love or ...love! | ナノ

love or ...love!


*冬/12月初旬くらい



歌が、好きだ。


最近有難くもよく出して貰えるようになったバラエティーとか、他のいろんなテレビ番組とか。
本屋に並んでると未だ照れるけど…雑誌とかの写真の仕事とか、他にもいろんな撮影の仕事とか。
どれも勿論すげー好きだけど、やっぱり歌うのが好きだ。






俺はライブが一番、好き。











「…っ、は…!」
「す、すごいね…!今日のお客さん…!」


様々な色が折り重なるような色とりどりの声援が充満する空間から壁一枚隔てた場所。幕の間から先ほどまで浴びていた熱のような光が漏れていて、その熱が地面から空間から、吸い込んだ空気から体の中に侵食して、肌を食い破って出てきそうだと思った。

ライブの時の、この血が沸騰するような感覚がたまらなく好きだ。


今日は、長かった初の全国ライブの千秋楽。会場は東京。
今までのどこよりも大きな会場で、チケットは即日完売だったと聞いていた通り会場は溢れんばかりの人だった。
沢山人がいるのに、一人一人の顔が凄くはっきり分かる。そんな不思議な感覚に、俺自身も元より昂ぶっていたテンションがどんどん上がって行くのを感じて、最後の曲を終えた今はもうその熱気も最高潮。
顔を真っ赤にして息を切らしている春っちも、無表情からもありありと見て取れるくらい珍しく興奮してるような降谷も、いつも通り顔いっぱいにニヤリと笑みを浮かべている倉持さんも、俺と同じ気持ちだってすげぇ伝わってくる。

(終わりたくねぇ…!終わりたくねーよ…!)

もっともっともっともっと。

終わりに近づくに連れて、逸る気持ちが抑えられなくなっていく。
会場を媒介に意識とか感情とか全部がシンクロして一つに溶けていくみたいだ。このまま泡になって弾けていきそうだと思った。


「オラ、沢村ァ!ボーっとしてんじゃねぇよ!」
「…まさか、もう燃え尽きただなんて言わないよね?」


額や頬に汗を光らせて、倉持さんや降谷が言う。
はっ、はっ、と何度も息を短く吐きながらその言葉をゆっくり受け止めて二人を見たら、その目が同時に俺を映して、更に不快笑みを浮かべた。(まぁ降谷は相変わらず分かりにくい顔だったけどな!)


「言うわけねーっすよ!」


気分が最高潮に上がりまくってる俺は、そんな二人に挑戦的に声を荒げる。
それを見ていた春っちが俺の肩をポンっと叩いて、俺、倉持さん、降谷とぐるりと見回して、前髪に隠れた顔を穏やかに緩めた。


「じゃあラストアンコール、行こっか。」
「おう!弾けてやるぜ!」


再度全員の視線が華やかなステージの上に注がれる。
再びあの場所へ。大勢の人が力をくれるあのステージへ。
光の中に。好きな歌を大切な人たちのために歌いに行く。全員の心は一つだ。最後まで、力尽きるまで、自分たちの精一杯を。


そんな勢いが漲る俺達のところにマネージャーのクリスさんが、全員分のドリンクボトルを抱えてやってきた。いつもはあまり変わらないクリスさんの表情も、心なしかいつもよりもすげー楽しそうに…っつーか、嬉しそうに見えるのもきっと見間違いなんかじゃない。


「クリスさん!」
「…元気そうだな。沢村。」
「っす!」
「その調子まで、最後までお前らしく突っ走って来い。」
「はい!」


ビシッと両腕を締めてクリスさんに礼をすると、ふっと笑う気配が頭の上から落ちてきて、首を傾げながら顔を上げた。
目の前に差し出されていたドリンクボトルを反射的に受け取ってお礼を言うと、意味深な笑みを顔に浮かべたクリスさんが後ろを目で示す。
なんだろう?と思う暇なくクリスさんは、倉持さんたちに同じようにボトルを受け渡しに行ってしまって、俺は仕方なく自分で確かめようと視線の先のほうに歩いていく。
そんなに時間があるわけではないから遠くまで行く余裕はねーんだけど…。

きょろきょろと機材の周りを見渡す。先ほどまで忙しなかったスタッフの動きも、既にラストに向けて動きだしているからか、そこまで慌しくは無さそう。


なんだろ、と思うけど、何も見当たらない。
そろそろ戻らねぇと怒られるかな…と思って仕方なくクリスさんに直接聞けばいいし、俺は来た方向に体を反転させた。



「沢村くん。」



その途端聞こえてきた声に、コンマの速さで思いっきりぐりっと更に体を半回転。結果180度回転して戻った先に、今は居るはずもない人間の姿を見つけて俺はピシリと固まった。


「…は…!?」


嘘臭い笑顔を貼り付けてヒラヒラと手を振る人物。一瞬人形かと見間違えそうなほどムカツクくらいクソ長い足を綺麗に揃えて立っていたヤツに俺は一瞬声が出なくなった。


「御幸…!?」


名前を呼べば、ハーイ、なんて調子のいい声が返ってくる。

(な、なななななんでコイツがここに居るんだよ!?!?!)

パニックになる俺を他所に、御幸は悠々としながら辺りを見回して、すげぇ熱気、なんて簡単に呟きやがった。なんだ、なんで普通に溶け込んでんだよ。馴染んでんだよ…!?(変装のつもりか、眼鏡がいつもと違うし、帽子が野球帽じゃなくて黒のハットだ。…でも顔が整いすぎてて逆に目立つし、普通に見れば御幸だって分かると思う。全然意味がない。)

なんだ、何で誰も何も言わない…つーか、騒がねぇんだよ!?わかんねぇの?これで!?
というか、クリス先輩の視線の原因はこれか。これなのか!?


「なな、なななんで!!!」
「おー。どもってんな。」
「な、ぜ、に!なんであんたが、ここに…っ!?」
「まだアンコール1曲あんだろ?ちゃんと水分取れよ。」
「わーってる!…つーか!質問に答えろよ!なんだ!なんでいんだよ!?」
「何、好きなアーティストのライブに来ちゃダメなわけ?」
「は?…はぁ!?」


ニコニコと楽しそうな御幸はいっつも意味わかんねぇけど、今日は更に意味がわかんねー…!
もう時間もねぇってのに、さっきまでとは違うドキドキで心臓が煩い。
それはさっきまでの心地いい心音とは違って…でも別に、嫌なやつでもねぇんだけど。
御幸を前にしてるから?…違う違う。突然御幸が現れやがったからに決まってる!絶対そうだ。
なぜか勝手に嬉しそうな御幸を睨み付けるのに、御幸の表情は全然変わんねぇ。


「…わざわざチケット取って来たのかよ…。」
「ん。珍しく頑張ったぜー。お前らのチケットすぐ売り切れるって聞いてたからさ。」
「い、言ってくれた、ら…、…やったの、に…。」


っていうかこの人クラスなら、頼めば誰かが手配してくれそうなもんだけど。
つーか普通に一般席に居たのかよ…?どこで見てたのか知らねぇけど、気づかれたら大騒ぎだと思うんですが。この人自分が有名人だって自覚あるのかよ!


「一回お前が仕事してるとこちゃんと自分で見たかったから。」


さっきまでの嘘くさい笑顔とは違う、最近よく見るようになった御幸が本気で笑う顔でそんなことを言われたら、本気で心臓が止まるかと…つーかもう出るかと思った。マジで。

…イケメンっつーのはいろんな意味で存在自体犯罪だな。



「…じゃ、あ!最後まで大人しく席で見とけよ!ここは関係者以外立ち入り禁止たバカ!」
「そう、俺もそのつもりだったんだけど。」
「んあ?」
「内緒で見て、後でバラしていつも通りお前で遊ぶ気満々だったんだけどさぁ…。」
「はぁ!?遊ぶな!!」
「まぁまぁ。…でもさ、実際初めてステージの上のお前見てさ…。」
「むう…?」
「…なんかすっげぇ、会いたくなってアンコール前に下がるの見越して来ちゃった。」


そしたらクリス先輩に会って連れてきて貰ったんだと。
あんた倉持さんだけじゃなくてクリス先輩とも知り合いなのか。どんだけ顔広いんだよオイ、とか、来ちゃったじゃねぇよこっちは忙しいんだよ!…とか、なんか色々思うところはあったけど。


御幸があんまりにも、俺を熱っぽい目で見るから。
さっきまでの何千人もの熱気よりも、ずっとずっと熱い瞳で俺のこと見やがるから。



「…会いに来ちゃったじゃねぇよ、このストーカー男!」



直視できなくて逸らそうとした顔。けれどその前に腕を引っ張られて驚いた。
どんっ、と音がしたかと思うと全身に感じる圧迫感。
…御幸の腕の中にいるんだと気づいた瞬間、かああっとついに貯まりすぎた熱が暴走するのを感じた。


「み、ゆき!」
「…ラスト、頑張れ。またお前のことだけ見てるよ。」
「……っ、見るだけじゃなくて、ちゃんと聴け!」
「おう。」
「そんで、俺だけじゃなくて、俺達!」
「でも俺はお前だけのストーカーだし。」
「…やっと認めたか。コノヤロウ。」


ストーカーの腕の中に素直に抱かれて(いや、一応仮にも、付き合ってる?らしいけど、も!)…そこまで嫌な気分じゃない俺って結構終わってるなと思うけど。



「頑張れ、栄純。」



……やっぱり俺はみんなの言うとおり単純バカなのかもしれねーわ。



ポンポンと御幸が背中を叩いてくれるところから体の中がじんわり熱くなって、今ならなんでも出来そうな気がした。
なんだろう、テンション上がりまくってるからか、いつもの俺とちょっと違うのは分かる。
分かる、分かるけど、なんかそんなの今はどうでもいい。
こんなの御幸の思う壺?…いや、もうそんなのだいぶ前から、そうだ。


御幸に振り回されて、こんなやつムカツクし、ムカツクし、大嫌いだって思うけど。


(…、…俺、いつのまにこんなにこの人のこと、…す、き、になってたんだろ…。)


…やっぱバカだな、俺。







「栄純。」
「ん!」
「はしゃぎすぎてこけんなよ。」
「舐めんな!俺は一応プロなんだっつーの!」
「はっは!そうだな。」


誰かに見られては気まずいと、どちらかともなく体を離せば、そろそろ戻る、と御幸に言った。
御幸も分かってんのか、一回頷いただけで、引き止めることはしなかった。


「…えーじゅん!」


振り返らずにみんなの方に行こうとしたら、御幸の声がちょっとしてから追ってきた。反射的に振り返る。


「愛してるぜ!」


…っざけんな、この男はいつもいつも!!
周りに人がいるんだよ、ここどこだと思ってんだよ、ふざけんなお前ちょっとは空気読みやがれ!!


いつもみたいに叫ぶ言葉。
すっ、と息を吸って、べっと舌を出せばそのまま言い放ってやった。


「お、れもだ!バーーーカ!」




もう振り返らない。

眩しい光が待つ方に俺は一直線にかけていった。











…まぁ結局ライブ後、御幸が今までより更に倍くらいウザい絡み方をするようになったから、結局は俺がいつも通り大声で叫ぶことになったのは言うまでもない。







[]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -