「…どーして…?」 「…いらねぇなら、ひとりで食うけど。」 「…!?いる!いります!!」 「なら初めから素直に言え。バカ。」 差し出された、真っ白の三角。 上に乗るのは、やっぱり三角形。だけどその色は、炎みたいに真っ赤なさんかっけい。 乗ってるものと同じくらい、真っ白な円盤の上にちょこんと乗ってるのは、大きな大きな苺の乗った、ショートケーキ。 きらきら。きらきら。 宝石みたいに、紅い苺が上で光る。 「ほ、わ…あ。」 「なんだよその声。」 「だ、だって!びっくりしたんです、よ!」 「たまには飴立って必要だろ。」 「……うれしい、です…。」 「あ、そう。」 返答こそ、そっけないものだったけれど、いつもだったらどっかに行ってしまうごしゅじんさまが、俺の隣に座ったままでていてくれるだけで、いつもとやっぱりなんだかちょっと違う。 …いいことでも、あったのかな。 「…そういえば、」 「あ?」 「ごしゅじんさまは、食べないんですか。」 お皿の上には、ケーキが一つ。 でも、俺とごしゅじんさまは、ふたり。 首を傾げたら、一瞬目を見開いたご主人様が、次の瞬間小さく笑った。 (…あ。やっぱり、なんかいいことあったんだ。) 「お前って本当、頭悪い犬だよなァ。」 「え?」 「だまってりゃ、ケーキ一人占めだったのに。…ぜってぇ、損ばっかして生きるタイプだな、お前。」 「だ、だって…!」 隣に座っていたごしゅじんさまの手がケーキに伸びて、それを、躊躇いもせずに右手でぐっと掴んだ。 「は、ぐ…!?」 「こら。手まで食うなよ?」 ごしゅじんさまの笑い声と一緒に、口の中に広がるあまさ。 舌の上で溶ける、まっしろなクリームの、とろりとした甘美なあまさと。 「うまい?」 目の前で微笑むごしゅじんさまの甘い声と顔に、俺は思わず息をするのも飲み込むのも忘れて、小さく頷く。 (だってほらやっぱり。いっしょのほうが、 ずっとあまい。) →05 [TOP] |