* 年下御幸×年上沢村 俺の恋人は、1つ年上のとてもとても可愛い人。 甘くて甘くて、雨でも降ったら、溶けて消えてしまうんじゃないかと思うくらい、甘くて可愛い人。 甘いのは、態度も、言葉も、行動も、何もかも。 全てにおいて、甘い甘い、人。 今だって、そう。 「御幸。」 俺の名前を呼ぶ声が、鼓膜を震わせる。 響く甘音は、毒のように触れた所から染み込んで行くようだった。 厄介な、けれどとてつもなく、愛おしい存在。 「なんですか?」 「プリン食いたい。」 「…今からですか。」 時計の針は、既に90度に折れ曲がって重なっている。外に出るには、遅すぎる時間だというのに、腕の中にすっぽり収まる先輩は、至極当たり前のようにサラリと言ってのけた。 問いかけた言葉にも、当然の如く返って来る「うん」。 「…寒いのに。」 「いいだろ。俺も行くし。っつーか、連れてけ。ヒマ。そうじゃなかったら、球受けろ。」 「それは却下、です。」 「ちぇー。」 ぶうぶう唇を尖らせた先輩が、もぞもぞ落ち着きなく動く。 それをぎゅって抱きしめたら、甘えんぼ御幸?、と笑われた。 甘えん坊なんかじゃない。 だって甘いのは、沢村先輩の方。 だってなめたらきっと、舌の上で溶けて、それで、消えてなくなってしまいそうなくらいには、とろとろに甘くて、それで。 「プリン買ってくれたら、ハグしてやるぞ!」 「…変なトコ男前っすよね、沢村さんて。」 「期間限定か、クリーム付きなら、ちゅーしてやるし。」 「俺、なんか貢いでる気分なんですけど。」 きゃらきゃらと楽しそうに笑う沢村さんに小さく苦笑したら、んうー…と唸っていた頭が、ふるりと震えて、急に角度の変わった顔が、俺を真っ直ぐに見上げた。 顔から落っこちてしまいそうな二つの黒が、真丸に見開かれる。 「まっさか!」 ぎゃん、と大声を張り上げられて、キンッと少しだけ耳が痛んだ。 「貢ぐ、なんて、まさか。」 大口を開けた顔が、ふにゃりと緩む。 そのまま、その唇が象った、声。 「将来はこれのもっと何倍も、頑張って貰う予定だしー?」 まだまだこれから! 「……は…?」 「よっし、買い出し行くぞー!おー!」 「ちょ、ま、沢村さん!?」 ぴょんっと腕の中から飛び出した沢村さんが、ニヤリと笑う。 「期待してっから。…天才ルーキー、くん?」 「ずるいっスよ…。」 「たまには俺の方が優位に立ったっていいじゃん。」 「……アンタに勝てた記憶の方が少ないんですけど。」 「へへ!」 「…ほんと、アンタって人は…。」 紡ぐ言葉の、1つ1つの、なんてなんて甘い、甘いこと。 ほらやっぱり俺は、この人の甘いあまい毒から、抜け出せそうにない。 [TOP] |