づけば夜。 …だけど、二日目の夜に部屋の鍵を開ける時に、一日目とは違う感情が心の中を一瞬モヤっとさせた。 (ああそうか、今日も御幸来ねーんだっけ…。) ガチャンと音を立てて開錠したドアの先にあった俺お気に入りの高級ソファ。 今日は独り占めできるのに、なぜか俺はその日も床に座った。 それから、三日、四日と確実に時間は過ぎていく。 俺は大きな勘違いをしていた。 時間が経てば、時間が開けば、御幸のことなんて考える暇もなくて本当に忘れてしまうんじゃないかと、ちょっとだけ思ってた。 だって元々俺らの関係は、御幸が俺にストーカーみたいに付きまとってたことから始まって、俺は最初そんな御幸をウザイと思ってたし、やめてほしいとも思ってた。 (だって御幸が部屋にいると、なんか落ち着かねぇし、俺のソファ取るし、最近はべたべたしてくるし、本当居心地悪いし…!) だけど、それは逆だった。 最初の内こそ気にならなかったものの、時間が経てば経つほど、御幸のことを考えている時間が増えていることに気づいた。 今日は降谷はどんな様子だったっけ。倉持先輩には今日荷物持ちさせられたんだっけ?…そういえば春っちに、栄純君ちょっとおかしくない?と言われたような気もする。 仕事だけはきちんとした覚えがあるけど、それ以外のことが酷く曖昧だ。 部屋に帰っても、一度鍵を開ける前にドアノブを回してしまう。 ガチャン。 そう扉が大きな音を立てて俺を拒絶して、ああまた今日も鍵を開けないと家に入れないんだなと思うと、今日は溜息まで落ちた。(最近は御幸が家に先に居ることも多かったから、鍵開けずに入れたりしてた。…変な癖つけさせやがって。) 「…御幸、いつ帰ってくんだろ。」 そういや聞き忘れたな。 今更ながらに気づく俺もどうかと思うけど。 思えばアイツはいっつも、言葉は恥ずかしいくらいストレートなのに、肝心なところははぐらかす傾向がある。はぐらかすっていうか、上手く交わすっていうか…自分のリズムに乗せてしまうっていうか。 掴み所がなくて、飄々としてて、何考えてるか分けわかんなくて、変態で、ストーカーで、人のことからかうようなことばっかりして。 余計なことばっか言う癖に、大事なことは言ってくれない。 付き合う、って感じになってからもそれは変わらなくて、そういうところはやっぱりちょっとだけ嫌いだ、と思ったりなんかして…。 (ああ違う…これは、八つ当たりだ…。) ドサッと音を立てて荷物を室内に落として、今日はソファにボフッと体を投げ出した。 体を包み込むような絶妙なフィット感が堪らない。 元々俺が気に入って給料はたいて買った高級ソファだ。…あんなにお気に入りだったはずなのに、なんか物足りないのはなんでだろう。 「……御幸の阿呆。変態。ストーカー。………浮気するぞ…。」 (うそ、嘘だけど。…ちょっとくらい拗ねたってよくね?…つーか、電話する時間なくてもメールくらいくれてもいいじゃんか。…俺も送ってねぇけど。でもほら御幸だろ。御幸だし!) 程よい疲労感が適度に体を包んで、訪れたまどろみに意識を預けて、そのままゆっくり目を閉じた。 金髪美人に囲まれる御幸の夢とか見たらさすがにムカつきそうだったから、何も考えなくて済むように、普段はやらない(やれ、ってクリスさんからは何度も何度も言われるけど。もう携帯忘れたりしませんって!)明日のスケジュールの判読しながら。 「……、ふあ、」 不意に突然、引き寄せられるように意識が浮上して、ぼんやりしていた視界に少しずつ周りの風景が浮かび上がってきた。 そういえば帰って来てそのまま寝たんだっけ、とまだ働かない頭を動かしながら辺りを見渡した。 帰ったままで、電気すらつけてなかったから、部屋は真っ暗。 帰った時も真っ暗だったけど、体からはすっかり疲労感が抜けていて、随分と寝てしまったんじゃないか…とふと考えて、ガバッと勢いよく体を起こした。 「い、いいま何時!?何日!?」 寝汚い自分が、アラームもつけずに寝るとか、なんて自殺行為。 それで何回今まで仕事に遅刻して雷食らったことか!…何回やっても学習しない俺。 室内の時計は真っ暗で見えなかったから、手探りで探した鞄の外ポケットから携帯を急いで取り出した。 開いた携帯に表示されていたデジタルの時計は、朝の5時半を示していて、日付は帰った時と同じだった。確か日付が変わったくらいに帰ってきたから、5時間くらいしか寝てないのか。予想外にあんまり時間が立ってなくて驚いた。 睡眠時間も短いし、ベッドで寝たわけじゃないのにこの爽快感。…やっぱこのソファ只者じゃねぇな…!なんてちょっと感動した。もういっそこれからここで寝ればいいんじゃないだろうか。 「…あれ…?」 ホッとして脱力した腕が握っていた携帯が、暗闇の中でチカチカ小さな灯りを点滅させて存在を主張しているのに気づく。 さっき画面を見た時は慌てすぎて気づかなかったけど、どうやらメールか電話が入ってるみたいだ。 クリスさんから明日のスケジュールの確認メールかな、と思って開いたら、案の定メールの方は予想通りそれで、今返信するのはちょっと申し訳ないと思ったから、後で朝連絡することにした。 そしてもう一件、着信あり、の待ち受け画面の文字を見て、俺は再び寝起きとは思えない動作で画面に齧りついた。 俺に電話してくる人間は限られてる。 なぜなら俺がよく携帯を携帯しないで出かけることが多いから、皆確実に見てもらえるメールを選択する、から。 だから、着信、は。 ドキドキと、心臓が煩い。 暗くて静かな場所に、響きそうなくらい大きく鳴った。 カチ、と履歴を呼び出すと、そこにあったのはやっぱり、『御幸一也』の文字。 時刻を確認したら、俺が寝たのと同じくらいの時間だった。 んだよアイツ!タイミング悪いな!KYか! 急いでリダイヤルボタンを反射的に押した。 …思えば、俺から電話するのって珍しい?いや、初めて? ボタン押して、無機質なコール音が聞こえだしてから冷静になって妙に恥ずかしくなったけど、既にコールは鳴ってる。今更切るのも、面倒くせぇし、いっか。 けど、何度コールが鳴っても一向に繋がる様子はない。 寝てんのかな、と思って諦めかけるけど、あと5コールだけ。…あと3コールだけ、と煩い心臓を留めて粘ること数コール。 『…はい?』 電話越しに聴こえた声に、ビクッと背中が大きく揺れたのが自分でも分かった。 ちょっとだけいつもより低い声。 「み、御幸…。」 『…沢村くん?…あれ、わざわざ電話してきてくれたわけ?』 「お、おう…、今、見たから!」 『え?…あれ、そっちって今すげー朝方なんじゃねぇの?どうした?仕事?』 「え?」 なんのことか分からず、考えること数秒。 言われてから気づいた。 (そ、そっか、時差!) 御幸は今、外国にいるんだった。 なんかすっかり忘れてたけど、日本以外だったら時差があるんだよな。そうだよな。 反射的に電話かけなおしたけど、もし今パリが飛んでもない時間だったり、仕事真っ最中の時間だったらどうするつもりだったんだ俺。 仕事中なら携帯見たりしねぇだろうからいいけど、寝てるところ起こしたりしたら…って、それは今こんな時間に電話してたら日本でもアウトなんだけど。 考えなしの自分に驚いたのと同時に、そんなに周りが見えないほど御幸からの着信に反応していた自分に恥ずかしくなった。 「じ、時差のことすっかり忘れてた…。」 『…ぶ、は!なんだそれ!』 「そっか。そうだよな…御幸今、海外にいるんだもんな…。」 『…沢村くん?』 「う、旨いモンとかめちゃくちゃ食ってんだろ?いいよな!人気モデルはさー…。俺なんて明日バンジージャンプとかするんだぜ、一応これでもアイドルなのに!」 『バンジージャンプって…何それ。なんかの企画?』 「そう!テレビ!…元々は降谷がやる予定だったのにさ、アイツ俺に押し付けて、ツーンとかしてやがんの!倉持さんも助けてくんねーし!…あれ絶対二人とも自分が恐いからやんねーんだぜ!」 『えー。でも沢村くんだったら、なんか普通に似合いそうで視聴者面白くないんじゃねぇ?』 「だろ!?ぜってぇ降谷が飛んだ方がおもしれーのにさー!…つーか御幸はある?そういうロケ。…って、あるわけないか。」 『ま、俺元々はスチールかショーばっかでメディアの露出少なかったから、そういう経験は確かにあんまねーな。』 「…くそう、羨ましいぜ…!」 何でか分からないけど、会話が止まらない。 普段御幸が部屋に入り浸ってる時だって、こんなにたくさん仕事の話することなんかないかも。 俺がペラペラ喋って、心なしか御幸もいつもよりちょっと饒舌っぽい。 電話を持つ手を何度か変えながらソファに寝転んでいると、暗い部屋の中で携帯電話の光だけが小さく光る。 それからくだらない会話を続けて、最近あったことだとか、主に俺が一方的に喋りながらも、御幸のことも聞いた。 殆ど別世界の話みたいな感じがしてすげー変な感じだったけど、今度日本のテレビでもやるらしいって聞いたから、それは確認しとこう。 ソファにごろごろ。足をバタバタさせながら、話をしていたらふと携帯の時間が目に入る。 そしたら既に電話を始めてから30分以上経ってた。 あまりの時間の早さに驚くしかない。 「あ、御幸今そっち何時!?俺変な時間に電話した!?」 『いや、今夜の10時前。さっきホテル帰ったところだから別にヘーキ。』 「そ、っか。よかった。」 『時差計算ぐらい出来るようになりましょーネ。沢村くん。』 「言われなくても普通だったら出来るっつーの!」 『どうだか。』 「で・き・る!」 『じゃあ次頑張れ。』 「…つぎ…。」 サラリといわれた御幸の一言に、一瞬反応が遅れた。 それを逃すほど、御幸は鈍感じゃない。 あ、と思ったときにはその違和感を拾われていた。 『…どうした?』 「いや…なんでも!」 『なくなさそうだけど。…さっきもちょっと変だったし。なんかあった?』 「だ、だから!何もねーっての!心配性だなぁ、もう!」 『…そりゃ、心配にもなるっての。だって沢村くんにこんなに会えてないし。…変な男に言い寄られたりしてねぇ?』 「ちょっと待てこら、なんて男限定なんだよ。」 『なんとなく?…だって沢村くんっていろいろと無防備だし。変なヤツに付きまとわれないか心配で仕方無い。』 ほう、それをお前が言うか。この(元)ストーカーめ。 「…なんもねぇし。」 なんで久々の電話でこんな阿呆な会話をしないといけないのか疑問で仕方がなかったけど、不思議と電話を切りたいとは思わなかった。 だから、もう一回ソファでごろりと寝返りを打って誤魔化した。 御幸、明日も早いんだろうな、電話そろそろ切らないと。っていうか国際電話って高いんだよな、俺やばくね?…とか、頭はもう正常に動いてるのに、口が言うとおりに動いてくれない。 『じゃあ、…寂しい?』 聴こえた声に、む、と唇を尖らせた。 何でいつもいつも俺ばっかり、こんなこと言わされなきゃなんねーんだよって思ったから、ふん、と鼻を鳴らして、電話越しで見えないのは分かってるけど、べっと舌を出した。 「………浮気してやる。」 『え、それは勘弁。』 「うるせーうるせー!…浮気されたくなかったら、帰ってくる日教えやがれ!」 『は?さわむらく、』 「いいから早く!」 『えー…、…あー、…日本時間で、そっち今水曜?…なら、来週の金曜だな。』 「…よし、分かった。了解。じゃあ俺は一回寝る。」 『は?ちょっと、結局お前、浮気ってな…』 「おやすみ!」 御幸の言葉に被せて、ブチッと思いっきり携帯のボタンを押した。 すぐに御幸からまた着信があったけど、それは綺麗に無視。 後からなんか言われるだろうけど、いい。散々俺のことで向こうで悩むがいい! 「来週の、金曜日。」 立ち上がって、電気をつけて、やっと部屋で一息ついた。 もう夜が明ける時間だ。窓の外で空が段々白んで来ている。今からまた寝ても多分完全に遅刻コースだから、折角気分もいいし、今日はこのまま仕事にいってやるかな。 一番乗りとかしたら、雪が降るだとか雷が落ちるだとかいわれそうだけど(この反応が簡単に想像できる辺りやっぱり酷いよな!?)、たまにはそれも面白いかもしれない。 部屋の中を歩いて、棚の上においてあったシンプルなカレンダーに、近くにあったペンで赤丸をした。 曜日は金曜日。 そのまま、やっと鳴らなくなった携帯を開いて、新規メールの作成。 一通は、クリスさん。 今日のスケジュールの了解と、…金曜日のスケジュールの確認。 二通目は、御幸。 俺は時差計算くらい出来る男だから今度は俺から電話してやる、それだけ書いて。 一週間後、空港で急いで大荷物片手に走るサングラスをかけた男の腕を後ろから引っ張って、「おかえり」って珍しく俺の方がストーカーまがいなことをやってのけたら、御幸の顔が見たこともないくらい驚いてたから、たまにはこんなのも悪くないな。と思ったりしなくもなかった。 …でも次の瞬間人目も憚らずに空港のど真ん中で抱きついて来ようとしたから、そんな御幸に俺はやっぱり叫び声を上げる。 結局俺らっていっつもこんなもの。…まぁ、それでも一緒にいられるからいいかと思えるほど、ストーカーに感化されてる自分が居て、悲しいやら。 ……幸せなのやら、だ。 *** 2500hit、しいろ様に捧げます…!大変遅くなって申し訳ありませんでしたー…! CP御沢で、シチュが芸能パロということでしたので、芸能パロな御沢で勝手に妄想かましてしまいました…! たまにはプチ遠距離な御沢。 元々御幸は沢村に会う前は海外拠点で仕事してたんだけど、それを日本のいろんな会社と契約して国内に拠点を移したのは沢村と一緒にいるためだったりする…というとっても生かされていない設定があったりします。←ダメだこの人 段々と御幸に感化されてデレ具合が多くなっていく沢村さんがとっても不憫になりました(どーん) そして御幸は追いかけるのはいいけど、追いかけられるとちょっとビックリするという。…え、ヘタレ、ヘタレじゃないよ…!(笑) そんな感じで、ちょっとずつ似てる来る二人とかまた書けたらいいなと思います。 芸能パロを好きだといって頂けて、更にはリクエストまでして頂けて、本当に嬉しかったです…! 少しでもしいろ様に楽しんで頂ければ光栄です…が、「もっとここをこうこうこう!」というような希望等御座いましたら24時間体制で受け付けますので…! 本当駄文ですみません、愛だけはあります(真剣←) それではこの度はリクエストの方ありがとうございました! 楽しんで書かせて頂きました…!また芸能パロで書きたいものがポンポン出てきてヒャーっとなってます(笑) また、宜しければ遊びに来て頂けると嬉しいです。 この度はありがとうございました! [←] |