* ホスト御幸×学生沢村 「まずは、ロールキャベツから」と同じ設定になります。 一応続きですが、こちらだけでも問題ないと思われます。 煌びやかな包装に纏われた四角形。 …いや、四角形だけじゃない。色々な形がある。妙にデカイものから、小さいものまで。 一体いつからここは、クリスマス前繁盛期のサンタクロースもびっくりなプレゼント製造工場になったのか。 「…なんだ、これ。」 思わず漏れた呟きが落ちる俺の視線の先で、箱に埋もれてニコニコ(だが俺にはニヤニヤに見える)笑っている男は、近くにあった手頃なサイズの赤色の包装紙に包まれた箱を手にとって、それを手渡しながら、“そいつ”に魅入られた女なら誰でも喜びそうな砂糖が含まれたみたいな声で囁いた。 「なにって…プレゼントだけど。」 差し出すその男はもちろん赤と白のお決まりの衣装を身につけて居るわけでもなく、背後にあるのはモミの木でもない。 出勤前の、品の良いスーツに身を包んだ、見慣れた俺の部屋を背中に背負った男、御幸一也。 「プレゼントって…今日なんかあったっけ?クリスマス?誕生日?」 「何言ってんの沢村くん、クリスマスはこの前過ぎたし、今は3月だろ。」 「…じゃあ、なんか特別な日でしたっけ。」 何を言っているんだとばかりに笑う御幸の顔を、じろりと見ながら頭の中を巡らせてみるものの、全くもってどうしてこんな状態になっているのか、理由が全然思いつかない。 こんな、突然のチャイムと同時にやって来たかと思ったら、その後見知らぬ人たちによって(宅配業者の人だったっぽい)、まるで引っ越しかと思わんばかりに運び込まれた荷物で、部屋の中を埋め尽くされるような理由なんて。ひとつも。 誕生日でも無ければ、その他思い当たる節も無い。 さっきまで意味が分からなくて思考停止していた脳内がようやく動き出せば、浮かぶのは疑問は純粋に、「どうして?」。 「別に…?え、なんかあった?今日。」 「いや、それは俺が聞きてぇんだけど。」 「…?沢村くんもしかして疲れてる?」 え。あんたの言ってる意味がわかんなくて現在進行形で疲れそう。 急に心配そうに声かけられて、反射的にそう返しかけた。あぶねぇ。 別に疲れてはねーけど…ともごもご口を動かした後に、じっと御幸を真っ直ぐ見つめた。 「…なんで、突然、なんもねーのにプレゼント、貰えんのかなと思って。」 しかもこんなに沢山。 分からないことは聞くが吉。 直球でそう問いかけたら、一体総額いくらなんだと眩暈がしそうになるくらいの箱の山の中で、戸惑う俺もなんのそのといった様子の御幸が、プレゼントだらけの室内を見渡して、ケロリとした表情で首を傾げた。 「………贈り物するのに、理由なんかいる?」 ぽかん。 「……は?」 「あげたいなって思った時に贈るものじゃねぇの?え?違う?」 「…………。」 意味が分からない、と、先ほどの俺を鏡に映したみたいに目を丸くする御幸を見ながら、俺はふと一つの事実に思い当たった。 ぽかんとする御幸の腕に光る、シンプルな作りだけれどどう考えても高いであろう時計や、見る度に少しずつ違う高そうなスーツ。 ああそうだ。 そうだった。 こいつって、こいつって…。 「……そうか、お前…。」 「ん?」 「……いや、お前って本当にホストだったんだなって改めて痛感しただけでございやす。」 「何言ってんの。当たり前だろ、そんなこと。」 おかしなこと言うなぁ、なんて。 (おかしいのはどっちだ!!) ズカズカとプレゼントの山に漸く勇気を出して踏みこんで行って、そのまま一番近くにあった箱を手に掴むと、それをずいっと御幸に向かって突き出した。 「今すぐ返品して来い!そんでお店の人に謝って来い!!」 「は?へ?なんで?」 「いいからすぐに!!」 (こ、こいつの金銭感覚、どうにかしなきゃだめだ…!) 疑問符を飛ばす御幸を見ながら、強く心の中に刻んだ決意。 …結局「返品って何?」なんてふざけたことを言い出しやがる御幸の言葉にクラッとして、次からは買い物行く時は一緒に行くと約束した。 「なんかデートっぽい。」 なんて嬉しそうに言い出す御幸に、よもやよくよく考えなくても感化され始めてる自分に気付くんだけど、…なんだかもういろいろと、俺もこいつも、手遅れかもしれない。 [TOP] |