沢村は、きらきらしてる。 太陽みたいに、自分で光って、月みたいに周りを照らす。 そして星みたいに、周りにきらきらと散らばる。 そう、沢村は、きらきらしてる。 (言動とか、行動とか?) そう、そういうのもだけど。もっと、こう、根本的なところ。 魂が光る、だなんて、そんな言葉、よもや言うようになる日が来るなんて思わなかったけども。 沢村はきっと、全部が綺麗なんだと思う。 真っ直ぐで、 でも、何も“無い”真っ白なんかじゃなくて。 色々な光が集まって、その光源全部が混じって、全部を混ぜた、白になる。 沢村は、きらきらしてる。 「みゆき、」 眠いのか、どこか舌ったらずな声が、俺を呼ぶ。 伸びてきた手が、手首の布を引っ張った。引き寄せられる、腕。 けれどその力は酷く弱い。 寝ぼけてんな、 すぐに分かった。 「なんだよ、沢村。」 「んー…。」 「寝んの?」 「んー…。」 「…起きんの?」 「んー…?」 「どっちだよ。」 はは、と笑えば、へにゃりと連動するみたいに沢村の顔が崩れた。 もごもごと動く口が何かを言いたそうに開く。 普段は生意気ばかり言う口だし、普段からガキっぽいのはガキっぽいんだけど、こういう時はなんかこう…普段よりももっとあどけない感じが、なんかとてつもなくイケナイことをしてる気分になってくる。 …まぁ、今日の俺は清廉潔白、清い状態なんだけども。 「みゆき、」 「はいはい。」 「…の、夢見た。」 「…今の短時間で?」 沢村がまどろみ始めてから、まだものの数分。 寝付きが良い方だとは思うけど、まさかこんな短い時間で夢まで見るとは。 子供、と心の中で思えば、今変なこと考えたろ…と叱られた。 …なんでこう、変なところで勘が鋭いわけ? 「どんな夢?」 「…わすれた…。」 「なんだそれ。」 「でも、夢見た。」 「ふうん。」 「…そんで…。」 「…お前眠そうじゃね?寝れば。」 「うー…。」 完全に半分意識飛んでんだろうなってのは分かるけど、言葉をかければ返事が返って来る。 だから俺も、とりあえず返事を返す。その繰り返し。 多分いつか途切れるだろうと思っていれば、けれど、想像以上にはっきりとした受け答えが返ってきた。 「…おれ、さ、」 「おー?」 「これから、いろんな…もの見て、」 「うん?」 「いっぱいいろんなとこ、行って…、」 「…うん。」 「…いろんなこと、する…。」 「いきなりどうしたんだよ。」 「そしたらきっと…嫌なこともたくさん、あるんだと、思う…。」 沢村が何を言いたいのか分からなかったけれど、とりあえず伸ばした手で、ふわふわとした黒い髪の毛を捕まえる。 指に掬う髪の毛が、撫でる度に掌を擽った。それを何度も繰り返せば、目を瞑っているのか、開けているのか、寝ているのか、起きているのか…そんな状態の沢村が、小さな息を吐く。 「でも隣には、いっつも、アンタがいて、」 「…。」 「…多分それだけで、嫌なこととか全部忘れるくらい、しあわせ、なんだと思う。」 甘い、声が。 きらきら、光を帯びて、暗い室内に広がる。 空気がここだけ、妙に澄んでる気がした。 「いろんな人に、これからきっと、もっと沢山、会うんだ、俺も。…アンタも…。」 「沢村。」 「もしかしたら、世界には、俺よりアンタのことが好きなやつ…アンタより俺のことが好きなやつ、…もっとお互い、幸せになれるやつ、いんのかもしんねぇ、けど…。」 「…バーカ、いるかよ、そんなヤツ。」 「…でも、」 「うん?」 「…誰に会ってもたぶん、おれは、アンタが一番すきだなって、おもうだけだとおもう。」 「…っ、」 思いっきり大変なモン落っことして、それっきり聴こえなくなる声。 少しすると、すうすうと規則正しい寝息が聞こえてきた。 (……やられた……。) 沢村はそう、そうだ。自他とも認める、「ストレート一本勝負」の男。 変化球なんて無い。そんなの、分かってたはず。だけど。 「……返事する時間もくれねぇとか。…やってくれるよなァ、お前。」 安心しきった顔で、無防備に眠るその頬に手を滑らせて、指の腹を擦りつけたら、もごもごと小さく動くものの、起きる気配はない。 さっきまであんなにはっきり喋ってたのに、もう夢の中だとか。 …だから本当、ガキ。 「起きたら絶対コレ、知らねーの一点張りなんだろうな。」 別にいいけど。 同じ布団に潜り込んで、男二人にはちょっとだけ狭いベッドの中、ひっついた部分から感じる体温は、今日も変わらず温かい。 (…仕方ねぇから、連れてってやりますか。) どこへでも。 だれのところへでも。 なにをするためでも。 なんねん、かかっても。 目を閉じても、感じる体温は今日もきらきらしていて、少しだけ眩しい。 目を閉じていても、分かる。その存在に。 「……おやすみ、沢村。」 一日が終わる言葉と一緒に、愛を囁いて目を閉じた。 ----------------- おやすみ。おやすみ。 愛おしいひと。 [TOP] |