魔女は、ヘンゼルとグレーテルを美味しく食べるその日のために、二人にお菓子の部屋を与えました。 最初こそ恩恵に素直に預かっていた二人でしたが、後に異変に気づいたヘンゼルは、魔女が自分達を食べるために太らせていたことを知るのでした。 「……。」 「珍しく間抜け面が更に間抜けになってるけど、どうした。」 「ごしゅじんさまは、」 「ん?」 「ごしゅじんさまは、いつか俺を食べてしまうんですか?」 「は?」 思ったことをそのまま問いかけたら、予想外に大きい声が返ってきて、ひいっと小さく声が漏れたのを両手で塞ぐ。 そろり、と視線をやったら、ちょっとだけ寄せられた眉毛が見えた。そんな様子におどおどしながら、そっと口を開く。 「だ、だって、俺にたくさんご飯をくださる、から…。」 「飯?」 「そう、です。」 ぎゅっと抱えていた本を差し出せば、タイトルを見た瞬間、ああ、とでも言ったふうにすぐに興味なさそうに逸らされた。 「つまりお前は、俺が魔女みたいだって言いてぇの?」 「…!!ち、違います!」 「はは、いいっていいって。隠すなよ。」 「ごしゅ、」 「…それで?そのあとは、お前は俺に食われたい、っていうお誘い?」 「へ…?」 にやり、と歪められる口に、嫌な予感。 「うまいもん食わせて太らせて、それから食おうって考えてる、って疑って……つーか、結局食われたいんだろ?」 「あわ、わ、」 「…バカにすんなよ。アホ犬。」 くすくす、顔を隠した掌の間から細い笑みが漏れる。 眼鏡の奥のアンバーが、細められて、それで。 「安心しろって。俺はそんなに、我慢強くねェから。」 美味いものを与えて、大切に大切にして、幸せそうに丸まると太るまで手塩にかけて育てるなんて、そんなまどろっこしいこと。 伸びてきた手が、頬を滑る。 言葉も発せられずに黙り込む俺の目を真っ直ぐに射捉えて、笑っては。 「…最初から美味そうなペットしか、そばに置かねぇよ。」 そういったご主人様の顔が近づいてきて、見開いた瞳ごと食べられてしまいそうな口に、そのままパクリと齧られた。 …俺って、おいしいんでしょうか。 →03 [TOP] |