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「……さっきの」
「うん?」
唐突に神田が口を開いた。ぶっきらぼうだが、どこか言いづらそうだ。
「言わない方がいいか」
「……そう、してもらえると、助かる」
「あっちが本性か」
「あは、は」
「……その目は。ああ、だからか」
そっと目を伏せた。手を当て、それを隠す。意味はない。神田の背に頭が来ているのだ。彼に見えるわけがない。
「……うん、そうだよ。人に好かれようが嫌われようがどうでもいいけど。ああじゃ、日常生活で困るし」
「そうか」
それを機会に無言になった。神田は元々無口だ。私も、強いて言えば口数の多い方ではない。どちらかといえば聞いていた方がいい。そんな2人なものだから、会話になる筈もない。
「神田殿、黎音殿!」
森の出口付近。悲鳴にも似た声が聞こえてくる。この声はリヒト。来るなと言ったのに来たのか。
「す、すぐに医者を!」
「いらん」
「ですが!」
「放っときゃ直に治る。コイツはアクマにビビって腰抜かしただけだ」
あながち間違いでもないような、そうでもないような。ただ語弊がある。最後の最後に、カッコ悪い。リヒトなど気にせずどんどん街へ進んでいく。神田の言葉に呆然と突っ立っていた彼は、慌てておってきた。忙しない奴。
「あの、黎音殿……」
神田の後ろについてくるリヒトとは、当然、向かい合う形になる。首を傾げると、頭を下げられた。何だ、急に。
「すみませんでした! 俺、自惚れてました。探索部隊になれたことに浮かれて、自分の力が認められたと思い上がって……。黎音殿の言葉で目が覚めました!」
申し訳なさそうに頭を下げてくるリヒト。意味がわからない。私はただ思ったままを言っただけ。恨まれる余地はあれど、謝られるいわれはない。どうしたものか。
「……悪いと思うなら。森の中。小屋、燃やしてきちゃったから。燃え移る前に、消火してきて」
「はい!」
元気よく答え、森の中へ走っていく。消火道具も持たずにどうするというのだろう。ああ、火が消えるまで結界装置で囲ってやればいいのか。
こうして、私の初任務は幕を閉じた。
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