ご主人様とイヌ | ナノ
subspecies
「調子に乗んなよ、バカ犬」
  「ごしゅじんさまのためなら、ば」


御幸様×瞳孔栄純のおはなし。
どM向け仕様の御幸様と
     敗北主義者の瞳孔君。

生みの親*秋人要様

  + 愛らしい御幸様bot、瞳孔栄純bot



愛逆精神



牙の無い犬はいない。
けれど犬が牙を持つのは、

決して弱いからというわけでは、無い。








俺の犬は、よく鳴くわ、よく吠える。
その上物覚えは悪いし、頭も悪いただのバカ。
変なところで従順なくせに、変なところで意地を張る。

…まぁ総じて言えば、ただのバカ犬なんだけど。


そのバカ犬が、珍しく目に見えて怒りをあらわにして、全身をブルブル震わせてる。

(…なんかしたっけ?)

つーか、“ナンカ”なんて、いつも通り過ぎて思い当たることが多すぎて、全然わかんねぇわ。
どれだけ酷く雑に扱っても、めんどくせぇくらいひっついて来やがるのに、今日に限って一体どういう風の吹きまわし?


「ご、ごしゅ、ごしゅじ、さま!」


…噛んでるし。言えてねぇし。相変わらずブルブル震えてるし。何なのコイツ。
ジロっと睨むみたいに視線を向けてやると、ビクンと細い肩が小さく揺れた。
それでもなぜかすぐにきゅっと唇を噛んで、挑戦的な目を向けて来る。…マジで珍しい。


「…なに?」


発した声が予想以上に冷たくて端的で、発した俺も少し予想外ではあったけど、更に驚いたのは犬の方だったみたいで、一瞬無駄にデカイその目が更に大きく見開かれた。
どうしよう、って顔に思いっきり書いてあるのには気付いたけど、それに助け船を出してやるほど、俺はこいつに優しくない。

それこそ、こいつの大好きな“マスター”や、こいつを甘やかす周りの奴らと俺は違う。
…このバカも、俺みたいなのの何がよくてひっついてくるんだか。


「……っ、」
「んだよ。めんどくせぇな。」
「…ごしゅ、じ、さま、なんて…、」
「あ?」
「ごしゅじんさまなんて…っ!き、きらい、です!」
「……は、ぁ?」


うるっと軽くうるませた瞳で思いっきり睨みつけられる。
どうしてそんな思いつめた表情をしてるのかは知らねぇけど、あまりにも聞き慣れない言葉に、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
思わず聞き返せば、もう一度、「きらい、…です」と、消えてしまいそうな声が返って来た。
その内容に、唖然とする。

(嫌い?)

きらい。
…嫌い?


脳が、処理機能を一瞬失ったみたいに、その意味を理解するのに時間がかかった。
記憶違いでなければ、そんな言葉を、目の前の“犬”に言われたのは多分、初めてだったから。


小さな体いっぱいぶるぶる震わせて、自分が言ったくせに戸惑うみたいに揺れる瞳を見ていると、初めこそ反射的に戸惑ったものの、何だかすげぇ苛々してきて、そのイラつきを誤魔化すように近くのものを蹴ったら、軽かったゴミ箱に偶然足が辺り、大音量が室内に響いた。



「…何言ってんの?お前。」
「ひ、…!」



乱暴に、髪を掴む。
力なんかそこまで入れてねぇつもりなのに、眉を寄せて苦痛に顔を歪めるところをみると、そうでもねぇのかも。


「なぁ、誰に向かってそんなこと言ってるか、分かってる?」
「ごしゅ、じ、さ…!」
「そうだよ、俺はお前の、ご主人様だよなァ?…駄犬?」


嫌い、だなんて。
嫌う、だなんて。
お前が俺を嫌うだなんて。

そんなこと、あっていいはずねぇだろ?なぁ。

俺がお前を嫌うのなら。
俺がお前を嫌いだというのなら。
それが、主従の有るべき形だよなあ?

それが、どんな理由があってなんで突然そんなこと、俺に言うの。バカ犬。



「…最近躾も仕置きもしてねぇから、忘れちまったの?」
「や、…!」
「なぁ、嫌いって何?お前が俺のこと嫌うの?…お前にそんなこと、出来んの?」
「…っ、ひ、う…!」


(嫌い、だなんて。なぁ、お前は俺の犬じゃんか。何しても離れていかねぇ、従順な、)



開いてる手の甲で、頬を撫でる。
小さく小刻みに震えているのが伝わって来る。恐怖、怯え、不安。
親指で唇をなぞったら、カサリと乾いた唇が指の皮に引っ掛かった。

そのままちょっと力を入れて、口の中に指を突っ込む。驚いて目を見開く歯列を、その拍子に器用に割り開いて侵入した咥内に、指が滑り込んだ。
生温かい咥内に、簡単に進入して、勢いで奥まで突っ込んだら、ゴホッと小さく咳き込む音が聴こえた。


抑えるみてぇに、舌を押し付けると、苦しいのか顔がどんどん歪んで行く。
上顎を撫でたら、小さく肩が震えた。



「…返事は3秒以内。教えたろ?」



けれど声が発せないように、舌をがっちりと固定して、クスクス笑う。
必死に声を出そうとしてるのが、吐息の流れで分かったけど、それすら掌握する俺の力の前では、ただただ非力なだけだった。


その様子があまりにも滑稽で、ひ弱で頼りなくて。
口元を緩めれば、悔しそうに涙をポロリと一粒零した目が大きく揺らいだ。


ガリッ、と。


指に痛みが走る。
何事かと思えば、ジン、と突っ込んでる指から緩い痛みが伝わってきて、…噛まれた、って気付いた。



「ふ、ぐ、う…っ!」



その、反抗の色が映る漆黒に。
じわり、じわりと、噛まれた場所から疼くような痛みが合わせて登ってくるの感じて。


(なんだよ、その目。)


思わず、背中が震えた。




「…飼い主に噛みつくなんて、いい度胸だな、お前。」




その絶対的な重圧のかかる声の前で。
自分のしでかしたことの大きさを知ったらしい小さな体が、見たこともないくらい縮こまるのを感じた。
けれど、行動こそ冷静なものの、煮詰まった頭を持て余す俺に、そんなことは関係なく。

ズボリと口から指を引きぬいて、息を突く暇も与えることなく、そのまま腕を引っ張ってその体を一瞬で組み敷いた。




その目に映る、恐怖、怯え、不安。



そして、期待。




(なるほど、ちょっとは“賢く”なったじゃねぇの。)




「悪い犬には、仕置きの時間だぜ?…沢村。」






触れた先にある体が震えたのは。









恐怖よりも、
ただの愉悦ゆえに










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