* 芸能パロ 「愛のかたまり」の続き。 (…でもまぁ、生活習慣っつーのは、なかなか変えられないものなわけですよ。) 窓の外を流れて行く景色。 ガタガタと、眠気を誘う揺れと、その振動につられて揺れる体。 被っていた帽子を深めに被り、とりあえず俯くことは忘れない。 満員電車とは言わねぇけど、少しだけ混んで来る時間帯のこの電車に乗るのはちょっとだけ躊躇われたけど、それでも、まぁ近いし…と思わず、この前御幸とそれで言い争ったことも一瞬頭から飛んで、気付いたらゆらゆらと電車に揺られていた。 たった数駅の、数十分の距離。 大人しくしていれば見つからないし、適度に混んでいるせいで、周囲の人もあまり周りを気にすることもない。 やっぱり大丈夫じゃん、なんて思いながら、仕事で疲れた体を、(運よく席にも座れたので)椅子の背もたれに委ねて、慣性で横に軽く引っ張られる力に身を任せた。 (大体御幸は、心配性過ぎんだよ。…まぁ、俺が悪い時も多々あるけどさ。) 主に御幸と喧嘩することには、俺が関わってて、…というか、大抵それしかない。 女でもねぇんだから、そこまで心配しなくてもって思うくらい、御幸は過保護。 大事にされてると思えばいいし、蔑ろにされるよりはマシだと、贅沢な悩みだと言われるかもしれないけども。 それでもやっぱり、たまに、妙に過保護過ぎるんじゃねぇのって思うこともある。 …まぁ多分、完全に田舎の庶民育ちの俺と、小さいころから芸能界って特別な世界にいる御幸とじゃ、いろんなところで価値観が違うんだろーな。 そういうところから、結構すぐに俺らはズレる。 (……金の使い方も全然違うしな。) だからこそ喧嘩もするし、面倒だと思うことも多い。 …まぁ、それでも続いてるんだから、それはそれでいいのかもしんねぇ。 前にメイクの子が、「彼氏といると窮屈だって感じる時があるんですよぉ。」って話してたことがあったけど、少なくとも俺は御幸のことそう言う風に感じたことはねーしな。 御幸の方が、どう思ってるかは知らねぇけど。 「うわっ、と…。」 そんなことを考えてたら、ぐらっと突然大きく電車が揺れた。 そのせいで社内の人の流れが一気に動いて、思わず圧迫された体に声を漏らせば、前に座っていた乗客と目が合った。 サラリーマンっぽい…若い男の人。その隣には、女子高生っぽい女の子が数人。 「すいませ…。」 その人の体が離れて行く時に、ふ、っと感じた小さな既視感。 なんだろう、と思ったけど、覗き見たその人は全く見たこともねぇ人だった。 …なんだろう? 首を傾げていると、相手の人もぺこりと小さく頭を下げて元の位置に戻る。 一瞬感じた違和感は、そのまますぐに身を潜めて分からなくなった。 なんだ、ぁ? 疑問に思いながらも、けれど一度消えてしまったものはもういくら考えても分からなくて、仕方なく小さく息を吐いて諦めた。 背中に背負う風景が流れて行く。 すると、さっきのサラリーマンの隣にいた女の子達が、何やらこそこそと話す声が急に耳に届く。 そこが少しだけさっきと空気が変わってたのは、一瞬で分かった。 (あ、これやべぇかも。) ひそ、っと小さく漏れ聞こえる声。 もしかして、と聴こえた瞬間に、予感が確信に変わる。 慌てて帽子を深く被って、席を立つ。 女の子達の声が追って来る前に、流れる音楽が駅に着いたことを告げた。 (うし、ラッキー…!) そのまま、さっきぶつかったサラリーマンの影に隠れて、電車から逃げるように飛び降りた。 背後から、ざわざわとざわめきが聴こえたような気がしたけど、そんなのは夕方のホームの喧騒の中にすぐに消えて分からなくなった。 プシュッと扉の閉まる音がして、流れて行く電車。 そしてそれとは直角に、流れて行く人混み。 (あー…助かったー。やっべーやべー…御幸にまたどやされるとこだった!) ほっと息を吐いて、そのまま流れに乗って駅の中に紛れて行く。 「…あれ…。」 するとまた、どこからか感じた、さっきと同じ既視感。 見れば、前を歩いていた背中は、さっき目線に飛び込んできたのと同じスーツだった。 (……なんだろ。) 違和感の原因が分からずにもやもやする。 けれど話しかけるわけにもいかねぇし、っつーかそんなのただの変な人だし。 なんだろう、これ。 意味の分からないもやもやに包まれたまま、駅のホームを抜けて改札に出れば、そこの柱の広告に、見知った顔を見かけて、思わず声を上げた。 「あ!」 じろっと周りがそれに合わせてこちらを見る。 や、やべ…! 一瞬で俯いて、そそくさと壁に寄って陰に隠れる。 …今日はいろいろと迂闊だな…俺…。 (ああ、そうか。そうだ。分かった。思いだした。) ちょっとだけ心臓が煩い。 多分これは、色々と危なかったからであって、別にドキドキしてるわけでもなんでもない。 …けど。 「…そっか。香水、…。」 さっき感じた、既視感の正体。違和感の原因。 駅の柱には、御幸が広告をしているブランドの、最新の香水のCMが思いっきり貼られてた。 そういえば最近、あるメンズもののコスメブランドの広告が決まったっていって、その仕事の関係でいつもは香水なんて付けない御幸から、違う香りがしてたことを思い出す。 さっきの人から、それとおんなじ匂いがしたんだ。だから。 (…御幸かと、思って。) そう考えた瞬間に、なんか急に恥ずかしくなった。 …何考えてるんでしょーね!俺は! 熱い。 なんかすっげぇ熱い。ムカツクくらい、熱い。 「御幸のせいだ…。アホ。」 どうしてくれる。電車すら迂闊に乗れなくなっちまったじゃねーか。 ざわざわと、流れて行く人混みに、ぽつりと一人取り残されて、勝手に熱なんかあげてる俺は、多分滑稽で仕方ないんだろうけど。 でも仕方ない。 視線に飛び込んできた暗いスーツの色がよみがえる。 「…あっちぃ、っつーの。」 まだ、春も初旬の日の夕方。 冬物のコートすら羽織りながら呟く季節外れの呟きを聞くのは、動かない柱に映る、よく見知った顔だけ。 …帰ったらとりあえず、いろんな意味でやつあたりしてやる。 そう思ったけど、理由を問われれば電車で帰ってきたのがバレることに気付いて、仕方なく俺の心の中に封して封印することに決めた。 「…御幸さ。」 「ん?」 「その、…まだ、香水とかつけんの?」 「…?なんで?突然?」 「…や、…あんまり、好きくねぇかなって。」 「栄純がそういうなら、そうするけど。」 「あ、そう…。」 「それに、俺が変なもんつけてると、栄純の匂いとか薄れる気がしてちょっと俺もやだったし。」 「…変態。」 ------------------ 眠くて支離滅裂勘が否めなくてすみません!あわあわあわ! いつか書きなおす・うん書きなおす。 [TOP] |