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――《(SHU-omi GUO-delrda, SHA-omi METT-Zerda)》


脳内で紡がれた言葉。雷閃の歌うような声。その呪文のような言語は翻訳されない。目蓋の上からでも分かるほど眩い光が放たれた。パン、と何かが弾ける音がする。身体が動く。振り上げた鎌が、重力に従い降ろされる。脆い感触。重さのままに床に刺さった。そっと目を開く。雷の壁が包んでいた。刃の先には、アクマだった灰。頭の中で雷閃が笑う。


《(この辺り。肉眼では見えないほど細い糸が張り巡らされている。1本1本は細くても、束になれば縄よりも強力になる。お前はわざわざそれを手繰り寄せて、自分で動けなくなったんだよ)》


そういうことか。ならば、この壁が糸を断ち切った為に動けるようになったのだろう。


《(お前の狂気。ここでぶちまけろよ。蜘蛛だろうが斬り捨てられるだろう?)》


狂気。あれを。逡巡する。あれは、ダメだ。敵だけならまだしも。神田が居るのに。


《(大丈夫だ。暴走はしない。オレが(たが)になってやるよ)》その言葉に目を閉じた。精神の奥深く。底の底、封のされた場所を暴く。どす黒いそれが吹きあげた。口端が吊り上がる。

壊そう、壊そう? ほら、獲物はすぐそこに居るよ?

語りかけてくる悪魔の声。喉の奥から笑い声が漏れだす。目蓋を上げた。雷の壁はいつの間にか消えていた。目の前には玩具。壊してもいい玩具だ。


[なに、あんた。さっきまであたしの姿見て悲鳴上げてたくせに]


ゆっくり、アクマと神田のいる方へ向かう。一歩一歩踏みしめるように。


「“堅守”」


神田の周りを雷で囲う。糸が切れ、床に膝をついた。


「おい、テメェ……どういうつもりだ……ッ」

「そこに居てよ。じゃないと殺すよ?」


にっこりと。表面だけじゃない、心からの笑顔を贈る。神田が押し黙ったのを見届けて、蜘蛛に向き直った。


「魔女退治はグレーテル()の仕事。ヘンゼル(神田)は黙っててねぇ」

[わざわざサシでやろうってのかい? 自惚れるのも大概にしなよ]


刃を蜘蛛に突きつける。糸が吐き出された。雷を生み出しそれを灼く。大きく跳ぶ。蜘蛛の背に着地した。目のすぐ横を狙い鎌を振り下ろす。絶叫。振り落とそうともがく。足場が揺れ、キッチンに向かって叩きつけられた。背中に衝撃。息が詰まる。痛い。痛いなあ、もう。


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