*双子御沢 呼ばれる時は必ず、「一也ちゃん、栄純ちゃん」と二人セット。 着せられる服は色違い、ロゴ違い。 そんな風だから、二人揃って出かければ、「可愛い双子ちゃんね。」の一言を言われなかったことはない。 けれど。 年を重ねるにつれて、二人の間に落ちる隙間は段々と開いて、気付けば最後に「よく似てる」と言われたのは一体いつだったのか、高校生になった今ではもう思い出せなくなっていた。 それは外見だけじゃなく、無論、 「30点。」 「う、わ!?」 「何これ。ギャグ?」 「何すんだよっ!返せ!!」 「えー。どーしよっかな。」 人が折角物思いにふけってる最中、その思考を綺麗にぶった切るような軽い言葉と共に伸びてきた腕に、手にしていた髪を奪われる。 その髪に赤で描かれてる文字を、一瞬動いた視線が瞬時に読み取って、次の瞬間には鼻で笑う声が響いた。 俺の。 俺の不名誉な数学のテストをピラピラ振って、意地悪な顔を浮かべる“双子の兄”。 いつの間に部屋に入ってきたのだろうか。全く気付かなかった。 「んだよ!!返せよ!!」 「これ、この前の中間の数Aだろ?何これ。確か学年平均60点くらいだったよなぁ?赤点じゃん。」 「失礼な!!平均は58点!ギリギリ及第点だ、ばーか!」 「はっ。バカはどっちよ。あ、ちなみに俺は90点ね。」 「きーいーてねー!!」 ヒラリと一也の離した髪が、宙に舞う。 回答の黒より赤文字の方が目立つそれを、思わず慌てて引っ掴んだ。 そんな俺の様子を見て、また一也がばかりにたように笑う。 「必死だねェ。」 「うっせぇ!バカ!」 「バカって言うほうがバカなんだぜ?バーカ。」 「お前も言ってんじゃねんかよ!」 「俺は、それでも有り余るくらい天才だからいーの。」 「…自分で言う…?」 呆れる俺と、ふんぞり返る一也。 得意げに俺を見下ろす自信に充ち溢れた表情を浮かべる顔は、気持ち悪いくらい整っていて、平均的な日本人顔驀進中の俺には似ても似つかない、顔。 けれど、俺を小馬鹿にするこいつは。 紛れもなく、俺の双子の兄だ。 それはもう、誠に不本意だが!! 「顔も頭も、俺に似なかったことがお前の最大の不幸だな。」 「じゃあ、性格がお前に似なかったことが俺の最大の幸運だな!!」 「…お前一回、痛い目みたい?」 「やれるもんならな!!」 明らかに不機嫌になる一也の顔を見ながら、べえっと思いっきり舌を出す。 けれど次の瞬間その顔に浮かぶのは、ニヤリとした底意地悪い、笑み。 「…そーいえば栄純この前、新しいゲーム買ったって言ってたよなぁ?」 「え…。」 「どーしよ。俺、ほら最近疲れてるしー?何かの間違いで、データとかふっ飛ばしちまうかも。ほら、まぁ、不可抗力でさー。」 「は、ああああ!?」 ニヤリと笑う一也。 この性格悪!鬼!悪魔!! 本当こいつに似無かったことが俺の最大の幸運だ。間違いない。 顔さえよければいいのか。世間はそれでいいのか! 言葉が紡げなくなってる俺に、一気に優位に立った一也の口笛が、ひゅうっと聴こえて来た。 「バカが言葉で俺に勝とうなんて10年…いや、100年早ェっつーの。」 ふん、とふんぞり返る一也に言い返したいけど、こいつは“やる”と言ったら本当にやる。 そんなこと、俺が一番よく知ってる。 そして過去に何回、泣かされたか。 「…だーからさ、栄純?」 にっこりと笑う悪魔…否、一也の後ろに何か黒いものが見えた。…気がした。 「母さんにバラされたくなかったら、夕飯のハンバーグ、俺にちょーだい?」 ………大魔王!!!! 顔も。 性格も。 …頭の出来も。 残念ながら、どこを切っても似つかない俺らだけど、嗜好だけは似てる。 * * * 「こうして俺は、昨日の夕食を大魔王にまんまと奪われたのだった。」 「へ、へぇ…。」 次の日の朝、偶然通学路ではち合わせた春っちと、学校への道をゆっくり歩きながら、昨日の悪夢のような出来事を熱弁した。 一晩経っても、あの無念さと悔しさは拭いされない。 毎日毎日、積もりに積もる一也への不平不満。 よく爆発しないなと思うほど、それは既に俺の心に降り積もって山のようになっていた。 「俺は決めたね。いつか絶対、あの家から!あいつから!独立してやる!!」 「が、頑張ってね…。」 「…まぁ、かくいう俺も、かねてから何度も独立は考えてたんだ…。」 「(あ、話すんだ。)」 「だがしかし、1度目大喧嘩した時、家でしようと思って、一也のスポーツバック借りにいったら、一也も家出の準備してる最中で、バック取り合ってまた喧嘩してるうちに、夜が明けた。」 「…。」 「2度目の家出の日は、夕飯がオムライスで、どっちがデカイか一也と喧嘩してたらいつの間にか忘れてた。」 「……。」 「3度目は、家出たのはいいけど、途中飲み物階に寄ったコンビニで一也とばったり鉢合わせて、割り勘してケーキ買って、思わず帰っちまった…。」 「…栄純くん。」 「なぁ、俺ってなんでこんな不幸なんだと思う!?」 「…あのさ、今まで、二人ってあんまり似てないなぁって正直俺も思ってたんだけど。」 隣を歩いていた春っちが、ぽつりぽつりと声を漏らす。 「んお?」 「…訂正するね。君たちって、もうものすっごい似た者同士。」 しかも相当、面倒なタイプの。 「…はあ?何言ってんだよ、春っち。」 「顔とか性格とか、全然なのになぁ。」 「…意味わかんね…。」 「しかも結局は仲良しなんだよね。良いことだと思うよ。」 「???」 とりあえず、なんか呆れ顔の春っちがすたすた歩いていくのを小走りで追いかけながら、もう一回意味問いかけてみても、明確な答えは返って来なかった。 …変な春っち。 「ということがあった。」 「ふうん。」 「意味わかんなくね?」 「そーね。」 「あ、でも。」 「うん?」 「似てるってすげぇ久々に言われた気がする。不本意だけど。」 「俺も不本意だけど。」 「……トイレいってくる。」 「あ。俺も行きてぇと思ってたトコだったんだ。」 「はぁ!?マネすんなよ!」 「マネじゃねーし。」 「つーか、ついてくんな!」 「だからついてってるわけじゃねーっつの。」 「もういいや、俺喉「やっぱ先に喉乾いたからなんか飲みに行くかな…。」 「…。」 「…。」 「「だからマネすんなっつーの!!」」 [TOP] |