* 双子御沢 小学生 かずや、かずや、って。 まるで内緒話でもするかのように、栄純が声をかけてきたのは、夕食が終って部屋に戻って、二人で今日は何のゲームするか、と話してる最中だった。 格ゲー?と、持っているソフトをひっかきまわしていると、なんだかもじもじとしている栄純に気付く。 ん?と思って子をかけようとおもったら、突然名前を呼ばれた。 内緒話がしたいみてぇだけど、生憎、栄純の声はすげーでかい。 「なんだよ?」 「あの、あのさ!!」 「…だから、なに。」 そわそわ。 もじもじ。 いつも以上に落ち着きのない栄純が、狭い部屋の中で視線を揺らす。 そして突然、バタバタ走り出したと思ったら、自分の鞄を引っ掴んで戻ってきて(この辺は妙にイヌみてーだなぁとなんか思った。)その中をまたごそごそと忙しなく漁る。 …なにしてんだ、こいつ。 「じゃーーん!」 「…なにこれ?」 鞄の中から取り出したそれは、ピンク色の包装紙に包まれた、小さな手のひらサイズの箱だった。 「これ?これはな!聞いて驚くなよ!?…いや、やっぱ驚けよ!?」 「どっちだよ。」 「ふっふっふ!これはな!“ホワイトデーのお返し”なんだぜ!!」 「はあ?」 「俺は、モテる男だから、バレンタインに貰った分“お返し”しなきゃなんねーの!」 さっきまでしおらしかった姿はどこへやら。 急に得意げになった栄純が、見せびらかすようにその箱を振る。(いいのか振って。) ガサガサ。ガサガサ。 中身が揺れて、妙に耳障りな音が鳴った。 「栄純、バレンタイン貰ってたんだ。」 「そーなんだよ!一也と一緒、じゃなくて、俺にだけ、って!で、母さんに言って、この前デパートで買ってもらった!」 「…それ、渡すの?」 「あたりまえだろ?お返しだし。」 「栄純さ、バレンタインのお返しの意味、わかってる?」 「…?お返しは、お返しだろ?」 「…。」 (おもしろくねー…。) きょとんと首を傾げる栄は可愛かったけど、なんかムカついた。 なんでかわかんねーけど、むかつく。 なんかすっげーいらいらする。 多分、栄純がアホだからだ。 「…バレンタインのお返しは、さ。」 「お?」 「自分で買ったモン以外は、シツレーにあたるんだぜ。この前、テレビでゆってた。」 「…おれ、自分で買ったけど…。」 「でも、お金出したのは母さんだろ。」 「だ、だって…。」 「自分で稼いで、お返ししねーと、意味ねーんだよ。知らねーの?」 「し…しらねーわけ、ねーだろ!!」 「でもそれ、あげるんだろ?」 ふん、と鼻を鳴らして指させば、ぐぬぬ…と言葉に詰まった栄純が、唇をぶすっと尖らせて俯いた。 「…ちげーし。」 「ん?」 「これは!!俺が自分で食うために買ったんだから、な!誰かにやるためじゃなくて、自分で!!」 後ろ手に箱を隠した栄純が、大声で叫ぶ。 金魚みたいに、顔を、頬っぺたを真っ赤にして。 「ふうん。」 そっか、と言ったら、そうだよ、誤解すんなよな!と間髪いれずに返ってきた。 ……たんじゅん、ばか。 次の日、お返しをしなかったってその女の子に怒られて、母さんにも怒られて、めそめそしてた栄純に、そっと俺の分のおやつを仕方ねぇから半分わけてやったら、単純な栄純は、すぐに嬉しそうに笑って菓子食ってた。 …俺からのホワイトデーのプレゼント。 なんて、な。 [TOP] |