into his hands. | ナノ

into his hands.


*春/6月くらい



あまりにも整いすぎた顔って、逆に言葉にし辛いって誰かに聞いたことがある。
仕事柄、それなりに周りにいるヤツラとか、やっぱり芸能人だなって思うような顔してる人が多いけど、そいつはそれはもう別格だった。
なんていうか…なぁ?漫画のキャラクターかよってつっこみたくなる。
実物を見るより、写真で見た方がなんだかしっくりきて安心するって、相当だと思う。
(それでもアイツは、スチールよりショー人気の方が断然高いらしいけど。)

そんな男。
1本ドラマを見る間のCMで、必ず1度は顔を見るといっても言い過ぎじゃないような、そんな男、御幸一也にうっかり出会ってしまってから、かれこれ数ヶ月が経とうとしていた。

…そしてまた、そんな今をときめく人気モデルのその男にナチュラルにストーカーされ始めてから、同じくらいの時間が流れようとしていた。


「さーわーむーらーくーん。」


…う、げ…!
また、居た。

仕事で疲れた体を引きずって、自宅に帰りつくことそろそろ日付けが変わるようなそんな遅い時間。
今日は収録が一本押して予定より遅くなったっていうのに、なんでこの男は!


「なんでまた家の前にいるんだよ!!」
「え?なんでって…会いたかったから?」
「どんだけ暇なんだよ!」
「暇じゃねーよ。ちょっと前までこの近くで撮影デシター。」
「じゃあ帰れよ。そのまま帰れよ。とっとと帰ってくれませんかね。ええ?」


沢村くん冷たーい、なんてふざけた声で呟かれれば、カチンと俺の中で何かが切れた。


…御幸と不覚にも初めて会った時、「覚えといて。」と言われた。
後から聞けば、この人相当な有名人だったみたいで(俺は元々田舎から出て来たし、あんまり芸能界なんて詳しくないから仕方無い)絶叫したもんだけど、その後のこの人の行動の数々で「迷惑かけて悪かったな。」なんて思う気持ちはどっかに消えていった。


「俺は疲れてんだよ!寝るの!寝たいの!」
「なんだよ、会ってすぐ寝たいなんて、沢村くんって案外大胆?」
「…口か。口塞いで欲しいのか…?」
「唇でだったら喜んでお受け致しますけど。」
「ふざけんなこの変態!」


御幸はこんな調子で、いつもいつもいつもいつも俺のことからかってきやがる!
あれ以来不思議と仕事でもたまに会うようになったり、テレビ局やスタジオが重なると楽屋にまでひょっこり現れたり。
挙句の果てに、なぜかほとんど毎日のように仕事終わりに家の前に座り込んで、帰ってきた俺になぜかヒラヒラと手を振って出迎えてくる始末。

(人気モデルじゃねぇのかよ!何こんなところで暇人かましてんだよ!)

その前に、セキュリティはどうした。
お前一応そんなでもアイドルなんだからと皆から言われて(やっぱり散々な言われよう。なんで俺ってこんなに地位低いの?)、上京して一番初めに住んでいたアパートから、今のこのマンションに引っ越した。
エントランスには鍵がついているし、監視カメラも完備されてる。
人にくっついて入ろうとすれば警告ブザーが鳴るはず…、どうやって入ったんだと最初に問えば、それは企業秘密とかなんとか言って教えてくれなかったから、未だに謎だったりする。


「御幸、そこ退いて。」


ドアの前を陣取って(いいのかこんなところでこんなことしてて。誰かに見つかったら実は凄い大変なんじゃないのか。)俺の進行を妨げるでかい図体を見下ろしながら言う。


「部屋入れてくれんの?」
「そのまま立ち上がってどうぞエレベーターにお進みくだせーませ。」
「えー。ケチー。」


立ち上がった御幸を見上げる。
そこまで身長が高いってわけでもないのに、均整な体はやっぱりさすがモデル。
ああこうして黙ってたら文句の付け所がないのにな、と思う。
茶味がかった神は綺麗に整えられていて、白すぎず健康的な肌や、その肌の下に隠されている筋肉は服の上からでもしなやかで、服から伸びる手はいっそ作り物みたいで。切れ長の目も、それを覆う黒のフレームも、目の前の男を構成する全てのもの。こういうものを、完璧だと人は言うんだろう。


「あーあ。今日こそ沢村くんと愛を確かめ合いつつ眠れると思ったんだけどなァ。」


…まぁ、喋らなければ、だけど。
この人のファンの女の子達にこういう面を見せてやりてー…。


「ま、今日も諦めて帰りますか。」
「つーか、明日は最初から来るなよ!」
「それは無理。俺の癒しの時間だもーん。」
「そんな暇があるなら帰って寝やがれ。そしてキリキリ働け!」


本当に意味が分からない御幸の行動。
いつもこうして欠かさず部屋の前で待っているくせに、俺が帰れといえばすぐに素直に帰りやがる。
本当に、何がしたいんだ、コイツ。
今日もいつもと変わらず俺の言葉通り腰を上げて、パンパンと軽く音を立てて服を払った後、あ、と小さく呟きが聞こえて、反射的に御幸のほうを見た。


「…何だよ。」
「はっは、んな警戒すんなって。」
「し・て・ね・え・よ!」
「お前って、変なとこで意地張って一人だけ損するタイプだろ。絶対。」
「知るか!もうなんだよアンタ…!用も無いのに来んなってば!」
「だから、用なら立派なのがあんじゃねーの。」
「はぁ?いっつも来てすぐ帰るだけじゃん!」


叫ぶ俺を、呆れたように見返しえて気ながら、やれやれこれだからお子ちゃまは、なんて言われて意味が分からないけどバカにされたのはまざまざと分かったと分かったから、文句の一つでも言ってやろうと身構えた。


「ちょっとでも沢村くんに、会いてぇから来てんだけど。…報われねーよなぁ。俺の想い。」


ボスっと音がして、何かと思ったら頭の上に置かれたのは小さなコンビニの袋だった。


「…何コレ。」
「ん?土産。」
「くれんの?」
「まぁ、土産だからな。プリンだから、落とすなよ。」


だからなんで俺の好物を知ってるんだとか、なんで土産なんて持ってくるんだとか、さっきの言葉は一体どういう意味なんだとか。
聞きたいことは沢山あるけど、多分聞いたって結局目の前の意味わかんねーやつは、どれも綺麗にかわしては、何一つ答えてはくれないんだろうな、と思った。


「え、っと…、…まぁ、サンキュ…。」


だから、よくわかんねーけど、頭の上に乗っかった重みに手を伸ばして落とさないようにぎゅっと握って、それだけはかろうじて呟いて御幸を見上げたら、なんだかちょっとあんまり見たことない驚いたみたいな顔をしてて、ん?と思った。


「…沢村くん。」
「なん、…?」


何だ、と見上げた先の御幸の顔がいつの間にか凄く近くて、目を見開くより先に、くしゃりと前髪を撫で上げられた。


「良い事教えといてやるわ。」


撫でられた前髪に軽く唇を寄せた後に、チュッて音がして、おでこに変な感触。


「は、え?」
「…拒絶するなら本気でやんねぇと、いつか痛い目見るぜ。」


一瞬意味が分からなくて、変な声が出た。
にっこりと超近い距離で笑う御幸の顔はやっぱり黙ってれば男の俺でも惚れ惚れするくらい綺麗で、こんな近くで見ても文句一つつけどころがないってすげぇよな、ってなんか逆に冷静に思いながら、俺はその場に固まった。

熱い。
まるで一瞬で沸騰して熱でも出たみたいに、唇が触れたおでこからじわじわ熱いのが広がっていって、気づいたら全身湯気が出そうなくらい熱くなっていく。


「気をつけろよ?沢村クン。」


にやりと嫌な笑みを浮かべて、ひらひらといつも通り後ろ姿で手を振りながらエレベーターに吸い込まれていく御幸を呆然と見送りながら。



「…っ、ふっざけんな何しやがんだバカヤローーーー!!!!」



我に返った俺の叫び声が閑静なマンションの廊下に響いて周りから苦情を受ける時には、既にもう御幸の姿はどこにもなくて。

心臓が壊れるんじゃないかってくらいバクバクするのが気持ち悪くて、折角のプリンが無残にも床に落ちたのにすら気づかなかった。





…次の日この話を人にこっそり話したら、週刊誌のカメラマンが近くにいなくてよかったね、とにっこり笑われて俺はまた青くなって絶叫するんだけど、よく考えればあの御幸がそんなところで間抜けなことするわけないから、とりあえず次に会ったら一発殴って今度こそいろいろと問い詰めてやると心に誓った。






***
和様に捧げます、キリリク頂いたモデル御幸×アイドル沢村の続編になります…!
折角リクエストして頂いたのに、なんだかもう御幸が唯のストーカーですみません…!
家の前で座って待ってるとか…うん、もうダメだろコイツアウトだろ、と思いました(どーん)
どこまで確信犯なのか…(笑)
そして今時デコチューって!と思いながらも、とっても清い御沢になりました…(・∀・)
本当すみません…!
こんなもので宜しければ受け取っていただければ光栄です。

この度はキリ番のリクエストの方どうもありがとうございました!
初のキリリクでしたので、ドキドキしながらも嬉しさに舞い踊りつつ楽しく書かせて頂きました^^
また宜しければ遊びに来て頂けると嬉しいです。
リクエスト、ありがとうございました!




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