冬は感想の季節なのは言うまでも無いこと。 そういえば、クラスの女子もそんなことで騒いでたっけ。 お肌がどうこう、潤いがどうこう、女の子って大変だなあ、とかぼんやり。 俺は元々男所帯だし、女っ気も周りに少なかったから、ほんとーにそういうのはあんまり気にしたこと無かったけど。 (…これは流石にイテェ…。) 指で擦った先が、カサッと嫌な感触を伝えてくる。 おかしーなあ。昨日の夜までは別にそこまでじゃ無かった気がすんのに。どうしたんだ俺の口。つーか唇。 急激に昨夜からミイラ化が始まった唇はそれはもう凄い早さで見るも無残な姿になって、今では少し口を動かしただけで痛みが走る始末。重症だな俺…。 軽くぱかりと口を開いた瞬間に感じたピリッとした痛みに、反射的に眉をひそめたら、隣に居た御幸が目ざとく、どうした?って声をかけて来る。…お前はどんだけ人のことを見ていらっしゃるんでしょうか。 「別にー…。大したことじゃねぇけど、口がいてぇ。つーか唇がいてぇ。」 「口?…うーわ、ナニソレ、お前唇ガサガサじゃん。エグくね?それ。」 「おう。むちゃくちゃさっきから痛ぇ。」 「見てるこっちも痛ェわ。」 指先で軽く唇を撫でたら、ガサガサと気持ち悪いほどささくれだった皮指の腹に引っ掛かる。 さっきから気休めとばかりに舐めてみるけど、乾いた後に余計に痛くなるから、まったく逆効果でしかない。 生憎、女子みたいにリップとか持ってるわけでもねーし。大抵放っとくんだけど、今回はちょっとばかり強敵。 「あー…いてぇ。」 「舐めると余計酷くなるぜ?」 「知ってるけど…でも何もしねぇのも痛ェんだよ。」 「…何なら、俺が治してやろうか?」 ニヤリ。 御幸の顔が変な風に歪む。 …この顔してる時って、大体変なことしか考えてねぇから…。 「…舐めると余計酷くなるんだぞ。」 「えー?誰もそんなこと言ってねぇじゃん?」 ニヤニヤ。ニヤニヤ。 御幸が性格悪そうな(実際悪いけど)笑みを浮かべながら、ポケットを探る。 そこから取り出されたのは…、 「…リップ?」 「そう。リップ。」 「…なんでお前こんなもん持ってんの。」 「偶然。」 「そんな偶然があるか!…はっ!女か、女だろ!?」 「まさか。本当に偶然だって。」 じっと睨みつけると、両手をひらひらと振って肩をすくめた御幸が、身の潔白を示すかのように振った手を天井に向けた。 何となく疑わしくて暫くそれを見続けてたけど、その顔からは何も読み取れない。 「先輩の好意は、素直に受け取っとくもんだぜ?」 「…アリガトウゴザイマス。」 「ふはっ。素直じゃねーなぁ。」 もぎ取るように攫ったリップを手の中に転がして、じっと見つめる。 良く見る緑色のパッケージの薬用リップ。 何となくどうしていいか分からずにぼうっとしてたら、御幸に笑われた。 「使えばいーのに。新品だし。俺イラねーし。」 「…だからなんでそんなもん持ってんだよ。」 「偶然だってば。」 「…。」 (…なんか、あれだ。…拍子、抜け?) 御幸のことだから、なんか、こう…。…こう、変なことでも言って来ると思ったのに。なんか…。 俺の思考、相当恥ずかしくねーか、…これ。いや、でもほら普段の御幸の行いがだな…うん…。 「何一人百面相してんの?」 「うっせーよ。」 「なんだ…そんなに俺に舐められたかったの?ヤーラシー。」 「はあああ!?!?ば、っ、かじゃねーの…!?ちげーし!」 「心配しなくても、そんな痛そうなの舐めるほど、鬼畜じゃねーよ。」 ふうん、と、意味深な息を御幸が漏らす。…本当ムカツクヤローだな…。 まぁ、いい。 リップには何の罪もないし。 そう思って貰ったリップを有り難くキュポンと音を立てて開けて口に運んだ瞬間、気を抜いたところで思いっきり腕を強く引っ張られた。 「え、」 ちゅ、と小さくリップ音を立てて、カサついた唇に、温かいものが触れる。 「まぁ、キスしねぇとも言ってないけど。」 ぺろりと自分の唇を舐めた御幸が不敵に笑うのを見ながら、触れた唇の皮がザラリと指に引っ掛かる。 (なんだこれ、すげぇ、色々!色々痛ぇ…!!) とりあえず、開けたリップを思いっきり塗りつけたら、……やっぱりピリピリめちゃくちゃ痛くて、叫ぶことも叶わなかった。 [TOP] |