*御幸様×御幸 自分を弱い人間だと思ったことは無い。 そもそも、日々の生活における苦難や困難は、つまらない日常を楽しいものに変えるために、ある種必要な要素であるとさえ思う自分のどこにそんな脆弱性が隠れているというのか。 なのに。 (…ファンタジー継続中ってどんな悪夢よ。) だがしかし、それは夢でもなんでもなく、間違いなく悲しい現実だ。 はあ…、と、重たく固まった吐息を吐き出すと、どうしたー?と、軽くて流れるような言葉が返って来た。 その不快感に、米神を襲う鈍痛。 これがいっそ夢ならば。 どんなによかったか。 「あるじー。」 「…なんだよ、居候」 「ははっ、居候、って。ひっでぇのー。」 姿は見えないのに、声だけは聞こえる。なんとも不思議な感覚。もう随分とこの違和感とも仲良くせざるを得ない状態が続いてるってのに、慣れることはなく、感じるのはただ純粋な、煩わしさ。 あるじ、あるじと、まるで子供が呼ぶように俺を呼ぶ。 からかいの類かと錯覚するほどの、軽さで。 「いい加減諦めて認めればいいのに。」 その方が楽になると思うケド。 呆れたように、緩む筋肉。まぁもちろんこれも見えないわけだけど。 記憶や視覚、五感や感情に至るまで全てがリンクする存在。それなのに、それは自分であって自分ではない。 そんな奇妙な相手は、けれど確かにそこに存在している。 見えないのに存在してる、なんて、そんな矛盾。 矛盾に象られたそれは、“御幸一也”だと俺の声で言う。 「…だーれが。」 「なぁ、"俺"」 「俺って言うな。」 「俺は俺だもん。」 「……。」 「なにがそんなに気に食わないかねぇ、御幸一也くんは。」 「俺は、自分の、」 「“理解の範疇を越えたことは認めたくない”?」 「……。」 「なんで?って?…そりゃ分かるさ、お前は、俺だからな。」 そのいっそ甘美なほどの呟きが体内を内側から擽って、産毛が粟立つ。 恐怖にも似た、それは。 「なぁ、あるじ。」 紅い舌がペロリと唇を這う。見えないのに、なんで分かるのか、そんなこともワカラナイ。 “それ”風にいえば、“俺だから”なんだろう。 「お前は認めたがらないけど、確かに俺はお前なんだよ。」 その言い方は、聞かん坊の子供に言い聞かせるかのような柔らかさを含む。 返せる言葉も無く、飲み込んだ唾液が喉を下っていく感覚が酷く気持ち悪かった。 その嫌悪感すら、共有する存在。 「…認めないなら、なぁ。」 本来ならば、存在すらしないものに、全身を支配される。 その、いっそ恐怖にも似た。 「――――俺に喰われてみる?主サマ。」 そしてそう、いっそそれは、 快感にも似た、 ―――、 [TOP] |