*瞳孔君+沢村 俺の中に、俺の知らない奴がいる。 「…。」 「…。」 「……あのさ。」 「……。」 「あの、」 「……。」 「だーー!!黙ってないで何とか言え!!」 「…うるさい、です。」 さっき、とても良い気持ちで睡眠へと突入したばかりだったはずなのに。俺の意識はすぐに『何か』に引き戻されて、目を開けたらそこは、現実でも夢でもない、よく分からない場所だった。 いやいっそ、夢だったらどんなによかったか。 「じゃあ喋れ!なんだお前は!ほんとに!」 「…うるさいのは、嫌い。」 「男ならハキハキしっかりシャンとして喋れ!」 「あんまり大きな声でしゃべると、ごしゅじんさまが煩いって怒るから。」 「…ごしゅじんさまって…。」 「ごしゅじんさまですよ。…栄純も、会ってるでしょう?」 都会にはいろんな人がいるから気をつけなさいと再三言われたもんだけど。 まさか自分の中にもいろんな人がいるとは…世間って広いだな。うん。というか、もう一体どうしたら。 『そいつ』はある日突然俺の中に現れて、その日からたまに、気まぐれに顔を出す。誰だと聞いても、知ってるくせに、と返って来る。まるでいたちごっこだ。 俺と同じ声で、同じ顔で(正確には実は顔は見たこと無い。)そう返す『そいつ』。 「…なぁ、いい加減寝かせて…。」 「そりゃ、もちろん。寝てくれたほうが俺には都合がいいですし。」 「は、あ…?」 じゃあまぁ、お言葉に甘えて。 とりあえず瞼を閉じたら、よく分からないけれどまた眠気が段々とやってきた。(俺ってなんか単純だな…。) 困った時は寝るに限る。うん。 そう小さく自分に言い聞かせた瞬間に、頭の中に小さな声が響いた。 「…俺のごしゅじんさまは、ごしゅじんさまだけですけど…。」 ん?と意識をそちらにやるけれど、なぜかもう瞼は開かなかった。 「栄純のことは、…おともだち、にしてあげてもいいですよ。」 どういうことだと反論する声は、段々濁っていく意識の中に、混ざって途切れて、消えた。 [TOP] |