御幸一也って人間は、酷く気まぐれで掴みにくい。 性格、言動、行動。 決して俺の頭が単純だとかそういうわけではなく、ただ御幸がひどく複雑なだけだと思う。絶対にそうだ。 そんな御幸だから、たまにどうしてそんな答えが弾き出されるのか、全く理解不能な時がある。 そして、今も、そう。 (…なんで、俺の上に御幸が居んだろ?) そんで、何で俺の顔の横に御幸の腕があって、俺を見下ろす瞳が妙にギラついてて、唇を舐める舌が妙に真っ赤に塗れてるんだろう。 全く持って、理解不能。意味が分からない。 「あの、御幸先輩?」 「どうした、沢村。」 「どうした、じゃなくて、意味が分からねぇんすけど。」 この状況とか、対処法とか。 とりあえず、押さえつけられた体がちょっと苦しいから、退いてくれるなら退いて欲しい。 俺は関節が締まらないって倉持先輩がよく言うけど、あれは嘘だったのか。 現に今、御幸先輩の下に挟まる俺の体はビクリともしなかった。(関節絞められてるっていうより、背中を押さえつけられてるって言った方が正しいからかも。) 「意味?意味なんてそのままだろ。」 「…プロレスごっことか?」 「中学生じゃあるましいし。」 「倉持先輩は、よくしますよ…。」 「じゃあ、倉持がガキってことだな。」 言ったな。 今度それ言いつけてやる。 そんなことを悠長に考えてる間に、御幸先輩の手が服の中にごそごそと入ってきて、思わず、ひぎゃっ!!って大声を上げたら、くすくす笑われた。 色気ねぇなぁ、そんなこと言われても、知るか!! 「まぁ、俺とはもっと、大人の遊びをしようぜ?」 遊びの誘いにしては、妙に艶のある表情を浮かべた御幸が、どうしていいか分からず全体を停止した俺の体と思考を絡め取るように手を取って、軽くその甲にキスを落とす。 唇の触れたところから、じわりと熱が浮いた。 「大人の遊び…、って…!?」 「なんだよ。言わせんの?」 「や、やっぱ言わなくても、いい…!いいっす…!」 漸く、事の重大性に気付いてきた頭が、体に動けと命令する。けどそれは、御幸の「遅ぇよ、」って一言で全てを掌握された。 「ちょっと!離せ、退けよ、ッバカ!」 「馬鹿だな。捕まった時点で、お前の負けだよ。」 試合中に、マスクの影から覗かせるような、どこか猟奇的とも言えるほど、強い光を宿した瞳に、捕らわれる。 駄目だ。 見たら、負けだ。 けど――…。 「なぁ、沢村。俺とエッチなことしようぜ?」 そんなの、いとも簡単に音を立てて崩れ落ちた。 残ったのは、なぜか小さく跳ねた、自分の心臓の音だけ。 [TOP] |