例えばこの瞬間、世界で、どれだけの恋人が愛を囁いて、手を繋いで、唇を重ねてるんだろう。 きっと、数にしたら途方に暮れる。 そんな、星の数ほどある、愛の形。 街の中に一人立って、雑踏に塗れて、すれ違う人の数だけ幸せがある。 それに時間が乗算されれば、それはもっともっと、無限に膨れ上がっていくのだ。 そんな、星の数ほどある、愛の形。 もしかしたら、星なんてものよりもっともっとずっと沢山存在するのかもしれない、愛の形。 それなのに、今この瞬間、俺が愛おしいと思うのも、俺が抱きしめたいと思うのも、俺がキスをしたいと思うのも、お前だけ。 それってなんて奇跡なんだろうと、改めて思ったりもする。 「…御幸。」 腕の中でモゾモゾ動く体を少しだけ離してやれば、ぷはっと息を吐きだした沢村が、ブルブル犬みてぇに大きく首を振った。 「どうした?」 「…苦しい。」 「はっは、圧力だ、圧力。」 「何のだよ…。」 「愛の?」 「…うざい。」 「可愛くねぇなぁ。」 「…さみぃ…。」 「え?なんだって?温めてやろうか?」 「…そういう意味じゃねーし!」 ふざけた会話をこんな風に二人で交わすのも、沢村の怒った顔をこんな至近距離で見るのも、今この瞬間俺だけなんだぜ。 やっぱそれって、なぁ、どんな奇跡。すげぇだろ。 すれ違う他人の人生は、物語のBGM。 だけど沢村、お前だけは俺の物語の登場人物になる。 すれ違う交差点でだって、見逃さない。 雑踏なんかに、攫わせない。 つまりそれって、俺とお前の世界が重なってるってことだろ。やっぱそれって、すげェよ。 「沢村、沢村。」 「んだよ、もー…暑苦しい…。」 「さっき寒いって言ってたじゃん。」 「さっきはさっき。今は今。」 「…まぁいいけどさぁ…。」 「で、何。」 「ん?」 「なんか言おうとしてただろ。」 「…ああ。」 「忘れたのかよ。」 「お前の顔見てたら幸せ過ぎて。」 「語尾にハートつけんな!なんかむかつく!」 「はっはっは!」 「もーー寝る!!」 「…いやさ、俺ってもしかしたら、すげぇお前のこと好きなのかも。」 って思って。 そう言った途端、元々不機嫌そうな顔が更に思いっきり嫌そうに中心に寄せられるのを見ながら、ケラケラと笑う。 「………なにそれ、すっげーー今更。」 知ってるし。 うざいし。 めんどくせーし。 …俺も、だし。 …だよなぁ。 なんて言いながら。 とりあえず神様とやらに感謝しつつ、俺は俺の、愛の形を確かめるように強く抱きしめた。 [TOP] |