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飛散した皿やら調味料やらの中に、それを見つけた。笑みを浮かべる。手にしたのは、菓子用の酒。それをアクマに投げつける。瓶が割れる音がした。あれだけでは何にもならない。稲妻を飛ばす。そこまで威力は強くないが、別にいい。アルコールに引火した。蜘蛛が炎に包まれる。だがアクマに普通の炎は効かない。
[……何のつもり?]
「魔女は、かっそーう!」
地を蹴った。糸が捉えようとするが、すべて外れていく。
――“破邪”
鎌が鈍く光った。横に薙ぐ。切っ先が触れた。甲高い叫び声が部屋を埋め尽くす。さっくりと。ケーキにフォークを刺すように。プリンにスプーンを突きたてるように。簡単に、上下が割れた。ぼろぼろと崩れ出し、やがては炎の中で灰になった。まるで、火刑に処された魔女のごとく。
「……おい」
声がする。少し掠れた、低い、唸るような声。なんだ、まだ居たのか。鎌を持ちあげ、音の方に歩きだす。重症の神田。彼を護るようにして張り巡らされている雷。邪魔だ。そう思うとそれが消えた。魔女は火葬。ならヘンゼルは? 食べてしまおうか。だが生憎、食人の趣味はない。人の肉の味は気になるけれど。
《(黎音、黎音)》
囁き声。身体の動きが止まる。止められる。
《(魔女になる気か、グレーテル)》
ひゅ、と喉が鳴った。がくがくと身体が震える。立っていられない。倒れるように座り込んだ。イノセンスの発動はいつの間にか解け、大鎌は元の小さな飾りに戻っている。息が整わない。冷や汗が背を伝う。気持ち悪い。震える身体を抱きしめる。止まらない。
「……どうした」
「反、動? みたいな、もん、だから。すぐ、治まる、と思う。気に、しないで」
舌打ち。またか。何度目だ。なんとかしようとしていると、神田が歩み寄ってきた。腕を引かれ立たされる。だが如何せん足に力が入らないのだ。自力で立つことは出来ない。そう思っていると、担ぎあげられた。姫抱き? そんなフラグが立つ筈ない。米俵のように肩に、だ。
「神田!?」
「うるせェ。ここから出ようにも、お前、そんなんじゃ歩けねェだろ。それとも焼け死にたいか」
「それは勘弁! けど、腹! 傷は!」
「ほとんど塞がった。死にはしねェ」
「嘘!?」
「キャンキャンうるせェよ。黙ってろ。そもそもお前が火ィつけなきゃ、こんなことにはならなかったんだ」
「う……」
痛いところを突く。確かにやりすぎたとは思っている。だがあの状態の私に言われても困る。
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