元々それは、勝率0パーセントの勝負。 だって相手は、青道野球部、扇のカナメ。 「沢村ってサ、絶対悪いヤツにひっかかるタイプだよなァ。」 ぼそり、と急に、横でビデオを見ていたハズの御幸先輩がそんなことを呟いた。 今まで確か、今日の練習試合のビデオやらスコアやらを見て、反省というか、お小言というか…まぁそんなものを聞いてたような気がしてたんだけども。一体いつの間にそんな話に飛躍したのか。 ぱっと視線をあげると、いつのまにか向けられていたらしい御幸先輩の瞳とぶつかった。 「…いきなりなんすか。っつーか、話逸れすぎ。」 「なんか突然そう思って。お前ってさ、絶対、誰でもかんでも信じて痛い目みるタイプだろ?」 「……………なんのことやら。」 「仲間を侮辱するヤツは許さーん!とか言って大暴れしたり、俺の魂を連れていけーって大騒ぎしたり、自分が多少フリでも後先考えずに目先のことだけ一直線でさ。押し売りとか訪問販売とかも、情に訴えられると弱そうだし。」 「……アンタついに、俺の中学時代まで調べたんすか。」 「まさか。想像想像。」 ……なんて(無駄に)豊かな想像力。 やっぱ当たり?なんてニヤニヤする御幸先輩が、憎い。人のこと勝手に分かった風に決めつけやがって…。 が。しかし。 それがあながち外れてなくて、身に覚えがあることがいくつかあるから反論出来ないのがまた、…なんというか。複雑だ。 「そんなんじゃ絶対悪い男に引っかかるぜ?」 「はあ?なんで男!?」 「なんとーく。」 「そこはせめて女だろ…!」 「沢村が年上の女と歩いてたらそれはそれでいろいろ心配するけどな。」 流れてるビデオがいつの間にかBGMになってて、これまた見直しだなー、なんて、他人事みたいに笑う先輩を睨みながら(大体、先に話を逸らしたのはアンタのほうだ!)机の上に頬杖をついた。 (大体、俺がひっかかるのが悪い男だっていうんなら、さぁ。) ぶすっと唇を尖らせて、トントンと指で机を軽く叩きながら小さくため息をつく。 ニヤニヤしている先輩の顔が妙にムカツクから、視線を逸らして、けれどテレビとも違う方向へと目線を向けた。 「…アンタ、自分が悪い男だーって言ってるのと同じことじゃねぇか。」 「え?」 「…え?」 しまった。 声に、出て…た。 慌てて口を押さえたけど、御幸先輩にはしっかり聞こえてしまっていたらしく、変な沈黙が流れる。 しまった、しまった、本当に、本当にマジですげぇ俺の一世一代の不覚!! 「いいいいい今のは、べつに!べつに!!」 「沢村、」 「おいしょーーー!!ははははは!なんのことでしょう!!」 「さわむ、」 「ははは何いってるんでしょうね俺!勉強のし過ぎで頭おかしくなったんすかね!!俺の優秀な頭脳がおかしくなっただなんて全世界が泣いて悲しむってもんです!ええ!」 (お願いだから、頼むから、つっこむな、聞き流せ、気付くな、口に出すな!) ぐるぐるぐるぐる。 回る頭と、それ以上に早く動く口。 そんなことを考えながら慌てて落ち着きなく体を振った。…けど、しかし、だけど。 相手は誰よりも頭の回る、青道の正捕手、御幸一也。 「さぁ!張り切ってミーティング再開しやしょう!!」 ビシッと大声でそんなことを叫んでみるけれど、…そんな誤魔化しが、通じるハズもない、…わけだ。 「いいけど、まずは座って落ち着いて、…くわしく話してもらおうか?」 …それははじめから、勝率0パーセントのゲーム。 [TOP] |