08
コムイに指示を受けた場所へ急ぐ。そこは既に廃墟と化していた。人の気配などありはしない。代わりに、機械の不躾な殺気があった。
ひとりだけ、私の真っ正面に座り込んでいる人間がいる。30代半ばの男性だ。いや、人間ではない、アクマだ。彼は人間の欠片を持ったまま動かない。人間の欠片。腕やら足やらの、ただの肉片だ。むせ返る程の血の臭気の源はあれか。思わず眉間に皴を寄せた。それにしても、何故人間だとわかる形をまだ保っているのだろう。アクマのウィルスにやられたのならば消滅する筈だ。
《(さっきより数が多い。それからレベル2が紛れてるぞ)》
「了解。――出ておいで」
物陰から姿を現すアクマ。だが数は少ない。どうやら他は隠れているようだ。手に馴染む大鎌を振り回した。まるで紙のように簡単に斬れていく。
粗方片付いたところで、人間の姿をしたままのアクマがケタケタと笑い出した。
「……何?」
答えは笑い声で返ってきた。ケタケタ、ケタケタケタ。不快な機械の音が耳の中で反響する。
苛立ちを覚えアクマの元へ肉薄した。その勢いのまま鎌を振り
翳す。しかしそれは空を斬った。
避けた拍子に、彼が持っていた欠片が落ちた。切り離された腕が足が、力無く地面に横たわる。
「なんでそんなことしてんの」
ふと聞いてみたくなった。レベル2ならある程度の意志疎通は可能な筈だ。
その愚考は当たりだったらしい。アクマはおっさんの顔に満面の笑みを浮かべる。キラキラした目は少年みたいだ。そう、好奇心に満ちたジャンのような。
[キレイ、キレイ!]
綺麗? この死体が? その感性がわからない。
[オレ、ウツ。ニンゲン、コワレル。キレイ、ナイ]
アクマのウィルスでは死体を消滅させてしまう、それは嫌だと。なんだこのアクマは。死体愛好家か。ネクロフィリアか。
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