体格は違えども、男は男。 沢村だって、それなりに体は鍛えてるわけだから、小柄だとはいえ、別に非力なわけじゃない。寧ろ力は強い方だし、投手だからってもあってか、握力なんてその辺の奴らにはそう簡単には引けを取らない。 逃げ足だって速いし、だから、そう考えれば、浮かぶ疑問は純粋に“どうして”? 組み敷いた先、俺よりひとまわり小さい体が、抵抗と呼ぶには心もとないくらいの力で俺の胸元を押し返した。 「御幸…嫌…。」 小声で呟かれた拒絶の言葉。けれど、その言葉を紡ぐ震える紅い唇を見ていると、そんなもの誘い文句の一つにしか聴こえない。 震える瞼も、紅潮する頬も、熱のこもる体も。 全身で俺を誘ってる。そうにしか見えない。 だから、悪いのは沢村だ。 俺を本気で拒絶しないお前が悪いよ。 お前がそんなだから、俺は調子に乗る。 そして、錯覚する。 まるでお前が俺を望んで受け入れてくれてるんじゃないか、とか。 お前も俺とこうなることを、望んでくれてるんじゃないか、とか。 もしかしたら、お前も俺が好きなんじゃないか、とか。 自惚れる。 錯覚する。 夢を見る。 酷く、自分に甘い、そんな虚しい夢を。 「逃げねェの?沢村。」 手を取って、頬を寄せて、愛おしい宝物を、壊れないように大切に扱うけれど、次の瞬間に浮かんで来るのは、それとは真逆の、全てを無茶苦茶に壊してしまいたくなる、甘い甘い破壊願望。 この手で壊して、泣かせて、啼かせて、俺に縋るその姿が欲しい。 「逃がしてくれねぇ…っ、だろ…!」 涙さえ浮かんでいそうな苦しげな顔から目を逸らす。 その声を震わせているのは、恐怖?嫌悪? (だって本当は、逃げられるくせに……ズルイよ、沢村。) 違うよな。 全身に纏っているのは、紛れもなく、期待と、欲望。 嘘つき。 本当はいつだって、いくらでも、逃げられるくせに。 俺を、拒絶出来るくせに。 体格は確かに違うけど、沢村だって男は男。 細い体は決して非力なわけじゃない。 だから。 (やっぱり、お前が悪いよ。) 一度だけ名前を呼んで、今日もまた、その柔らかい肌に俺は溺れる。 なぁ、どうして。 どうして逃げないの、沢村。 逃げないお前が、悪いよ。 [TOP] |